【外伝】最北の町の教会のシスター【帝歴714年】
孤児院に隣接する教会で今日も祈りを捧げる。
この神王国では神様を信仰するのは自由。だから教会と言ってもここには神様の御神体が複数ある。
その内の私が信仰する神様、光神アリオンの像の前で膝を着き、祈る。
「シスター! 銀貨の魔女さん来たよー!」
孤児院の子が来客を告げる。
「あら、じゃあ中に御通しして」
「はーい!」
パタパタと走り去る子の後ろ姿を微笑ましいと見送り、応接室の方へ向かう。
銀貨の魔女。
毎月、銀貨を3枚寄付して下さる魔女様に、子供たちが付けたあだ名みたいなもの。
魔女、シャオリーさんの二つ名はまだ無いとおっしゃっていたので、そのあだ名で通している。
「や、シスター。今月も持って来たよ」
「シャオリーさん、いつもありがとうございます」
「いいっていいって、これも私の自己満足に近いんだから」
「それでも、この銀貨のおかげで助かっているのも事実ですから」
シャオリーさんは照れているようだが、事実、その通りで。
シャオリーさんが寄付してくれるようになってから、年長のランドくん筆頭に町の掃除や手伝いを進んでするようになった。
そのおかげで町の人からの評判が良くなり、少ないけれど寄付が増えて孤児院の運営も安定してきた。
きっかけはシャオリーさんだと言う。
ランド君たちが孤児院の子のためにお店から盗みを働いてしまった時、助けてくれたのがシャオリーさん。
「あれから2年ですね。毎月銀貨をもってきてくれるようになって」
「そうね……ランド君達も今年で10歳、早いものです」
「はい、おかげさまです。貴方のおかげでランド君達も真面目に健やかに育っていますよ」
「私は何もしてないわ。ただきっかけは与えたかもしれないけれど。その後のことは全部、子供たちが自分で考えたこと。凄いのはあの子たちよ」
「……えぇ、そうかもしれませんね」
窓の外を見れば、走り回る子供たちが見えた。
リーダーになっているのは年長のランド君と同い年のシーちゃん、カイくん。
3人とも、2年前にシャオリーさんと出会ったおかげで前向きになったし、他の子にも影響を与えている。
このシャオリーさんは不思議な人だ。
初めて孤児院にやってきた時は、魔女様が一体何の用だろう? と思ったものだ。
◆
「えっと、魔女、様? 孤児院へ何の用でしょうか?」
「……シスター? ここは孤児院では?」
「あ、はい。ここは教会と孤児院が併設されておりまして、教会で運営しているんです」
「そう、じゃあ貴方でいいか」
「?」
「これ、寄付金ってことで。孤児院のために使って」
そう言って魔女様が渡して来たのは銀貨が3枚。
「そんな、こんなになんて!」
「いいのよ。毎月銀貨3枚。持ってくるから。よろしくね。シスター……あー名前は何?」
「あ、えっと、ゼルダ。シスターゼルダです」
「そ、じゃあシスターゼルダ。私はヴィ・シャオリー。シャオリーでいいわよ。これからよろしくね」
◆
そう言って彼女は去っていった。
そして一月後、また銀貨3枚を持ってやってきた。
また一月後、さらに一月後と、銀貨を持ってくるうちに話すようになり、今ではこうしてお茶をする仲。
「さて、私はこれで失礼するわね。また一月後に来るわ」
「たまにはゆっくりとされてはどうですか? 子供たちも遊びたがっていますよ? 銀貨の魔女さん?」
「……その呼び名、もう固定なの?」
「子供たちの間では、ですね」
シャオリーさんは溜め息を一つ付いて、窓の外を見る。
「そうね、たまには遊ぶのもいいかもしれないわね」
「えぇ、そうしてください。そうだ、以前女の子達に教えていたおとぎ話、好評なんですが他にありませんか?」
「おとぎ話……あぁ、赤ずきんですか」
「そうです、おばあさんを食べた魔獣と少女の話。女の子達の間で賢い少女がかっこいいって評判で」
「そうねぇ……それじゃあマッチ売りの少女……は湿っぽいか。赤ずきんが人気なら女性が主人公の……シンデレラ辺り受けそうかしらね?」
「内容は知りませんが良ければ語って上げてくれませんか?」
「分かったわよ。はぁ、どうせなら絵本でも作ってあげようかしら?」
そのまま外へ出て木陰で遊んでいる女の子達の元へ向かうシャオリー。
「ほんと、不思議な人」
孤児たちを忌み嫌わず、まっすぐに触れあえるというだけでどれだけこの町では貴重か。
「今後ともよろしくお願いしますね。銀貨の魔女さん」




