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異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
第三章:師匠と先生と大樹の秘密【帝歴716年】
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幽霊と神託と山脈の抜け道

「神託?」


 白の燐光は初めて見たけど闇魔法使った時の黒の燐光に似ていた。

 なるほど、光魔法っていうのは本当みたいだ。それに時間、か。

 腰のブックホルダーに納めたエクリプス・ヘリオスに手を当てる。

 この中にも闇魔法、その中でも空間魔法がいくつか入っている。

 闇の空間魔法に光の時間魔法……


「はい! あたしが光神アルヴ様より賜った魔法です!」

「それは、何が出来るの?」

「神託は先の未来をこの神具、クオリアに映し出す魔法です! 見たい未来が見えるわけではなく、アルヴ様がいくつかの未来を見せてくれるその光景を選び取り、覗かせてもらう。そういう魔法です!」


 サリファは左手に持った透明なカードの束を前に出す。

 これが神具、クオリアか……

 神具は所謂魔道具カテゴリーに入っているが、これは神の力を借りることで魔法を使うことができる道具だ。

 基本は神様から直接授かるもので、代々受け継がれたもの、偶然、必然の出会いでもたらされたもの、様々だ。


 実はこのヴィロ様の鈴も神具扱いだったりする。

 神様から直接付与されたものだし、マナを使うとはいえ、人探しの魔法を単体で発動できるのだから充分な性能だ。


「これはあたしが聖職者になった時に、初めて使った光魔法のマナが形になった神具で、神託はこれを使わなければできません。そして神託で見た未来は絶対に起きる未来。例外はありません」

「それじゃあ今見た未来はなんだったの?」

「はい! あたしとシャオリーさんが魔導王国へ風雷山脈を越えて入国する光景でした。つまりあたしはシャオリーさん達と同行して、あの山脈を越えるということです!」

「なるほど、それで同行していいかの許可を取ったのね」

「いいえ? 違いますよ?」


 え?


「神官様は仰いました……『サリファよ。神託のことは信ずることができる仲間にみ打ち明けよ。無暗に広めてはならぬ』と」

「今眼の前で喋りまくってるじゃない」

「だから、同行の許可を取ったんですよ? 同行する、旅の仲間……ほら! 仲間じゃないですか! いやー仲間じゃないと話しちゃダメとか神官様も大変なことを仰る」


 ……そんな簡単な条件で教えて……あぁ、そうか。この子、人に騙されたことがないんだ。

 世の中は善人しか居ないとでも思っているんだろうか……思ってるんだろうなぁ。

 はぁ、こういう子、放っておけない性格なのも、アルヴには見抜かれていそうね。

 神託とは納得だ。これは神様も放っておけないほど、純粋な子だ。


「いいサリファ。これから仲間になるに当たって、一つ約束しなさい」

「約束ですか?」

「私の許可なく神託のことを口外しないこと。仲間でもね」

「はい! 分かりました! シャオリーさん!」


 ニカっと歯を見せて笑顔を見せる。うぅ、まぶしい。


「とりあえずは旅の同行を認めますが、私達にも目的があります。人を探しながら魔導王国へ向かっているから急ぎの旅なら――」

「あ、大丈夫です! あたしは神託に沿ってこの国まで来ましたし、神託があったから魔導王国に行くんですが、それがいつなのかは分からないので、ふらふらとお任せします!」

「は? いつか分からないって、じゃあ何しに魔導王国へ行くつもりだったの?」

「分かりません!」

「え、えぇ……」

「神託では魔導王国にいて空を見上げているあたし、黒い月、氷の柱が見えました。つまり、私は魔導王国であの光景を目撃するはずなんです。だから魔導王国へ行こうと思ったんです!」


 あ、この子本当に行きあたりばったりだ。

 神託に頼りっきりじゃないの……

 いや、でも……黒い月、氷の柱……か。


「それなら、しばらくは私達に付き合いなさい。魔導王国へ寄らない可能性もある――」

「寄りますよ」

「え?」


 サリファの蒼い瞳がまっすぐに見つめてくる。

 どこか遠くを、さりとて限りなく近くを覗いているような、不思議な感覚。


「神託は絶対です。山脈を越えたシャオリーさんは間違いなく、魔導王国へ入ります」


 言い知れぬ迫力があった。

 それは純粋さから来る盲信、いや、盲目的にではない。

 これは経験に裏付けされた体験談。

 過去の神託が全て本当だった。ならば今後見る神託も全て本物だと。


「……そうね。魔導王国に、行くのね」

「はい!」


 その張りつめたような空気は一気に弛緩し、普段のサリファに戻った。

 神託の結果については彼女の逆鱗になりそうだ。

 気をつけよう。


 ◆


 食事を終えたドリーとルルに合流して、改めてサリファを紹介し、今晩の宿へと向かう。

 4人で中部屋を借りて、部屋の中で一時。

 サリファがどうしてここへ来たのか、私達がどうして旅をしているのか。

 それを話し合った。


「そうだったんですか……旅に出たお師匠さんを追って……」

「まぁ、そういうこと。だから魔導王国を目指しているわけじゃなかったんだけど、あなたの神託の通りなら私達はあの風雷山脈を越えて魔導王国へ行くようね」

「神託は絶対ですから」


「でも先生、どうやってあの山脈を越えるんですか? 風雷山脈は魔の山脈。常に雷と暴風が吹き荒れていて歩いていくなんてとてもじゃないですが無理ですよ? 馬車なんてとてもとても」

「そう、そこが気になってたの。サリファ。貴方、あの山脈を越える方法を知っているんでしょう?」

「はい! もちろんです! 神託で見ましたから!」


 胸の前に手を当てて自信満々に答える。


「実は風雷山脈にはとある周期でパタっと風と雷が止むのです! その間に山脈を抜ければ帝国を通らずに魔導王国へ入ることができるのです!」

「そんな話、聞いたことありませんが?」


 ルルが胡散臭そうな眼でサリファを見つめる。

 まぁ、私もそう思うけど、とはいえ、だ。


「それで、それはどこで、いつなの?」


 神託のことはこの子を信じてみよう。


「はい! もちろんです! ここ、この辺りに村があるんですが、ここの山道が入口です!」

「村、ね……ルル、ここがどこだか分かる?」

「そうですね……この辺りは確かカナーンって小さな村があったはずです。この時期は確か祭事があるって城の魔導師の方が出張に行っていました」

「魔導師が出張? 何の祭事があるの?」

「そこまでは……魔導師が関わるので儀式的なものがあるかもしれませんが」

「そうです! 確か村ではお祭り的なことをしていました! かがり火が山道を登っている時に見えたんです!」


 決まりか。

 神託の日はカナーン村で祭事がある日、その日に雷も風も止む……祭事と重なるのはもしかして?


 チリン


 手に持った鈴を神王都へ向ける。まだ、師匠はそこにいる。

 もしかして、師匠もカナーン村から魔導王国へ入るつもりじゃ?

 あり得る。師匠ならこの抜け道を知っていてもおかしくは無い。

 ということは、神王都でその時を待っている?


 何かがカチリとハマりそうで、まだピースが足りないもどかしさを感じる。


「分かった。これからの予定だけど、神王都へ師匠を追い掛けていきつつ、カナーン村へ行く。神王都ではカナーン村の祭事の情報を集めて、山脈越えの日を決めるわ」

「どうやって調べるんですか?」

「神王都へ行けばアテがあるのよ。任せなさい。明日はまた一日馬車、夜は峠で一泊するから今日は寝ておきなさい」

「はーい先生」

 コクッ

「分かりました! おやすみなさい!」


 ベッドで横になるとすぐに寝息を立てるサリファ。

 寝るの早いなぁと思いながら、他の二人にも寝るように促す。


 神王都に着いたら連絡を取らないと。

 ついでに師匠の情報も探ってもらおうかな。よろしく頼むよ? 盗賊さん。



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