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異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
第三章:師匠と先生と大樹の秘密【帝歴716年】
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幽霊と銀貨と幽玄の魔女

「幽玄の魔女……いいですね! 響が素晴らしいです! ね、先生!」


 あぁ、えっと、確かに予想していたよりはだいぶいい名前だけど、幽玄、か……


「ちなみに、幽玄の意味を聞いても?」

「えぇ、あまり使われていないんですが古い言葉で"計り知れないこと、神秘的なこと"って意味らしいです。シャオリーさんの魔法は地味ながらいろいろ発展性があるってことで使用依頼が結構来るんですよ? そこで未知数って意味とあの深霧の森に住んでいるってことらしいです」


 なるほど、多分これは言語の認識の違いか。

 ヴィロ様のおかげで聞くための言語は理解できるようになっている。私の感覚では相手は日本語で喋っているのだ。だけど、相手からすれば私はこちらの世界の発音で喋っている。

 文字に関してはアルル文字やドリーの教えたカタカナや漢字も含めてまったく翻訳されないのだが、互いに理解できるよう言葉は近しい言葉が選ばれて耳に入っているようだ。

 あの時、確かこの近辺の言語に合わせる、みたいなこと言っていたはずだし。


「幽玄の魔女、はい、気にいりました。以後は"幽玄の魔女シャオリー"と及びください」

「はい、今後もよろしくお願いしますね。幽玄の魔女さん」


 嬉しそうなイミナス。自分が提案した名前なのだから当然か。


「貴方の提案だったわね。ありがとう。あなた、センスあるわね」

「そう思います? いやーうれしいなぁ。あ、そうだ、幽玄の魔女さんは今日は何しに?」

「早速使うのね。でもこれまで通りシャオリーって呼んでくれた方が親しみもあって好きかな?」

「あ、これは失礼しました! では改めて、シャオリーさん、今日は何しに?」

「ふふ、ありがと。今日はしばらく遠出するからその手続きに」

「あら、一年前に王都に行った時以来ですね。今度はどこへですか?」

「師匠がね、旅に出ちゃったからそれを追い掛けるの。だから行き場所は決まっていないのだけれど多分、魔導王国まで出そうなのよね。国外に行くかもしれないから報告をと思って」


 一瞬、イミナスが眼を見開く。辺りをキョロキョロと伺って顔を近づけて小声で話しかける。


「遠出するのはもちろん問題ありません。手続きもこちらで済ませますよ。ただ、魔導王国はお勧めしません」

「ギルドは何か、情報を得ているの?」

「……これは噂レベルですので、確たる情報源があるわけではないですよ? 魔導王国の魔法ギルド宛に本部から退去命令が出たとか……」

「退去?」

「一部では戦争が始まるんじゃないかと。その前に職員を避難させる思惑だとか」

「……いいの? そんな情報流して」

「これは噂です。個人的な噂話程度なら問題ありません」


 そうかなぁ? まぁイミナスがそう言っているならいいんでしょう。


「ありがと。忠告と思って聞いておくよ。でも私は師匠を追いかけないと」

「そうですか……いえ、お気をつけて。急ぐのでしょう? 手続きはこちらでやっておきますよ」

「本当に? 助かるわ」

「いいえ。実は私も貴方の登録魔法陣の瞬間展開に関する技術、使わせてもらってるんですよ。だからこれは恩返しです」

「そうなの。ありがと。じゃあお願いね。あ、ついでにルルティナの分もお願い」

「畏まりました。行ってらっしゃいませ、幽玄の魔女様」


 イミナスは綺麗なお辞儀をして見送ってくれる。


 ◆


「先生、さっきのギルドの話、やはり師匠は」

「えぇ、魔導王国へ向かったに違いないわね。きっと神王国から情報を貰っているはず。アーネと二人でこそこそと何をしているかと思えば……」

「まったくです。私達に相談もなしに決めるなんて。ドリーもそう思いますわよね?」


 コクコク


 ドリーは頭を上下に振って肯定する。これはドリーも怒っているなぁ。何も相談されなかったことを。


「そうね。早く追いついて問い詰めてしまいましょう。でも、その前に」


 馬車が停まる。真新しい白壁で囲まれた教会。

 その横に隣接されている孤児院へ足を踏み入れる。


「あ、銀貨の魔女様だ!」

「ぎんかのまじょさまー!」


 外で遊んでいた子供たちが私に気づいて近寄ってくる。


「おーおー元気に遊んでいるなぁ。結構結構。それから私は今日から銀貨の魔女じゃなくて、幽玄の魔女だ」

「ゆうげん?」

「ゆーげん?」

「そ、幽玄。だから今度からは幽玄の魔女って呼んでね」

「うん! ゆーげんのまじょさま!」


 やっぱり子供は素直でかわいいな。

 通ってきた柵と白壁を見る。ここを立てたのはルルだ。

 私に弟子入りをしてきて一月後、私がここへ銀貨を3枚寄付していることを知ったルルはそれに感動して自分もと金貨を10枚取り出して寄付しようとしていた。

 さすがにそれは多すぎると諫めたら、次に来た時にはこうなっていた。

 なんでも寄付ではなく、神父様に掛けあって壁だけでもと修繕費を出したようだ。

 しかも、事前に間違って魔法の練習中に壁を壊してしまいました。という言い訳つきで。

 なんというマッチポンプ。


 そんなこんなで立派になった壁だが、結果として見た目が立派になったので町の人達からも小汚い子供、なんて呼ばれることも減ったそうだし、いいことだ。


「ところでシスターはいるかい?」

「今買い物中! もうすぐ帰ってくるとおもうよ!」

「あら? シャオリーさん?」


 子供たちと話しているとシスターが外から帰ってきた。丁度いい。


「あぁシスター。お邪魔しているよ」

「どうしたんですか今日は? いつもの寄付には少し早いのでは?」

「実はこれからしばらく遠出することになりそうでね。いつ帰って来れるか分からないから。はい、これ」


 そう言って用意していた小袋を渡す。


「これは……ッ!? こんなに戴けません!?」


 小袋の中には銀貨で15枚、五ヶ月分の銀貨を詰めておいた。


「それは5ヶ月分の前払いだよ。しばらく寄れないんだ。だから、その分だと思ってほしい」

「そんなに離れるんですか?」

「えぇ、事情があってね。旅に出なくちゃいけない」


 転移魔法陣を使えば帰ってくることはできる。でも、これはあまり大ッぴらに広めるものじゃない。

 だからミリー達以外には秘密だ。だから今、この寄付を渡す。


「だから、子供たちによろしく頼むよ」

「ゆうげんのまじょさまどっか行くの?」


 近くで聞いていた女の子が少し不安そうな声で話しかける。

 私が書いた赤ずきんの本を抱いている。よほど好きなんだろう。


「そう、私は少し旅に出る。でも、帰ってくるから。それまでいい子にして待っているんだよ?」


 少女の頭を撫でながら微笑む。

 少女は少し安心したのか微笑みを返して部屋の中へ入って行く。


「幽玄の魔女、そうですか。正式に二つ名が決まったんですね」

「えぇ、これからは銀貨の魔女じゃなくなるわ」

「いいえ、貴方はこれからもあの子たちにとっては銀貨の魔女ですよ」

「どうして?」

「あの子達にとっては貴方はヒーローなんですよ。希望、と言ってもいいですかね」

「希望?」

「貴方が銀貨を3枚くれる。実はその3枚の銀貨の使い道はあの子達が話し合って決めているんです。今月は何に使おう? ご飯が足りないからそっちに。服が足りないからそっちに。そして3枚の銀貨で出来ること、出来ないことを学んでいるんです。銀貨3枚で出来ることは以外と多くて、そのたびに貴方に感謝している。あの子達はいつからか、私も、僕も、お金を稼いで教会に銀貨を届けるんだって」


 そんなことになっているのか。

 それほど大きなことじゃないと思っても、子供にとって銀貨3枚は多い。

 子供の世界では、そういう風にできているんだろう。

 あの子達がすくすく育つなら、私はヒーローでも希望でもなんでもいい。


「それじゃあ、銀貨の魔女の代わり、毎月3枚ずつ、あの子達に渡してね」

「はい、承りました。銀貨の魔女様」


 ◆


「いいですね。ああいうの」


 ルルが馬車の荷台から御者台に移ってきてポツリと呟いた。


「あぁいうの?」

「子供たちのためにできること。私は最初、お金で全て解決しようとしました。でも先生はお金を使っているけれど、子供たちが自分で前を進めるようにしている。すごいです」

「それほど褒められることじゃないよ。それに、ルルだって歳自体はあの子達とそう変わらないでしょ?」

「私は王城でそれなりの教育を受けてきました。年齢以上にいろいろと、知っていますから」

「王女も大変なのね」

「でも、今は先生の元で修業できてすごく楽しいですよ!」


 心から楽しい、そういう笑顔を向けられるとこそばゆい。

 バッと後ろから衝撃が来る。みるとドリーが抱きついてきた。


「何ドリー? もしかして、私も楽しいって?」


 コクコク


 こっちも心から楽しい、そんな笑顔を向ける。だからこそばゆいって。でも――


「うん、そうだね。私も楽しいよ。でもやっぱり全員揃ってこそだよね」


 懐から鈴を出して方向を確認する。神王都の方でチリンと鳴る。


「さぁ、追いかけよう。一先ずは一年ぶりの神王都へ向けて」


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