幽霊と陰謀と後処理の話
第二王女サラティエを捕えて神王都へ帰還した後、王城で待機していたウィリアムへとサラティエ王女を引き渡し、その日は一度解散となった。
もう朝で日が昇っていたし、本当に長い夜だった。
後日、ルルティナ経由で王城へ招かれた私達は今度は正門から堂々と入城した。名目としては国王の治療のためということだ。いや、その国王もう元気なんだけどね。
これから師匠の薬を国王へ試してもらうためという筋書きを作ったのはウィリアム。
ルルティナ経由で連絡が来た時に筋書きを聞かされたが、まさか堂々と入ることになるとは。
案内されたのは国王の私室。現在国王は病で床に臥せっている、はずだから。
「よく来たな、私がアルリオン神国の神王ヴルガンだ」
ベッドから上半身だけ起こした国王はこちらを見て名乗る。
シャルク達が片膝を付いて畏まったので、それに倣って片膝をつく。
「今回は世話になったようだ。おかげで見ての通り、体調もだいぶ回復した」
「い、いえ、その最初は頼まれた依頼でしたが、最後は私のお節介というか自己満足もあり……その……」
「はっはっは、そのお節介のおかげで我々は元気になった、サラティエの企みも事前に止めることができた。感謝こそすれ、非難することはない」
「ありがとうございます」
片膝を付いたこの状況で顔だけを上げて受け答えをする。
横には師匠、アーネ、フィーア、シャルクが並んでいるが、皆一様に下を向いたままだ。
国王陛下の隣には第二王子ウィリアム、第三王子ヴィンドル、第四王女ルルティナ、宮廷魔術師団長ガンダルヴと今回の一件を知っている人間だけが集められている。
これは非公式の謁見。
今回の事件は一般への公開はしないことになった。
王族への実質的な暗殺未遂、魔導王国への亡命、神王国への反乱未遂と一人の王女が起こした事件としては根が深く、また魔導王国との関係性を公開するのは今の情勢では得策ではないと判断したらしい。
シナリオとしては国王、王妃、第一皇子は外交中に罹った新種の病のせいで寝込んでしまったが、宮廷魔術師団と騎士団からの密命を受けた魔女と騎士が最北の地に住まう深霧の森の魔女を訪ね、その薬の力で治療した。ということになっている。
第二王女による反逆や魔導王国の暗躍などなかった。
そういうシナリオになる。
「魔女シャオリーよ。そなたの活躍があってこその今回の解決と聞く。ウィリアムも申しておるでな。だが表だって褒美を授与できるのは先の話の通りお主の師匠の魔女シュナスだ。お主はそれでも良いと言ったが、王家として恩人に直接報いれなければ立つ瀬がない。何か欲しいものはあるか?」
「はい、もし宜しければですが、王城の魔法図書館の閲覧許可をお願いいたします。また、その内容の持ち出しも可能であれば」
「ほう、さすがは魔女、か。確かに我が魔法図書館の魔導書は王城魔術師団でしか閲覧はできぬ」
フィーアから前に聞いていた王城にあるという魔法図書館。
一般に拡がらないようにされた呪文や魔法陣があるというその図書館ならタルタスや師匠の書物では分からないことも分かるかもしれない。
今回の呪い騒動、知識としては魔法の分野だ。それなのに知識不足で強引な解呪方法となってしまったのは、私の不徳。
それにあの方法は女性の王妃が居たからこそであり、男性ばかりだったらそもそもとっかかりさえ掴めなかった。
それではダメだ。同じことが起きた時に、助けられないかもしれない。
私に必要なのは事象に対して実行するための方法を編み出す知識。
「魔法図書館は我よりもガンダルヴ、お前の領分だ。いかがか?」
「問題ないでしょう。彼女の魔法の才と人格は見させていただきました。何より、王家への恩人です。よからぬことには使われぬでしょう。我が弟子の友人でもありますからな」
ガンダルヴはチラっとフィーアの方を見てニヤリと笑う。
フィーアの方はその視線に気づいたのか目を背けてソッポを向いてしまった。
あの二人、師弟関係だったんだ。どうりでフィーアが選ばれたわけだ。
「ふむ、よかろう。閲覧を許可する。だが本の持ち出しは許可できぬ。写しならばよいだろう。それでもよいか?」
「はい、構いません。許可頂きありがとうございます」
「むしろ宮廷魔術師団に入らぬか? そなた程の腕の魔女なら重宝しよう?」
「お言葉はありがたいのですが、私は既に師を見つけた身でございます」
「そうか、残念だがそれもよかろう。他にはないのか? 言ってはなんだが今回の褒美としてはちと弱くてな。もう一つくらい願いを言ってみないか?」
他には……そうだな、第二候補として考えていたアレとかどうだろう。
「それでは、神王国内の自由通行証を発行していただけないでしょうか?」
「ほう? 自由通行証。国内の町を自由に行き来したいと? 商人でもするのか?」
「私は世界一の魔女を目指しております。いずれ、世界中を巡り、見識を深めるつもりです。しばらく先の話ではありますが……その際に国内で移動するための不安を取り除ければ、と」
「世界一の魔女、なるほどな……それもよかろう。本来は商人や貴族へ発行するものだが、特例として与えよう。一部の冒険者に発行した前例もあったはずだな?」
「はい、父上。勇名を轟かせた冒険者への褒美として国内の自由通行を許可したことがあります。言ってしまえば王家が保障した身分証明書のようなものですね」
「ふむ、それならばちょうどよかろう。勇名は残せぬが、その功績に見合うというもの。ウィリアム、準備はよろしく頼むぞ」
「はい、承知しました」
自由通行証。つまりは国が認めた身分を保障する証としては最高ランクで、各町の関所や門で見せれば入ることも出ることも門番では止めることはできない。
いずれ使うかもしれないし、今頂けるなら戴いておこう。
その後はフィーア、シャルクがそれぞれ宮廷魔術師長補佐、騎士団長補佐へと任命され、冒険者アーネは冒険者ランクがシルバーからプラチナランクへ上がることが約束された。
「それでシュナスよ。お主は何を望む?」
最後に師匠の出番になるとウィリアムが王の耳元へより何かを囁いた。
「ふむ? ほぅ……シュナスよ。ウィリアムの進言は本当か?」
「はい、本当でございます」
「……あいわかった。お主への褒美は望むままにしよう。ウィリアム、お主が責任を持て」
「畏まりました」
「ありがとうございます」
? 師匠は何を願ったんだろうか。ウィリアムには話していたようだったけど。
「ふむ、では今日はお開きとしようか。改めて皆、感謝する。ありがとう」
◆
「ではシャオリー様、行きましょうか」
「行くって、何処へですか? ルルティナ様」
「父上へ願ったではありませんか。魔法図書館を見たいと。ですからこれから参りましょう?」
なぜルルティナ殿下が?
「その顔はどうして私が? と言う顔ですね。私はこれでもサラティエ姉さまの次に魔法の才に長けていると魔法の修業をしているのです。ですから魔法図書館は私もよく行っている場所なのです」
「なるほど、でもそれならわざわざ王女様自らが案内しなくても宮廷魔術師の誰かにお願いすれば……」
「いえいえ、これは私から言いだしたことですから。実は私、貴方に興味があったんですよ」
「私に、ですか?」
「えぇ、宿でお見かけした時から不思議な方だとは思っていました。でもあの日の夜、空に打ちあがった火のアート、あれを見て貴方の魔法に興味を持ったので、お話させていただけないかと」
「あぁ、見えていたんだ。あれ」
「えぇ、あの火魔法は鮮やかでした。綺麗な円系に拡がる炎の球、全体で紋様のように揺れ動き、色が違う炎もあってとても美しかった。あれほどの魔法、よほどの知識と技術が無ければ作れない、と思いまして」
あれは火魔法を等感覚で熱量を調整して放つように命令しているだけなんだが、確かに精霊を使わないで制御しようと思ったら難しいのか。
「なら、私の弟子になってみますか? 王女様」
「え?」
ルルティナは真顔で固まってしまった。いや、冗談ですよ冗談。
まだ一人前じゃないのに弟子なんて取れるわけないじゃない。
「冗談ですよ王女様。私はまだ未熟な師匠の弟子。さらに弟子を取るなんてまだまだ出来ませんから。ほら、魔法図書館、行きましょう?」
「え、えぇ。そうですわね。こちらですわ」
ルルティナは前を歩きながら案内してくれる。
チラっと見えた彼女の顔は何やら考えていたようだけど……今の本気にしてないといいんだけどなぁ。
◆
「それで、魔法図書館は楽しめた?」
宿に帰って来て師匠と二人で食事をしていた時、師匠から話を振ってきた。
アーネは自分のねぐらへと帰り、フィーアとシャルクは王宮へ戻った。5人で借りた部屋は少し広い。
「えぇ、面白い魔法がたくさんありました。一通りコロナにコピーしてきたので帰ったらまた研究ですね」
「そう、それは良かった……ねぇ、シャオリー?」
「はい?」
「……いいえ、何でもないわ。まだ早いわね」
「何ですか師匠? 気になるじゃないですか」
「いいのよ、いずれ話すから。ウィリアム王子の筋書きではそろそろ国王達が回復し始めた頃で、段取りとしては一週間後くらいに謁見の間で改めて謁見するそうよ。だから一週間は神王都に滞在ね」
「一週間か。少しくらい観光して行ってもいいですよね?」
「構わないわ。むしろそれくらいしかやることがないもの。滅多に来ない神王都だし楽しみなさい」
神王都観光か。せっかくだしいろいろ見てドリーへのお土産を買って帰ろうかな。




