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異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
第三章:師匠と先生と大樹の秘密【帝歴716年】
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幽霊と交渉と情報の価値

「ほほうほう、そういう情報がお望みでしたか」

「持っているのでしょう? 恐らく件のシュナスかアーネ、どちらかが貴方達に接触したはず」


 表情に出さないようにカマを掛ける。

 可能性はあるにしてもアーネなら王城のフィーアやシャルクに連絡を取っている可能性もあった。

 だけど彼らに悟らせないようにするのだったらここに接触を持ってもおかしくは無い。


「なるほどなるほど、そこまではご存じでしたか。えぇ、構いません。お話しましょう。まずは前金として金貨1枚から」


 小袋から金貨を1枚取り出してテーブルへ乗せる。


「結構。では先に接触したかについてですが、えぇ、その通り。ディ・アーネは我々へ接触してきました」

「やっぱりね。その内容は?」


 スッとシングは指を3本立てる。

 それを見てから私は小袋から金貨を2枚取り出してテーブルへ乗せる。

 シングは首を横に振るので、間をおかずに銀貨を5枚、追加で乗せる。


「……いいでしょう。貴方は分かっている人だ」


 シングの口がニヤリとにやける。

 交渉の段階で相手が要求してきた価格を値切らずにそのまま出せば、侮られる。

 どんどん要求額が増えて行く。情報とは一定の価値ではない。

 情報の価値はその人が求める需要によって計られる。

 ある人には価値がなくても、ある人には価値がある情報がある。

 それを見極めて高値で売るのが情報屋という家業だ。


 もっとも、私の知る情報屋はこいつらしか居ないけれど。


「ここまでは良いでしょう。合格です。では、貴方が求める情報についての価格をお伝えします」


 指を一つ立ててシングは語り出す。


「一つ目、ヴィ・シュナスの軌跡と目的。えぇ、これは私どもも把握しておりますとも。金貨8枚です」

「二つ目、ディ・アーネの神王都での行動。こちらも把握してありますとも。金貨3枚です」

「三つ目、カナーン村の祭事について。これはまぁ、情報としての価値は低いですね。金貨1枚でいいでしょう」

「四つ目、ヴィ・シュナスが我々に求めた情報。これは高いですよ? 金貨20枚戴きましょう」


 最後に指を4本立ててシングはニヤリと笑みをこぼす。

 なるほど、合計で金貨32枚。先に金貨3.5枚分払っている。だが、


「四つ目のシュナスが求めた情報。これを先に貰う。金貨25枚で」

「ほう? なぜそこから? それに5枚も上乗せするとは?」

「その20枚にはシュナスが混ぜた口止め料も入っているのでしょう? この5枚はそれも踏まえた上で私からの口止め料。私が接触したという情報をシュナスに流さないで貰いたいの」

「ほっほうほう、なるほどなるほど。私どもがシュナスに情報を流す契約をしていると? そう思っているんですね?」

「そうね。でもどうであろうと構わない。していようとしていなかろうと、これは私が持ちかける契約。どう?」

「面白いですねぇ。では金貨5枚は口止め料ということでお受けしましょう」


 クックック、とシングは肩を上下させながら笑った。

 多分師匠は私が追いかけてくることも予想しているはず。

 なら追いつくためには出来るだけ師匠に情報を渡さないようにしないと煙に巻かれたように逃げられる。


「さて、ヴィ・シュナスが求めた情報は2つあります。20枚貰っていますからね。中身まで話しましょう」

「よろしく」

「はいはい。では一つ目、彼女は魔導王国の現状を知りたがっていました。それなりに情報筋から得ていたようですが、我々が提供したのは裏の情報も含めてです。えぇ」

「裏の情報?」

「はい、魔導王国で政変があったのはご存知ですか?」

「えぇ。エンディミオン先王が退位されて新しく魔王になったのが」

「アンブール」


 その交代劇に関しては師匠が話してくれた。

 サラティエ王女から聞いた話とその後の調査でアンブールが即位したことが分かった。

 これはサラティエ王女が外交で行ってる間に起きた出来事で、まだ公表されていなかったが、その数日後、全国に向けて即位の経緯が明かされた。

 エンディミオン先王は病気のため僻地で静養する、老い先も短いためこの機会に息子であるアンブール皇太子へ王位を譲る、と。


「このアンブールという男の情報を求められたのでな。調べていたことを話した。この男は幼いころより力で他を屈服させる魔導王国の中に居て武と覇を唱える異端児だった。故に一部の国民には指示されていたが魔導王国は魔法の力が高いものが上位に来る。王位継承権があっても他の王子や王女が即位すると思われていたんだ。だが」

「アンブールが即位した……彼の王位継承権は?」

「魔導王国に序列はない。王位の継承は先王が次代を決める。意義を唱えるものには次代の王が魔導決闘を挑むことが出来る。王位継承権のある者だけだが」

「魔導決闘?」

「所謂魔法による決闘だ。武を使うことは禁じられた1対1のな」

「なるほど、アンブールが即位したことを見ると、アンブールはそれに勝利した」

「察しがいい相手は好きだよ。その通りだ。アンブールはどうやったかは知らないが魔法の腕で他の並々ならぬライバルを倒した。先王が指定した王子さえも倒してな」


 それは、何かがあるに違いない。

 魔法は一朝一夕で伸びるものじゃない。

 私のように効率化でもしない限り、新しい魔法など早々生まれないのだ。

 生半可な魔法じゃ他の継承者を倒すことはできないだろう。


「シュナスはアンブールのことも気にしていたが先王、エンディミオンについても聞いてきた。彼が病気で倒れるなどとは、ってね。残念だが我々でも先王の病気の原因までは突きとめられていない」

「そうなの」

「一つ目はここまでだ。さて、次だが、シュナスはカナーン村の祭事の日付を知りたがった」

「それは予想通りね。いつ?」

「7日後だ」

「ここからカナーン村までは?」

「馬車で3日程で着く。道中は街は無いが村が点々としていてな。カナーン村は風雷山脈に一番近い村だ」


 3日か。師匠達は既に神王都には居ないだろう。

 どこかの村で泊まりながら行っているか、カナーン村に行っているか……

 鈴の力で村を追い掛けてもいいけど最終的な目的地はカナーン村だ。

 なら私達はまっすぐに行ってカナーン村で待ち伏せするべきか。


「ん?」


 ふと前を見るとシングが指を一本立てている。

 小袋から更に金貨を1枚出してテーブルへ置く。

 それを確認するとニヤリと笑ってからシングは小声で話しだす。


「これは忠告ですがね、カナーン村に泊まるのは止めた方がいい」

「? どうして?」

「この時期はカナーン村で祭事があるが、それは村人だけで行う秘め事だ。外部からは宮廷魔術師しか呼ばれない。部外秘ってやつさ」

「なるほどね、ならば?」

「あんた達の目的は分かっている。山脈を越えるんだろう? 知っていると思うが祭事中のみ山脈を越えることができる。だから」

「他の村に泊まりつつ、野宿等でタイミングを見計らって登る、か」

「その通りだ。幸い村人は村に入らなければ何も言ってこない。山脈を抜けるだけなら気にしないだろう」

「祭事ってのは何をやっているの?」

「そいつは教えられないな。これは喋れない情報ってやつだ」


 まぁいいか。私としては通れるならばそれでいい。


「私としては以上ですね。他に聞きたいことは?」

「もういいわ。ありがとう」

「本当に? ディ・アーネのことについては?」

「それは実は他に当てがあってね。ここで聞かなくてもいいのよ。聞きたいことは聴けたから」

「ふふふ、私も楽しい交渉でした。またおいで下さいませ。歓迎しますよ。いいお客様はね」

「これからも頼りにさせてもらうわ。それじゃあね、盗賊さん」


 帰り際に銀貨を5枚テーブルに置く。

 コレで支払った金貨は30枚。

 一年前に王様から貰った報奨金が残ってて良かった。

 高かった気もするけど、まぁ、必要経費として割切ろう。


 ドアを開けると先程居たフードの奴らが居なくなっていた。

 バーの男に一言礼を行って地上へのドアを開ける。


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