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異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
第三章:師匠と先生と大樹の秘密【帝歴716年】
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幽霊と分析と精霊格闘術

「じゃあドリーの戦力を披露しようか。とはいえ、相手が居ないんじゃ分からないわよね・・・・・・仕方ない」


 宿屋の女将さんには広場の使用許可をもらっているけどいろいろ対策しないと迷惑がかかるからね。合わせてやっておこう。


「コール、"精霊庭園(エレメント・ガーデン)"、コール、"精霊遊戯(エレメント・プレイ)"」


 広場の中心に立った私足下から魔法陣が広がっていく。

 広場をちょうど覆う形で広がった魔法陣から赤青緑黄と鮮やかな燐光が浮かび上がる。4属性の光で作られたドーム。精霊庭園。

 これは言ってしまえば結界の一つだ。

 水のベールで空間を覆うことで外部への影響を抑え、火の陽炎魔法で外部から見ると中の様子が分からない。

 また、風属性の魔法で音を遮断し、地属性の魔法で地面に伝わる振動を抑えている。


 普段森に居たらほとんど使わない魔法だが、それぞれの属性の特徴研究をしていたらできあがった魔法だ。

 まだここまでしかできないが、闇魔法を取り入れて空間の張も考えている。

 そういえばサリファという光魔法の使い手も居るんだから時間魔法の性質や特徴を計らせて貰うのもいいかもしれない。

 昔、漫画で読んだ時間を引き延ばす空間というのも可能だったり・・・・・・


 空間の広がりが収まると今度は黄色の燐光が一カ所に集まっていく。

 今回は地属性の精霊が力を貸してくれるようだ。

 精霊遊戯とはその名の通り、精霊が力を貸してくれる魔法であり、精霊庭園内でのみ使用可能な限定魔法。

 集まった精霊は人の形を作り、顔のない人形のようだったが、手や足の感覚を確かめるように握っては開いてを繰り返していた。


「よし、準備完了、と」

「あ、あの、先生? この魔法は一体・・・・・・?」


 呆然と魔法を展開するのを見ていたルルとサリファがあんぐりと口を開けていた。

 初めて見せるししょうがないかもしれないけどね。


「簡単に言えば周りからは中が見えない結界で、音も振動も漏れないようになっているフィールド。で、あれがドリーの組み手相手の土精霊さん」

「土精霊って意思があるんですか?」

「普段はないわね。でも少し大きな精霊には意思が発露することもある。私のエクリプス・ヘリオスの精霊も多少は自我を持っているし」

「なるほど。とりあえず場所と相手が用意されたと思っておきますね。後で仕組み教えてくださいよ?」


 まぁ、いいか。弟子だしね。私が頷くとルルはそれ以上追求するのを辞めた。


「ひとまずドリーさんの力というのを見てみましょう!」


 サリファはと言うとどうやら考えるのを辞めたらしい。

 賢明というか難しいことは考えられないようだ。


「じゃあドリー、土精霊相手に組み手をよろしく。マナは地脈から供給されてるだろうから大丈夫よね?」


 ドリーはコクっと一回頷くとすぐに構えをとる。

 左手を肘から曲げて腰にピッタリと付け、右手の拳を胸の前で浮かせるように、右足を前に出して呼吸を落ち着かせる。

 拳はすぐに握れるように軽く物を掴むように握る。


 対して地精霊は両手の肘を顔の前に寄せてガードの構えをする。

 どうやらこちらの意図を汲んでドリーの型に合わせてくれるようだ。


 ドリーは一呼吸すると身体中のマナを迸らせる。緑の燐光に包まれながら小さな魔法陣が複数展開した。それは手の甲に、両肘の後ろに、膝に、踵に、身体の間接に当たる部分に小さく展開されている。

 まずは後ろに引いていた左の踵に光が集まる。

 瞬間、飛ぶように地精霊に向けて駆ける。地精霊の前で静止し、相手がそれに気づくのと同時に左の肘に展開した魔法陣が拳を加速させる。

 加速中に左拳の魔法陣が風の障壁を作り、相手に衝突した瞬間に相手方向へ突風を噴出させる。


 だが流石は地精霊。大地と自分の足を繋げて後方へ吹き飛ぶことは避けた。

 だけど、


「それじゃあ、ドリーは止まらない」


 ドリーは吹き飛ばなかった地精霊を気にすることなく即座に次の行動に出る。

 右肘が光れば右の拳が、左の肘が光れば左の拳が、交互に、流れるように撃ち続けられる。時折混ぜられる左右の足の回し蹴りが前から横からと地精霊へと浴びせられる。


 ラッシュを引っ込めて再び距離を取るドリー。一呼吸を置いて全身のマナを活性化させて魔法陣へと供給していく。

 より一層輝きを高めて気合いを入れるドリー。


 踵の魔法陣から爆発のような風が吹き荒び、ドリーの姿が一瞬消える。

 その姿は再度地精霊の居た場所にあった。両肘を後ろに下げた状態で今まさに肘の魔法陣の風が解き放たれようとしている。


 その輝きは刹那の出来事だった。突撃した勢いを殺さずに相乗して解き放たれた拳は地精霊の頑丈な地盤さえも無に帰すように強力な一撃となってガードの上から吹き飛ばす。

 衝撃の瞬間に解放された拳の風圧が小さなドリー拳をより大きな力へと昇華させた。


 地精霊は吹き飛ばされ、精霊庭園の壁へとぶつかるとその光を霧散させた。


「はい、お疲れ。ドリー。またキレが上がったんじゃない?」


 フルフル。汗を拭いながらそんなことはない。まだまだだ。と言わんばかりに手と首を横に振る。


「あなたもありがとうね。大丈夫だった?」


 霧散していた地精霊が周囲に集まって小さな塊になると、フヨフヨと浮いている。

 ドリーがうんうんと話を聞くと、"問題ない。むしろ楽しかった。また何かあれば呼べ"と空中にアルル文字を書いて伝える。


「そっか。ありがとうね。ばいばい」


 そのまま地精霊は大地へと染み込むように消えていった。


「と、ドリーの力だけどこんな感じ。分かって貰えた・・・・・・?」


 振り返って二人の様子を見るとまた私の魔法を見たときのように呆然としている。


「ちょっと、二人とも。今のちゃんと見てたの?」

「あ、はい。見てました。スゴかったです。というか、え、なんであんなに細かく魔法陣を展開して動けるんですか?」

「ドリーさん! スゴいですね!! どうしたらそんなに格闘強くなるんですか!?」


 二人はそれぞれの理由で驚いていたようだ。ルルは魔法陣の展開、サリファはドリーの格闘能力の高さにか。


「うーん、私から説明できることとしては、格闘能力はそれぞれの精霊族に伝わる技術とかそういうのではなく、昔お世話になった格闘家の人から教わったんだって。それ以来、森の魔獣の相手をしている内の精錬されて今の型になったそうよ」


 実際は何十年と年月をかけて培ってきた技で、我流とはいえ基礎をちゃんと納めているんだからこれくらいにはなるんだろうなというのが私の感想だ。


「魔法陣の方はね。私が小さくできるように改良したのもあるけど、これは私にもできないことなのよね。この魔法陣は身体の節々に展開するんだけど、それぞれ一つにつき一体の小精霊を付けていて、ドリーは動かす魔法陣の精霊に命令して動かしているのよ」


「でも戦闘中ドリーは一言も・・・・・・」

「精霊族は元々声帯がないから喋らないわよ。精霊同士はお互いにテレパシーと良いのか、念話という形でやりとりができるの。幽霊族の私では精霊とリアルタイムで会話はできないから少し難しいかな。命令するだけならできるんだけど」

「なるほど、それがあの魔法陣の原理なんですね・・・・・・風の魔法陣のようですけど具体的には?」


「だいたいは風を放出する魔法を組み込んで、威力や方向は精霊任せね。拳や蹴りを加速、減速させたり、途中で軌道を変えたり、風を放出して中距離攻撃にしたりと割と万能。ただ、ドリーとの相性で他の属性は使えないかな。地属性は相性いいんだけど、技に組み込む相性が思いつかなくて未実装」


「なるほど、だいたい理解しました。これなら前衛として問題ないですね」

「そうなんだけど、私たち4人じゃない? 前衛1、後衛3はバランス悪いんじゃないかなって。昔はシャルクとアーネが前衛に居たからなんとかなったけどね」


 魔女なのだから後衛ばかりなのは仕方ないとして、果たしてこれでなんとかなるのかどうか。


「これでドリーの戦闘能力は問題ないと分かって貰えたと思う。後は・・・・・・」


 もう一人、今度は私が把握しなくちゃいけない人がいる。

 ジッと見つめる先にはキラキラとした眼でドリーに尊敬のまなざしを向けるサリファが居た。

 ドリーはそれを苦笑いで受けている。

 こちらの視線に気づいたサリファがキョトンとした顔をした。


「? 私ですか?」

「そ、次は貴方の力が知りたいの。光魔法が使えることは知っているけれど、戦える?」

「もちろんですよ! 任せてください!」


 胸を張るサリファ。大丈夫かな。

 一先ずはその力、見せてもらいましょうか。


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