幽霊と侵入と魔法陣の設置
「とりあえず、ドリーのマナ供給のために要石と魔法陣の設置が必要だし私は先に王城に行ってくるわ。ドリーの件はその後に見せるわね」
「あれ? シャオリーさんどこか行くんですか? おうじょう?」
目覚めたばかりで話が頭に入ってこないのか、サリファは眼を擦りながら確認する。
「ちょっとね。ルル、ドリー。サリファには寝ている間に話したこと説明しといて。帰ってきたらドリー、貴方の力を見せて上げましょう」
ドリーは腕を捲り上げて任せろ! とポーズするが残念ながら力こぶはない。
「あ、先生。行くならこれを」
ルルが手渡してきたのは手紙だった。
「これは?」
「ヴィリアムお兄様への手紙です。会うと思ったので先に手紙に伝えたいことをまとめておいたんです」
「用意のいいことで」
手紙を受け取って懐へ仕舞う。まぁ会えれば会っておこうと思ったから別にいいけど。
「じゃ、行ってくるわね」
腰のエクリプス・ヘリオスへ手を当てて魔法名を唱える。
一年前と同じように。
「コール、"幽闇の衣"」
魔法の光に包まれる。これで周囲からは私の姿は見えなくなっているはず。
「!? シャオリーさんが消えた!?」
「はいはい、サリファさん。あまり驚かないで。これも魔法ですから」
うん、無事消えているね。
さて、じゃ、行きますか。
今度は部屋の扉を出て階段で下へ降り、宿の玄関から出ていく。
さて、今の時間的にはまだ夜には早い。
とはいえこの世界の夕暮れは早く、夜が長いから帰る頃には暮れているだろう。
少し、急ぐか。
浮き上がって飛んでいく。風を切るように飛ぶ。切るようにというのは実際私は透過しているため風の影響を受けないし誰も私に気づかないから問題はない。
あっという間に王城の門が見えてきた。
さて、まずは王子にあいさつに行くか。
公務とかしてなければ自室にいるかな?
勝手知ったるとまではいかないまでも道筋は覚えていたのでヴィリアムの部屋へはすぐについた。
中を覗くとヴィリアムがちょうどテーブルで読書をしているようだ。
そっと近づいて後ろで魔法を解除する。
「お久しぶりですね。シャオリーさん」
「あれ? 気づいてた?」
「お忘れですか? この部屋には魔法無効化の魔法陣が設置してあるんですよ」
「あーあーそうだったそうだった。ということはまた扉潜ったところでバレてたか。うっかりだ」
「まぁそれは置いといて。今日は何の用ですか? しばらく前にシュナスさんも神王都へ来たみたいですし」
「知っていたのね。師匠にはあったの?」
「いいえ、ただ、フィーアさんがアーネさんに会ったと言っていた時にシュナスさんが来ていると言っていたので」
アーネはフィーアに会いに来ていたのか。ということは、私たちにばれても構わないということ意図を感じるな。
「ま、私は師匠を追いかけてきたんだけど。神王都でもやることがあったからね。はい、これ。あなたの妹からよ」
「ほう、ルルティナから。受け取りましょう」
懐から手紙を出してテーブルの上に置く。それを開封して中を確認していくヴィリアムは読み終わるとテーブルに置いた。
「事情はだいたい把握しました。魔導王国へ行かれるのですね? 帝国を通らないルートだと無断入国になりますが、そのことについて私から手助けできるでしょう。明日また来て下さい」
「あぁ、やっぱり? それでもいいかなと思ってたけどなんとかしてくれるなら助かるわ」
「いいえ。代わりに向こうで起きた出来事を全て報告してください。シュナスさんにも魔導王国で得た情報は流してもらう話になっていますからね」
「それは一年前の報酬の件?」
「えぇ」
やはり師匠の報酬は魔導王国の情報だったか。
「それで? 他にも用事があるのでしょう? 私で分かることであれば手伝いますよ?」
「いいの? 貴方も忙しいのでは?」
「いえいえ、私はそこまで忙しくないですよ。何せ第二王子ですから。公務のほとんどはヴィルハルト兄さんがやっていますからね」
王族もいろいろあるんだろうなぁ。
「そ、じゃあ遠慮なく。王城での目的はとりあえずはシャルクとフィーアに会うことと、王城の地下に案内、してもらえる?」
「……地下、そうですか。知っているのですね? またはルルティナから聞きましたか?」
「感じた。というのが正しいかしら。深霧の森は放射点だからね。大きな場所はだいたい分かるわ」
「なるほど。納得です。ちなみに何をするか確認してもいいですか?」
「手紙に書いてあったかもしれないけれど、要石と魔法陣の設置を。用途は転移魔法陣。見返りは転移魔法陣の仕組みを公開するわ。貴方たち限定で」
「……いいでしょう。用意をするのでそれも明日で――」
「今からでお願いできない?」
「急ぎなんですか?」
「急ぎよ」
ヴィリアムはしばらく考えていたが、ため息を一つ付いて立ち上がった。
「仕方ないですね。じゃあ今から行きましょう。案内します」
◆
ヴィリアムに案内されたのは魔法図書館だ。
場内では姿を再度隠してヴィリアムに付いていく。
「もう姿を現しても結構ですよ」
幽闇の衣を解除して姿を見えるようにする。
「どうしてここに?」
「それはですね」
ヴィリアムは図書館の奥へ進むととある本棚の前に立ち、いくつかの本を出しては入れてを繰り返す。
「まさか、本の出し入れする順序で扉が開くとかそういうの?」
「え? あぁ、違いますよ。ちょっとどの本か忘れてしまったので……と、これだ」
ヴィリアムが取り出したのは白いカバーに金で刺繍された高そうな本。
「これが鍵になっていましてね。中身は重要ではないのですが、王族がこれを持つことが条件になっているんです」
ヴィリアムはさらに奥へ進んでいく。するとそこには大きな扉があり、そこの前にヴィリアムが立つと淡く扉が光る。
手に持つ本も同じ色に光りだして、ゆっくりと扉が開かれる。
「どうぞ、この先です」
中に入るとそこは広い空間で中央に宝玉が設置してある。
周りのマナの流れを辿るとアレは地脈の流れを制御しているものらしい。
「ここがこの王城の地脈点としての管理神殿です。基本は王族しか入れないんですよ?」
「それならどうして案内してくれたの?」
「父上からも言われてましてね。貴方が何か要求してきたら出来る限り叶えるように、と」
ここで一年前の借りを返す。ということか。
「そ。それならありがたくやらせてもらうわね」
宝玉の近くに要石を設置して魔法陣を展開する。範囲は峠で設置したものに接触するくらいの大きさで……
「大地に還り、大地より生まれ、巡り、廻る力の輪。今ここに束ね、未来あすを繋ぐ道を照らせ。我臨むは大地の道。行く道、往く道、さぁ――」
「天狗道」
流石に何度もやっているから慣れてきた。
とりあえずこれで地脈の力をドリーへ送ることが出来る。
「ふぅ、終わったわ」
「もう終わったのかい?」
「えぇ」
私は念じて近距離の転移をしてみせる。
瞬時にヴィリアムの後ろへと転移し、肩を叩く。
「お? おぉ! なるほど。これは高速移動とかではなく?」
「一応転移よ。これで深霧の森へも転移ができる。まぁ、私だけだけど」
「汎用性はないんですね。とりあえず転移魔法陣の完成、おめでとうございます。後で教えてくださいね?」
「約束だからね。さて、フィーアとシャルクに会ってこようかしら」
「あ、フィーアさんとシャルクさんは今日は非番で城には居ませんよ。明日出直したらどうです?」
「そうなの? じゃあ明日また来るからもろもろよろしくね」
「えぇ、お任せを」
そのままヴィリアムとは別れて設置した魔法陣を使って宿へ転移する。
◆
「わわっ!? シャオリーさんが今度は急に現れて!?」
「あ、お帰りなさい。先生。無事設置できたようですね」
驚くサリファと冷静なルル。ドリーは我関せずとニコニコしている。
「ただいま。さて、さっそくドリーには力を見せて貰いましょうか。マナは戻ってる?」
ドリーはコクと頷いて立ち上がる。やる気満々のようだ。
「先生、本当にドリーは戦えるんですか?」
「そうよ? ドリアードの精霊格闘術、あの森の魔獣相手でも負けないくらい強いのよ? 伊達に一人であの森を歩けるわけじゃないわ。精霊族とはいえね。ここだと狭いわね。宿の中庭を借りましょ」




