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異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
第三章:師匠と先生と大樹の秘密【帝歴716年】
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幽霊と休息と今後の方針

盗賊連合にて情報を収集した後、街観光から帰って来ていたルル達と合流し、宿屋の部屋に集まる。


「さて、情報は得られたのでこれからの方針を決めたいと思う」


部屋にはルル、ドリー、サリファの3人がベッドやイスに腰掛けている。

3人とも途中で買ってきたのか屋台で売っていそうな串焼きを食べながら話を聞いて……あれ美味しそうだな。


「先生の分もありますよ、はいどうぞ」

「ありがと、でもとりあえず話を進めるわね」

「はい! よろしくお願いします!」


サリファが元気よく答える。元気だけはいいなぁ。


「まずこの後の予定だけど、師匠達を追うことにします。目的地はカナーン村」


懐から鈴を取りだして音が鳴る方を探る。

鈴はちょうど西南西の方角でチリンと音を立てた。


「西南西、カナーン村のある方面と一致している。間違いなく師匠達はカナーン村方面へ行っているようね」

「シャオリーさん、その鈴は?」

「あぁ、道中見せた事はあっても説明はしてなかったわね。これは魔道具……いえ、神具に近いかもしれないけれど、登録した人の方角に対して音が鳴る鈴よ。師匠限定でしか使えないけれど」

「へぇ! すごいですね! でもどうしてそのお師匠さんだけに?」

「色々あってね。私と師匠の加護は神獣ヴィロ様の加護なんだけど、これはヴィロ様から貰ったからその影響かも」


私が異世界から転移転生していることは一応秘密にしておく。

ルルにも私は精霊族とのハーフで幽霊族、としか伝えてないし。


「なるほどなるほど! ではお師匠さんを追いかける方針ですか。すぐに出発です?」

「いや、神王都でやらなきゃいけないこともあるからもう少し先かな。多少遅れても問題はないから」

「と言うと? 盗賊連合から仕入れた情報に何か?」


流石ルルは聡いな。


「その通りだよ。まず、師匠はこの町で盗賊連合、漆喰の牙に接触をしていた。そしてその目的地がやはり、風雷山脈を越えるためにカナーン村であるだろうことは分かったよ」

「なるほど。じゃあ私達もカナーン村へ向かうんですね」

「いや、実は忠告も受けてね。カナーン村では祭事中余所者を近づけないらしい。そしてその祭事が行われるのは7日後。カナーン村までは3日で行ける。予め行くなら途中の村で宿泊するか野宿することになる」

「それは、大変ですね。我々を泊めてくれる村があるかどうか」

「野宿でもいいけど、出来れば宿に泊まりたいかな。とりあえず3日で着くというなら余裕を見て4日前には出発したい。逆算して、3日は猶予があるから準備は入念にね」


神王都でやらなきゃいけないことは結構ある。まずやらなきゃいけないのは


「先生、とりあえずは要石を設置する場所を見つけないと」

「そうね。私もそう思っていた所」

「そういえば宿場町でも野宿した峠でも人が通らなそうな所に行ってましたけど、何をしてたんですか?」


サリファにはまだ話していなかったなぁそういえば。

ちょっと迷ったけどこれから旅をする上では知っておいて貰わないと困るし、仕方ないか。

一先ず連結型転移魔法陣と地脈の説明を簡単に済ませる。


「ほえー! そんなことが出来るんですか!? シャオリーさんってすっごい魔女なんじゃ……」

「先生が規格外なのは同意です。正直私もある程度のことは予測していましたがこればかりは本当に驚きましたから」

「ルル、言い過ぎ……とは言えないか。自分でも分かってる。でも自分が出来ることをやらないなんて勿体ないじゃない?」

「出来ること自体がすごいんですけどね……」


「まぁ要石を設置する場所はこの神王都において決まってるから後で私が設置してくるよ」

「神王都ですからね。あそこしかないでしょう」

「? そんなふさわしい場所があるんですか?」

「そりゃもちろん」

「地脈が通り、大きな力が底に眠る場所」

「「王城の地下」」


ルルと声が重なる。やはりルルも気づいているか。


「あ、あの、王城ってそんな簡単に入れる場所じゃ……」

「別に先生は入場フリーパスですしそもそも先生を止めることは誰にも出来ないですから」

「フリーパス? その、シャオリーさんって本当に偉い人じゃないんです?」

「私は偉くないわよ。むしろこっちのルルの方が」

「え?」

「そういえばルルティナとしか名乗ってませんでした。私の名前はルルティナ・アルリオン。アルリオン神王国第四王女です」


王族らしく気品ある礼をするが、その見た目がただの町娘だからかアンバランスだ。

でも素朴な町娘なのに妙に似合っているのは育ちの良さが伺える。


「お、お、王女様!? ルルちゃん王女様だったんですか!?」

「あなた、今日は驚いてばかりね」

「だ、だって!」


ふと思いついて浮遊しながらサリファの顔に手を当てる……ようにしながら頭を透過した。


「ひゃう!? 手、頭、すりぬけ……!?」

「驚きついでに私も自己紹介。幽霊族、ってのは説明したかもしれないけれどこれが私の種族特性。マナを使わない飛行能力と物や人をすり抜ける透過能力。堅牢な城だろうと人の壁だろうと私の前ではフリーパス。これがルルの言っていた本当の意味よ」


「あ、あわわわ……」


ボスンッと後ろのベッドへ倒れ込むサリファ。

流石に驚かせすぎたか。とはいえ知っていて貰わないと今後困るしなぁ。

横からドリーがやってきて倒れたサリファに膝枕をしてあげている。


「ごめんねドリー。しばらくサリファを見ていて」


ドリーは頷きサムズアップする。

ホント好きだよね、それ。


「さて、私は王城に行きつつ要石の設置とフィーア、シャルクに会えたら会ってくる。物資の買いだしや情報収集はルルに任せるわ。ドリーも手伝ってあげてね」

「任せてください。情報収集というのは?」

「師匠のことはとりあえず置いといて、魔法ギルドや冒険者ギルドでクエストや魔獣の情報を。道中ほとんど魔獣にも襲われなかったけれどこれから行くカナーン村方面は街道もそこまで整備されていないらしいから野生の魔獣が出てくる可能性があるわ」

「なるほど、確かに注意するべきですね。分かりました」


魔獣戦。以前のようなドラゴンと戦うことなんてほとんどないだろうけれど、風雷山脈に近づくと強力な魔獣が出ると聞く。用心に越したことはない。が、


「……改めて見るとこのメンバーで戦えるのかしら」

「え? 先生の力があればそこいらの魔獣は相手にならないじゃないですか? あの森の中の魔獣を相手にできるんですから」

「いやー多分大丈夫だと思うんだけど、私、ルル、あと多分サリファも魔法、後衛系じゃない? 前衛が足りなすぎるんじゃないかって」

「確かにそうですね……あれ? ドリーは数に入らないんですか? 精霊魔法も後衛じゃないですか?」

「あれ? ……あーそっか。ルルは知らないのか」

「知らないって、何がですか?」


そっか。確かにルルが来てからドリーは外の森へ出てないからなぁ。


「ドリーはね、後衛じゃないわ。近接特化のバリバリの前衛よ」

「…………え? えぇえええええええ!?」


お、この驚き方は本当に驚いている時のルルだ。

本当に知らなかったんだなぁ。


ドリーを見ると驚いているルルに驚いて眼を見開いている。


「う、うぅん……あれ……私……?」


その声に起こされたのかサリファも眼が覚めたようだ。

うーん、とりあえずドリーの戦闘能力については説明した方がいいだろうなぁ。

一先ず王城で要石を設置して魔法陣を設置したらにしよう。






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