表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
第二章:冒険と王女と暗躍の都【帝暦715年】
36/123

幽霊と提案と謀の行く末

「王子と王女を、預けたい?」

「そうだ、二人をシャオリー、君に預けたい。具体的にはしばらく君のいる森で匿ってほしいんだ」


 ……整理しよう。

 第四王女ルルティエ殿下。12歳だが昼間見た限りではかなり頭の回る様子。

 第三王子ウィンドル殿下。10歳で凛々しさよりも可愛らしさが前に出ている少年。

 この二人を預かる? なんのために?


 考えられるとすればやはり、魔導王国か。

 これは戦争になる、またはその危険性を考えている。

 それにサラ殿下のことだってある。

 なるほど、王城に居てはいつ狙われるか分かったものじゃない。

 せめて一番年下の二人だけでも逃がせないかということか。


「二人を逃がして、戦争でも始めるつもりですか?」

「……そのつもりはないが、向こうが始めたらそうも言ってられなくなる」


 やっぱり、魔導王国絡みか。


「返答する前に一つ、私から提案があるのですが」

「なんだい?」


 そこで私はニヤリと笑みを浮かべて見せる。

 突拍子もないことだから自信があるように印象付けるために。


「サラティエ殿下に直接問いただして見ようかと考えています」

「それは、難しいだろうな。そもそも君は関係がないだろう?」

「関係があろうがなかろうが私はこの事態を見過ごせない。だから余計なことだろうと首を突っ込むの。仮に断っても私は独自に動くわよ?」


 ウィリアムは口を開けたり閉じたり唸った後、肩を落として私に向き直る。


「そう言われたら、承諾するしかないな……僕らの手に君を捕まえたり拘束したりする手立てがない……」

「はい、理解が早くて助かります」


 私の透過と浮遊は魔法じゃないから堅牢な牢屋だろうと無意味だ。

 魔法無効化されてもね。

 さらに魔法で拘束しようとしても私にはそれらを打ち破るだけの可能性を、フィーアごしに聞いているのだろう。

 今の神王国に私を捕らえることはできない。

 これはそういう前提の脅しだ。


「だが、正直我々もサラを怪しんでいるが証拠がないんだ。もしも無罪なら君は」

「そうですね、証拠はありません。失敗したなら死刑もありますね」

「なら!」

「なのでこれは作戦の内容に関わるのですが、私の独断で行われたと、失敗した時は宣言してください」

「とはいいつつ、この作戦はその証拠を見つけるための作戦ですから」


「だが言ってはなんだがサラは頭が回るぞ? 魔法も使える。捕らえることは難しいだろうな」

「彼女が女性である限り、私と相対したならば私から逃げるのは無理です」

「……まさか」


 私の発言に反応したのはウィリアムとフィーアだけだ。

 フィーアにも作戦は伝えていない。

 この二人は私のことを知っているからなぁ。


「なので、ウィリアム王子にはあるものの準備をお願いします」

「……分かった。君に乗ろう。父上にはこの後君に話してもらうからね? それで、具体的な方法についてだけど」

「はい、それを話す前に一つ確認が。サラティエ殿下は遠距離で会話することのできる術を持っていますか? 魔法でも魔道具でもいいですが」

「いや、持っていない。はずだ。だがサラは魔導王国と繋がっている疑惑がある。もしかすると……」


 最悪、こちらの動きがばれている可能性も考慮して動かないとダメかな。


「分かりました。という訳で最初の依頼ですが、お断りさせていただきます。意味は、判りますよね?」

「あぁ、判っている」

「結構、では作戦の説明に入ります。まず――」


 その後、ウィリアム達と作戦を練って各自に行動を開始してもらった。

 話を聞いたルルティナ殿下達は目を見開いて驚いたが、なんとか納得してくれた。

 フィーアだけは心配そうに声をかけてきたが、大丈夫、と言うと溜息を一つついてそれ以上は何も言わないでくれた。


 その後、王様と王妃の部屋へと案内されたが、そこには第一王子の姿もあった。

 彼らから感謝の言葉を貰い、恩賞の話になろうというところで先ほどの話を彼らに話す。


 その反応はルルティナ達と同じだったが、なんとか理解してもらえた。


 その後は王城を出て方々や師匠へ準備や連絡で走り回り、サラティエ殿下がやってくる日を待った。


 そして、3日後――


 ◆


「シャオリー、来たわよ。サラ殿下からの密会の招待状」


 フィーアが部屋に入ってくるなり手紙を見せてくる。

 それはサラ殿下が魔法ギルド経由でフィーアに宛てた手紙。内容は


「内容は今夜、神王都の商業区の外れ、廃棄された商館を指定されたわ。できれば少人数で目立たないように、私ともう一人くらいと言われているけれど」

「ありがとうフィーア。もう一人はシャルクに行ってもらおう。その方が見た目自然だからね。王子たちにはルルティナ殿下から伝えてもらおう」


 ルルティナ殿下はまた使用人の姿でこの宿屋に待機してもらっている。

 彼女は王城との連絡役だ。

 彼女の持っているペンダントが双方向のみだがウィリアム王子と連絡が取れる魔道具になっているらしい。

 効果範囲は神王国内のみだが、王家の秘宝らしい。


 似たような魔道具をサラティエ殿下が持ってないといいんだけど。


「分かったわ。それじゃあシャルク。夜に出るから今のうちに寝ておくといいわよ。多分シャオの作戦が成功すると夜明けまでバタバタするからね」

「ねぇ、本当にやるのかい? いや、シャオを信じてはいるけどさ」

「大丈夫よシャルク。それほど危険でもないから。それより合図、見逃さないでよ?」

「分かったよ。やってやるさ」


 そこからルルティナに頼んでウィリアムへ作戦決行を知らせる。

 あとは、サラティエ殿下がどうでるか、か。


 ◆


 商業区の外れ、廃墟となった商館に二人の男女が立っていた。

 騎士甲冑を身に付けて直立不動でいる男と少し赤色の入った黒のローブに帽子と杖、如何にもな魔女姿の少女。

 予定では双月の金が頂点を過ぎる頃の待ち合わせだ。

 半刻程前から待機している二人には緊張が見える。


 やがて、商館の扉が開かれて今度は三人の人影が入ってくる。

 小柄な男と大柄な男、そして間に挟まれるようにフードを被った女性が歩いてくる。


「魔法の鳥」


 女性があらかじめ決めていた符丁の言葉を紡ぐと、合わせて少女も符丁の言葉を紡ぐ。


「死して灰は再生する」


 この世界に存在する魔獣の中に死んでも身体は灰となり甦る鳥が存在する。

 その特徴を符丁とした合言葉。


 それを聞いたフードの女性は被っていたフードを外してその金髪を露にする。


「お久しぶりです。サラティエ王女殿下」

「フィーア、と言ったわね。私は覚えていないけれど宮廷魔術師なら会話くらいしたことがあるか」

「はい、王女殿下の誕生日に挨拶させていただきました」

「そうか、すまぬな。覚えていない」

「いえ、時間もありませんし本題を」

「そうだな。この後私は王城へ行かねばならぬ。父上達の具合が心配だ」


 その時、サラティエの体がくらりと倒れそうになる。

 横の大男がサッと腕で支えたので倒れることはなかった。


「殿下? どうされました?」

「……なんでもない。立ちくらみがしただけだ」

「そうですか、では要件を済ませてしまいましょう。第二王子の情報ですが――」


 その瞬間、廃墟の扉が大きな音を立てて破壊された。


「?! 何事だ!」

「久しいなサラティエ」

「……ウィリアム、貴様がどうして」

「お前が私を嗅ぎ回っているという情報を得てな。どうやら本当のようだ」

「情報……まさかお前た――」


 サラティエが振り返るのと同時にフィーアと騎士、シャルクが前に出る。


「殿下、ここはお逃げください。私たちが時間を稼ぎます!」

「僕らが盾になっている間に! 早く!」

「お前たちが売ったのではないのか……?」

「宮廷魔術師団は前から第二王子を怪しんでおりました。ですので私は貴方を信じます!」


「……そうか、すまない」


 サラティエはそう一言残すと商館の奥に走り去っていく。

 後ろでは剣劇や魔法の爆発音が響いていたが振り返らず走る。

 大男と小男も追従し、やがて商館の奥の部屋に入るとそこには魔法陣が描かれていた。


「まさか、本当にこれを使うことになろうとはな」

「……殿下、お早く」

「分かっている。コルト、後始末は任せたぞ」

「御意」


 サラティエと大男は魔法陣の中に入るとマナを流し始める。


「転移、ポイント1」


 そうマナを乗せた言葉を紡ぐと周りの景色が瞬時に切り替わる。

 周囲は木々に囲まれて薄暗い。


 辺りを見て誰も居ないことを確認して肩の力を抜く。


「まったく、まさかウィリアムに見つかるとはな」

「予定が狂いましたがどうしますか?」

「コルトが魔法陣を消して合流するまで待つが、城には戻れないな……『このままでは王達にかけた呪いが』」

「えぇ、呪いを解呪するには接触しなくてはなりませんからね。第二王子が動いたとなると伯爵にも疑惑が――」

「待て! 今私は呪いについて言ってはいないぞ?!」

「え? でも確かに殿下の口から」


 ここまでか。

 だけどサラティエ達は呪いのことを知っていた。

 それだけなら解呪の方法を見つけてきたと言い逃れができるだろうが、伯爵と、言ったな。

 確かウィリアム王子に関する噂に羽振りの良くなった伯爵がいたはず。

 繋がってきた。


 私は憑依していたサラティエの体から出て彼らの後ろに立つ。


「お前は?! 一体どこから?!」


 そう言って小カバンからウィリアムから預かった宝珠を取り出し、エクリプスの魔導書へ命じる。


「コール、黒鉄牢、セット、21。コール、爆炎花」


 直後半径21mの円形に黒鉄の牢獄が大地を裂いて現れる。


 そして上空に炎の爆弾を打ち上げるとそれは大きな音を立てて夜中に大輪の花を咲かせた。

 合わせて手に持った宝珠を大地に埋め込んでマナを流す。

 すると発動していたエクリプスがからマナが消えて地面に落ちそうになったので、キャッチ。


「これでこの牢屋の中では魔法は使えません」


 宝珠の半径は調査の結果半径20m程の魔法陣を展開する。

 ならば、その外側に魔法を置いておけばいい。


「何?! 貴様は、一体……」


「初めましてサラティエ王女殿下。私は魔女、ヴィ・シャオリー。ただの魔女です」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ