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異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
第二章:冒険と王女と暗躍の都【帝暦715年】
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幽霊と師匠と弟子と

 王城へ呼ばれるまでの間に神王都アルバトロスを色々と見て回った。


 魔道具屋を見て面白そうな魔道具を発見してはとりあえず買ってみたり。

 屋台で食べ歩きをしたり、市場を見てお土産になりそうなものはないか探してみた。


 ドリーは特に好んで何かを食べたりしないから食べ物のお土産よりは物がいいよね。

 そう思って露店を物色しているとフードを被ったお婆さんが店主をしている店でエメラルド色の鉱石で作られたイヤリングが売られていた。

 どこか神秘的で惹かれる魅力を感じた。


「お婆さん、これは何のアクセサリー?」

「ふぇっふぇっふぇ、お嬢さん、魔女かい? いい目をしている。これはね、翡翠鋼という魔鉱石の一つから削りだされた石さ」

「へぇ、綺麗な細工、全部お婆さんが?」

「あぁ、私は魔女だけどね、魔鋼職人の方が手にあったのさ」

「魔鋼職人?」

「おや、知らないのかい? 魔鉱石の加工は魔法陣による加工じゃないとできないのさ。これらは特殊な力を持った石だからね」


 魔鋼職人。師匠からは魔法使いと魔女としか聞いてなかった。

 てっきり魔法を使う人はそう名乗ると思っていたけど、魔法を使った職業にもいろいろあるってことかな。


「特殊な力……じゃあこの翡翠石にも?」

「ふぇっふぇ、お前さん、まだまだ新人だね? 魔女なら魔鉱石の扱いも知らなきゃダメさ。あんたの師匠にも聞いてみな」

「えぇ、まだ弟子入りして3年程ですので」

「そうかい、そりゃまだ若いね。でも魔法の素質は問題ないみたいだ。何も知らないのにこの翡翠石を見つけるんだから」

「そんなにすごいものなんですか?」

「まぁ私の作った中では上物さ。いいかい? 翡翠石の特徴はマナの吸収、蓄積なのさ」

「え、そんなことができるんですか!?」


 マナは基本外部から補給することはできない。

 故に自身の自然回復を待つしかない。

 私はその回復速度が速いわけだけど、普通は時間を置かないと連続で魔法は使えない。


「そうさ、上の方の魔法使いならこれくらい持っているよ。マナはね、自分自身のマナ以外からも徴収できるのさ」

「そんなことが」

「そしてこれは放置しているだけで周囲の魔素からマナを抽出し蓄える力を持っている。大抵は杖に使われるね」

「なるほど……お婆さん、これ欲しいんだけどいくらになる?」

「金貨15枚。翡翠石は貴重だからね。払えるかい?」


 むぅ、お金か。魔法ギルドの預金を合わせても足りない……

 国王から恩賞としてお金がもらえるらしいけどそれも数日後だし……


「まぁ、他に払えるものがあれば別だけどね」

「……あ、私の作った魔法を売るってのはどうですか?」

「あんたの作った魔法? まぁ、見て良ければそれで売ってやるけどあんた3年目だろ? いいのかい?」

「いいんですよ、また作ればいいんですから」


 腰のブックホルダーからコロナを取り出してパラパラとめくる。

 お婆さんの仕事的には鉱石を持ち運ぶんだよね。となると何か持ち運びが便利なものがいいか。


「あ、これなんてどうです? 魔法名は"影収納(シャドウボックス)"って言うんですけど」


 開いたページの魔法陣に手を当てて魔法を発動する。

 発動した魔法陣は黒の燐光を放って手に吸い付くように魔法陣だけが浮かび上がる。

 対象はっと……これでいいか。

 露店の隅にあった木箱に対してその魔法陣を貼り付ける。


「あんた、何をする気だい?」

「まぁ見ててください」


 貼り付けた木箱の魔法陣が馴染んで消えていく。

 よく見れば跡だけはうっすらと見えるが、パッと見では魔法陣が書かれているか分からない。


「さて、この木箱の影に落ちていた石を落とすと……」


 石はそのままストンと影の中に落ちる。


「!? これは……闇魔法かい?」

「そうです。闇魔法を組み合わせて、お手軽に魔法陣にマナを送るだけで影の中に物が収納できるようになる魔法です。物を動かせば影も移動するので、持ち運びには便利なんですよ?」


 プロトタイプとして作って、その後自身の影に物を入れられる魔法を作っている途中なので、これはもう使わない。

 完成の目処は立っているしね。


「……なるほど、私が鉱石を運ぶからと、こういう魔法を……だがこれはいいのかい? 私に売っても? ギルドに登録すればそれこそ使用料が稼げるだろうに」

「いいんですよ。ギルドに渡す魔法は選んでいますから。これはお婆さんが使ってください」

「選べるほど魔法を作っているってわけかい……3年目って言ってたけどあんた、ただの魔女じゃないね?」

「いえいえ、私はただの魔女ですよ。まだ、ね?」

「ふぇっふぇっふぇ、面白い。あんた気に入ったよ。こいつはあんたにやる」

「え、でも」

「お代は要らないよ。投資ってやつかね。あんたが大成したらまた私のアクセサリーを買いに来ること、が条件だ」

「……分かりました。じゃあこの魔法はお代じゃなくて、感謝の印ってことで、受け取ってください」

「あんたも律儀だねぇ。分かったよ。ありがたく使わせてもらおうじゃないか」


 お婆さんと別れて貰ったイヤリングを見る。

 両耳に着けるものだけど、せっかくだから片方をドリーにプレゼントしよう。

 あの子の翠色の髪によく似合うと思う。


 いい買い物ができた。また買いに来る約束をしたし……


「あ、名前聞いておけばよかった……」


 戻ってみたけどお婆さんはすでに露店を閉まってどこかへ行ってしまっていた。


 ◆


 その後、特に話題もなく神王都を観光して、予定通り王城へ呼ばれたのでそのまま国王へ謁見、事前に打ち合わせていた通りに師匠がメインで恩賞を頂いた。

 謁見はつつがなく終了し、帰宅の準備は済んでいたので宿を引き払って私たちは神王都の門の前にいた。


 見送りにフィーア、シャルク、アーネ、それにウィリアムとルルティナが来ていた。


「わざわざ見送りに来てくれてありがとうございます」

「いやいや、こちらこそ君たちには助けられた。神王都に来たときはぜひ忍び込んできてくれ。歓迎しよう」


 ウィリアムはルルティナの指輪と同じものを嵌めて普通の青年のように見える。

 となりでは宿屋で見慣れたルルティナが笑顔で笑っていた。


「忍び込めって……まぁ、はい。その時は是非」


 ウィリアムがニヤっと笑うと一歩下がって今度はフィーアとシャルクが前に出てきた。


「シャオ、短い間だったけど楽しかったわ。それにいろいろ助けられちゃったし」

「そんなことないよ。フィーアには魔法のこととか、いろいろ教わったし、シャルクにだって料理とか教わったしこっちも助かったよ」

「僕は料理の活躍だけかい? まぁ最後の戦いでは参戦もできなかったんだけどさ」


 シャルクは少し肩を落としてがっかりしていた。

 やっぱり騎士としては前線に出たかったんだろう。


「私たちは王宮での仕事があるからあまり遊びに行けないけど、休みを見つけたら遊びに行くからよろしくね」

「あぁ、お土産も持って今度は友人として遊びに行くよ」

「うん、待ってる。私も料理の腕あげておくね」

「さぁて、別れも済んだし、行こうか!」


 ドンっと肩を引き寄せたのはアーネだった。

 ん? 行こうか?


「アーネ、もしかして着いてくるの?」

「なんだい? 私が着いていっちゃ問題があるのかい?」

「いや、というか冒険者は? 言ってはなんだけどタルタス近郊はそれほど難易度高い依頼はないし……せっかくプラチナに上がったっていうのに」

「あぁ、まぁあれだ。私としてはシャオ、あんたの近くにいた方が良さそうだな……って」


 アーネにしては歯切れが悪い……もしかして


「もしかして、ディオス様の加護の……」

「あー……うん、そう言うことだ。まだタルタス近郊なのかどうなのか分からないけどね。あんたたちに着いていけ、ってさ」


 アーネの持っている加護は武の神ディオス様。

 ディオス様は武の神だけあって加護を与えた者を戦場へ導く。

 つまり私たちに着いていけばいずれ戦いが起きるということだ。

 なんと不吉な……でもそれもまた神の加護、恩恵を受けている以上無下にはできない、か。


「そういうことなら、仕方ないね。またよろしく、アーネ」

「あぁ、しばらくやっかいになるよ、シャオ、シュナス」

「よろしくアーネ。そうなるとお客様ようの物だけじゃなくてちゃんと物を揃えないとダメね。買い物は任せたわシャオ」

「はい、帰りにタルタスで補充して行きましょう」


 ◆


 フィーア達との別れを名残惜しみながら神王都を後にする。

 この後は宿場町と峠を越えて道程5日の帰り道。

 急ぐこともないしのんびりと帰ろう。


「さて、もう出てきても良いわよ? 神王都からだいぶ離れたし今さら帰れなんて言わないから」


 師匠が後ろの荷物の方に声をかけた。

 御者台に座っているのでよく分からないがなにやら荷物の方からがさごそと音がする。


「バレていましたか。流石はシャオリー様の師匠ですね」


 その声に私は聞き覚えがある。なんで?!


「その声、ルルティナ王女?! どうしてここに?!」

「あら、もちろんそれはシャオリー様に弟子入りするためです」

「弟子入りって……あれは冗談……」

「私考えました。王城に居ても分からないことの方が多い。ならば外に出てみよう、と」

「でもそんな家出みたいな」

「お父様とお母様とお兄様から許可は頂いております。ご安心ください」


 まさかの家族公認だった。


「シャオリー様の元なら安心して任せられると言っていましたわ」

「……師匠」


 師匠に泣き付いてみるが、このことを知ってて見逃したであろう師匠の対応は実に淡泊だった。

「諦めなさい。それに弟子を取って教えるのも勉強よ。修行だと思って受け入れなさい」

「そんな~……」

「うふふ、よろしくお願いしますね。シャオリー様」

「タルタスで補充するの、一人分じゃ足りないな? シャオリー?」


 アーネは面白がってくっくと笑っている。

 他人事だと思って……私の味方はどうやら居ないようだ。


「分かりました。分かりましたよ……ルルティナ、貴方を弟子として認めます。ただし、私のことは先生と呼びなさい。師匠だと紛らわしいから」

「はい、シャオリー先生」


 ◆


 道中ルルティナの加入はあったが、当初の予定通りに峠と宿場町を超えてタルタスに着いた。

 タルタスで必要なものを買って、その間にベルガモッドや教会に帰ってきた挨拶をした後、私たちは懐かしの深霧の森へ向かった。


 ドリー、一人で留守番大丈夫だったかな。寂しがってないかな?


 もうすぐ大樹の家へ着くという所で、木々の節から魔素が溢れてきた。

 何かと思えばそれらは植物の成長を促し、色鮮やかな花々を咲かせる。

 花々はまっすぐに大樹の家へと道を作って、私たちを導いた。


 こんなことができるのは一人しかいない。

 手綱に力が入る。思いが伝わったのか馬の方も少し速度を上げた。


 大樹の家に着くと玄関で一人の少女が待っていた。

 少女はパッと後ろを向いて指で空中に、魔法陣を描くようにマナと魔素で文字を描いていく。

 そして振り返ると笑顔で書いた文字を指差した。


『お か え り な さ い』


 ……ありがとうドリー。待っていてくれて。

 返事はもう、決まっている。

 師匠とアーネも同じ気持ちのようだった。

 誰からと言わず揃った声で留守番してくれていた少女へ。


「「「ただいま、ドリー」」」


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