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異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
第二章:冒険と王女と暗躍の都【帝暦715年】
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魔女と王女と月下の魔法

※今回はシュナス視点になります。

ご注意ください。

 さて、アーネが騎士の相手、シャオリーがドラゴンの相手をしているとなると、私も働かないといけないわよね。

 目の前でこちらを睨んでいる怖い王女様も、やる気みたいですし。


「王女様、大人しく捕まる気はありませんか?」

「馬鹿なことを聞く魔女ね。そんな気があれば最初からこんな事、やってないわ」

「それは、確かにそうね。なら一つ聞いてもいいかしら?」

「何かしら? 敵に話すこともそうそうないと思うけれど?」

「この神王国への侵攻計画は"エンディミオン魔導王陛下"の意思かしら?」

「…………」


 さっきまで王女としての余裕を持った笑みが崩れる。

 それは想定もしていなかった、そんな顔だ。


「貴方、どこまで知っているの?」

「別に、何も」

「なら!」

「少しだけ魔導王国に縁があってね。私の知る魔導王陛下はこんな拙い計画をしない人だから」

「……ふん、先王のことなど持ち出したから何かと思えば、そういうことか」

「先王?」

「エンディミオン先王は退位された。現在の魔導王陛下はアンブール陛下だよ」

「エンディミオンの(おきな)が退位? 死んだの?」

「さぁて、どうだかな」


 王女は余裕を取り戻したのか口元を釣り上げて笑みを浮かべる。

 あの爺が早々死ぬわけないと思うけれど、自分から玉座を降りる方も考えられない。

 何かが起きている、魔導王国で。


「あなたを捕まえる理由がまた一つ、増えたみたいね。魔導王国で何が起きているのか、吐いてもらいます」

「できるものなら、やってみな! 魔女!」


 王女は杖を構えて呪文を詠唱し始める。

 さすがは王女様。宮廷魔術師から指南されているだけあって呪文へのマナのノリ具合もいい。


【大地よ水よ、地を貫き、天を貫く、古の都、かつての姿を想像し、創造せよ、森羅万象の恵み、今、花開かん!】


 あの詠唱は地と水の複合魔法、しかも古代魔法も混じっている。

 あれを淀みなく唱えきれるとは……いい才能持っているみたい。

 魔導王国が開発した魔法みたいだけど、原点は恐らく――


【エンシェント・ガーデン!】


 一瞬の光が過ぎ去った後、私は青空の見える花が広がる遺跡に立っていた。

 地平線の向こうまで色取り取りの花で埋め尽くされている。

 私がさっきまで居たのは神王都近郊の山の中腹。

 時間も双月が上る深夜のはずだった。


 古代に栄えたと言われる花園の王国。

 その空間を魔法で作り出し、その中に閉じ込める結界魔法か。

 ずいぶんと大がかりな魔法を使うものだ。


「はぁ、はぁ、これであんたはこの空間から出られない。その間に逃げさせてもらうよ」


 王女の声だけが聞こえる。

 どうやら王女は結界の外にいるらしい。ふむ。

 サッと指先を動かして魔法陣を描いておく。


「だいぶ消耗しているみたいだけど、大丈夫?」

「余計なお世話さ。あんたみたいなやばそうな奴は最初から全力でいかないとね」

「過大評価、どうもありがとう」

「ふん、過大なもんか。あの弟子もだけど、あんたもヤバいって私の勘が告げているよ」

「私とあの子を一緒にしないでちょうだい。あそこまで規格外になった覚えはないわよ?」

「……自覚あるんじゃないか」


 いや、それなりに私も魔女として長いしそこらの魔法使いや魔女に後れを取るつもりは、ない。

 でもあのシャオリーと一緒にされるのは心外だ。


 そう、あの子は、シャオリーはすごい子だ。

 魔法を学ぶことには意欲的だし、アルル文字も魔法文字も今では完璧に覚えた。

 料理も家事も薬学も覚えてきて、一人前の魔女と呼んでもいいくらいだ。


 あの魔導書の発想はちょっと、どころか結構な驚きだったけどね。

 なにせ魔法陣の弱点の書かなきゃ使えないを"書いてあるものを呼び出せばいい"と言い、

 呪文の弱点の正しく淀みなく詠唱しきることを"短い単語の詠唱を連続することで途切れなくさせる"ことで解消した。

 あの魔導書から作られる魔法は呪文でも魔法陣でもない。

 まったく新しい魔法の体系を作り出した。


「あの子は私なんかと比べ物にならないくらい、大物になるよ。なんせ」

「?」

「あの子は"世界一の魔女"になる子だからね」

「弟子贔屓もいい加減にしな。あんたはここから出られない。その間に私は雲隠れさせてもらうけどね。あの弟子もヴァルヴルムに殺されておしまいだよ」

「さて、それはどうかしらね?」


 クイクイ


 視界の端で黒い光の玉が跳ねた。

 魔法の解析が完了したようだ。早いね、いい子だね。


 さっき魔法陣で召喚したのは闇魔法の小精霊。

 精霊族ほどの自我もなく、その場の魔素で形作って使役する精霊。

 命令したことを忠実に行ってくれるので重宝するが、見た目に反してマナを大量に持っていく。

 実はシャオリーの魔導書は起動するとこの精霊が動くようになっている。

 自動化などは精霊のおかげだが、あの量を命令できるのはシャオリーのマナ変換効率の高さ故なんだけど。


 懐から札を2枚取り出して、精霊から受け取った情報を書き込んでいく。

 この札は魔法陣をあらかじめ書いていたもので、後付けで情報を付与することができる。


【アナライズ】

【アンチマジック】


 魔法陣2枚を繋げてマナのパスを通し、アナライズした結果をアンチマジックへと受け渡す。

 アナライズは無属性だがアンチマジックは闇属性の魔法。

 シャオリーには教えたけれど解析するのはまだ無理だった。

 ここは経験が必要だからね。あの子にももっと経験と知識を積んでもらわないと。


 札を足元に置いて、最後のマナを込める。


「アンチマジック――エンシェント・ガーデン!」


 札を置いた場所からガラスが割れるように世界が砕け、青空がや花が破片となって砕け散る。

 再び、山の中の夜空へと帰ってきた。


 周囲の状況を見ると王女の姿はなく、倒れた騎士とアーネ、そして、巨大な窪みの底で倒れ伏しているドラゴンと夜空に浮かぶシャオリー。

 結界の中に閉じ込められている間にどちらも終わったようだ。


「シュナス、どこに行ってたんだい? 凄いのを見逃しちゃったね?」


 アーネが斧と盾を担いでニマニマと近寄ってくる。

 どうやらこの竜のありさまと穴はまたシャオリーの新しい魔法らしい。

 それにアーネの様子だと私はこの場所から消えていたらしいわね。


「ちょっとね、それよりごめんなさい。王女様、逃がしちゃった」

「は?! ちょっとちょっと、どうするのさ!」

「安心して、手は打ってあるから」


 最初に会話した時、闇精霊を1体くっ付けておいた。

 場所は精霊が教えてくれる。後は


「シャオリー!」


 夜空に浮かんでいる弟子を呼びつける。

 ふわふわと降りてくる弟子の顔は一仕事を終えた後のように清々しかった。


「どうしました師匠?」

「ごめんね、王女様逃がしちゃったの。闇精霊つけてあるから辿れると思うけど、追いかけてもらえない?」


 シャオリーは逃がしちゃった、の部分で驚いていたが、その後の言葉を聞いてふむふむと首を縦に動かしてやがてパッと笑顔になると


「分かりました! 王女様の追跡、行ってきます! コール、"幽闇の衣"」


 即座に闇夜に消えるようにシャオリーの姿が見えなくなる。

 ほんと、出鱈目なマナ量よね……

 あの子気づいてないけど、半ば使った自分のマナを周囲から吸収している。

 循環とまでは言ってないけど、あの子が言う回復するっていうのはこれだ。

 自分で気づくまで教えないでいるけれど、普通の魔女はここまで魔法の連続使用はできない。


 私だってもうマナがかつかつで大きな魔法は使えないというのに。


「はぁ、とりあえず、王女はシャオに任せて私たちは後片付けをしましょう。シャルク達も来るはずだから」

「そうだね。シャオに任せておけばなんとかなるでしょう」


 ひとまずはシャルク達が来るまで、私たちの仕事は終わり。

 後はよろしくね、シャオ。


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