幽霊と大地と地脈の放射点
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シャオリー
この手紙を見つけたということは4階の部屋へ入ったということですね。
私が指示したのかもしれませんし、勝手に入ってきたのかもしれません。
いずれ、この日が来ると思っていました。
ここはこの大地の地脈の放射点。
地脈については知識はありますか?
龍脈、レイラインとも呼ばれ、各地の文献を見ても呼称はバラバラですが、ここでは地脈と統一します。
地脈とは大地の下を流れる魔素、マナの奔流。河のようなものです。
大地には3か所の放射点と3か所の吸収点。計6か所同様の場所が存在するのです。
この6点を"ゲート"と呼び、放射点を"ラジエーション・ゲート"、吸収点を"アブソーブ・ゲート"と呼びます。
地脈を流れる魔素、マナの源、これを"ルミナス"と定義していますが、ルミナスは地脈を通り、放射点から地上へ放出され、大気に触れると魔素となり、マナは人へ入り、マナを回復させる。
そして使われたマナや魔素は大気を巡り吸収点へ辿り着き、再び地脈へと還るのです。
この循環をルミナス循環と定義します。
ルミナス循環によって私たちはマナを回復させ、魔法を扱うことができる。
これは覚えておくように。
なお、宮廷魔術師達もこの仕組みは知りません。
魔術師長くらいになれば知っているかもしれませんが、この事実を知っているのは一部の魔法使いと魔女、魔法ギルドの上役、王家ももしかしたら知っているかもしれません。
さて、この場所については理解してもらえましたか?
私がこの場所に大樹の家を構えたのもこの放射点を研究するためです。
この放射点は大樹の葉がルミナスを拡散させる役目を持っている。
その大本がこの洞です。この場所でなら大規模な魔法を使うことも可能です。
マナも魔素も大量にありますから。
私の研究の内容を知っているか分かりませんが、私はこの地脈を記憶の保管庫にしようとしたことがあります。
地脈に記憶を預けることで転生後に記憶を引き継ぐ研究です。
頓挫してしまいましたが。
なのでこの場所はもう使っていないけれど、大樹と契約したのでその守り人をしています。
大樹との契約はこの場所を悪用されないように守ること。
もしこの大樹の家を貴方に譲ることがあれば契約は引き継がれるのでよろしく。
ここでの研究資料は近くの棚に置いてあるので、必要なら使ってください。
あわよくば、貴方がこの力を正しく使うことを願って。
ヴィ・シュナス
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一通り読み終わった後、一息ついて横の棚を見る。
棚にはボロボロの冊子が並んでおり、その中には師匠の字で地脈の性質、マナの受け取り方等が書いてあった。
「はぁ、だからこういうのは手紙じゃなくて言葉で説明してくださいよ、師匠」
長い。
いや上の手紙よりは要点纏まっていたけれど。
師匠は感情的になると手紙書けなくなるタイプかな。
一先ずはこの場所については理解した。専門用語が多すぎるけれど。
「正しく、有効活用ね……」
パラパラと本を捲っていくと、恐らく師匠がマッピングしたであろう地脈の地図が出てきた。
神王国、魔道王国、武王国、聖王国、あとは海に2つそれぞれマーキングしてある。
ここがゲートに当る場所かな。海にもあるとは思わなかったけど。
地脈がここを通って、こうなって、網の目状に広がって……ふむ、これは……
地脈のマップを閉じて、机の上に置く。
これは面白いものを発見したかもしれない。
他にも使えそうな資料を何点か見繕って、魔法陣を使って再び地上へ出る。
相変わらず暗い部屋だが、少しずつ目を慣らして感覚を掴む。
魔法陣に布を被せて、扉へ向かうと、内鍵が付いていた。
内鍵を外して外へ出る。後で師匠の部屋から鍵を探しておかないと。
図書室からも資料をかき集めて自室へ戻り、ざっと持ってきた資料と転移魔法陣の研究資料を拡げる。
「さて、やることはいっぱいあるけど、とりあえずポーション生成しておきますか」
魔法陣を起動してポーションを自動抽出しつつ、図書室から引っ張ってきたこの大陸の地図を広げる。
「……やっぱり、主要な都市の下には大きな地脈溜りがある。特に大きな場所に王都があるのを見るとやっぱり王族は知っているんだろうなぁ」
地図を示し合せれば、各国の王都や主要な都市は地脈の上に作られ、大きな街道も地脈の上を通っている。
古代の人達は地脈を重要視していたようだ。
「師匠からもらった魔導王国の資料に、地下への古代転移魔法陣。これらを組み合わせればこの転移魔法陣はほぼ完成する。でも、地脈をもっと上手く使えばさらに先へ進めるかもしれない」
転移魔法陣は入口と出口を作って、その間を移動する魔法陣。
どこでも設置できるわけじゃなく、固有のマナが濃い場所でなければならない。
その場所ってのがよく分からなかったが、さっきの地図で閃いた。
地脈の通っている場所でなければならないんだ。
つまり、転移魔法の正体は、地脈を移動する魔法。
師匠は地脈は河だと言った。なら理論として仮説を立てるなら魔法陣でマナの膜を作って、これを船と呼称するけど、船で地脈の中へ降り、地脈の流れに沿って船を流す。目的地に着いたら魔法陣を目印に浮き上がる。
これじゃ潜水艦みたいだが、それほど間違っていないはず。
ただこれは魔法陣の入口と出口を作らなければならない上に、その場所にしか転移できない。
ならどこなら移動できるのか。そう、例えば、"巨大な魔法陣の上"ならどうか。
一つの魔法陣の中で小さく転移する。これなら近距離へ移動するだけだが、応用が利きそうだ。
そして魔法陣を大きくすればどうか?
例えば都市を覆う魔法陣なら都市内を一瞬で移動できる。
さらに移動するときは魔法陣を重ね合わせてそこへ移動し、次の魔法陣でさらに移動する。
大規模な魔法式を組む必要があるけれど不可能ではないはず。
さて、これからポーションを作って、薬を作りおきして、荷造り、魔法陣開発とやることはたっぷりだ。
「やりますかぁ!」
一つ気合いを入れるために両手で頬を叩いて自分を鼓舞し机に向かう。
◆
「先生、ドリーに確認してきました。馬車は問題なく使えるそうです。ドリーも行けるのなら同行したいと言っていますがどうしますか? ……師匠?」
カリカリ……サラサラ……ガッ!
「……集中してるみたいですね。また明日、言いに来ます。追加の薬草はここに置いておきますよ?」
パタン
その日は翌日の朝までひたすらポーション精製と魔法陣の理論組み立てに費やした。




