幽霊と情報と神王国の第二王子
神王都アルバトロスに到着してすぐ、アーネのお勧めの宿屋へと向かった。
その宿屋は表通りから少し外れた所にあり、高すぎず安すぎず、冒険者の中でもシルバー以上が使うとされる宿屋だそうだ。
ここを選んだ理由は単純で、目立たない。
安い宿屋に私達みたいのが泊まると目立って情報がすぐに拡散するそうだ。
逆に高い宿屋だと場違いとこれまた目立つ。
私達はこれでも不正規の手段で王城に忍び込もうとしているのだ。
目立つのはまずい。
「さてさて、これからの予定を決めましょうか」
宿屋の2階で大部屋を1部屋借りたその中で師匠が皆をテーブルに集める。
「私とシャルクは買いだしに出かけてくるよ。ついでに冒険者ギルドで情報を集めてくる」
「アーネがそっちに行くなら私は魔法ギルドを見てくるわ。何か情報が得られるかもしれないから」
「3人とも気を付けて。私達が第2王子を警戒していることが向こうに伝わっている可能性もあるから」
「そうね。とはいえ、別に完全に敵対しているわけでもないわ。証拠がないし」
「向こうが私達を邪魔だと思った瞬間に敵になる。油断はしちゃだめだよ?」
「分かったわ。気を付ける。シャオとシュナスさんは?」
「師匠と私は王城の方を下見に行ってくる。これから忍びこもうとしているわけだし一応ね」
「うん、それじゃあ、夕方にまた宿屋ってことで」
宿屋を出て各自散開する。
盗賊達からの情報もあるが、適当に歩いていれば向こうから接触してくるだろう。
「さて、師匠。私達も行きましょうか」
「そうね、私も神王都へ来るのは久しぶりだわ。でもまぁ、道に迷うことはなさそうね」
そう言って師匠は都の中央を見やる。
そこにそびえるのはこの神王都の中心部、王が住まう城、アルバトロス城。
この街は城を中心に3区画に分かれており、王城のある中枢区、商店の並ぶ商業区、住居が並ぶ居住区と分かれている。
私達が泊まっているのは商業区にある宿屋だ。
基本的に外部から来た人間は商業区に宿泊したりする。居住区はあくまで神王都に住む人間のためにある。
3層構造と格差社会があるように聞こえるが、実際は中枢区に貴族や王族がいるため差はあるが、商業区と居住区は差別や格差はない。
商業区は夜でも騒がしいことも多く、住民との折り合いを良くするために区分けされているそうだ。
中央へ進むと中枢区の壁が見えてくる。
外壁と同様の白い壁で囲まれたこの壁の入口は二つしかない。
一つは表門、今私達が向かっている場所だ。
貴族も客人も大抵ここを通る。
しかも1日中見張りが交代で居て隙もない。
もう一つは裏門、王族専用と呼ばれている門だ。
こちらが開かれることはほぼないと言われている。
お忍びでの出立や重要な客人のための門だとも。
「で、これがその中枢区を守る堅牢な壁と門ですか」
「そうね、ここの壁はあそこまでしかないように見えるけど、実はこの壁自体が巨大な魔法陣を内包していてね。上空を通るものを自動で察知してくれるそうよ」
「はーそんな巨大な魔法陣が」
「あなたも似たようなの森に張り巡らしているじゃない?」
「あれは複数の魔法陣を組み合わせてフォローしあっているんですよ。一つの魔法陣で補うにはマナが足りなすぎます」
「マナ、ね。それは供給源があれば出来るってことかしら?」
「えぇ、魔法陣自体は完成していますよ。森全体を覆える巨大な魔法陣ですが」
「……そう、なら、帰ったら良い事を教えてあげましょう」
「良い事?」
「4階の部屋へ入れて上げるわ。そろそろ貴方にも教えておこうと思っていたし」
「……良いのですか?」
4階の部屋、師匠が立ち入りを禁止していた部屋だ。
無理に押し通そうとすれば入れたけれど、師匠の許可を得るまでは止めておこうと思っていた。
あの部屋は何の部屋なのか。ずっと気にはなっていたんだ。
今、この話の流れではマナに関する何かがあるのだろうか?
「詳しい事は帰ったら教えてあげる。今は眼の前のことをね」
「はい」
一先ずは侵入できそうなルートを見ておく。
とは言いつつ、表から堂々と侵入するのだが。
「お前達、何をきょろきょろとしている!」
じろじろと壁や内部を見ようとしていたからか、見周り中の衛兵の一人に声を掛けられた。
あからさまにしすぎたか。
「あーいえ、すいません。私達タルタスの町から行商で来たんですが王城を見て見たくて~すいません」
「観光か? まったく、気持ちは分かるがほどほどにな」
衛兵は嘆息して呆れ顔でこちらを見てきた。
きっと似たような輩も多いのだろう。
スッと衛兵が謝る私の横を通り過ぎようとした時、私の右手の中に何かを入れて来た。
「報酬だ」
小さくそう言った衛兵はそのまま外周の見周りへ戻って行った。
右手を開くと小さく折りたたまれた紙が入っていたのでそれを小カバンへ仕舞う。
「何かあった?」
「盗賊連合からの依頼の報酬です」
「……そう、じゃ、王城も見れたし戻りましょうか」
「はい」
そのまま宿への道を戻りながら道順を頭へ入れて行く。
◆
夕方、宿屋に戻ってきた私達はフィーア達が戻ってきたのを見て一緒に夕食を取る。
宿屋の1階が食事スペースになっていたが、食べながら話そうと食事だけを部屋に持ち帰ってきた。
「それじゃ、それぞれの報告を聞こうか」
「じゃあ僕らから。冒険者ギルドに行ったけど特に変わりはなかったよ。いつものように活気があるギルドだった」
「でも、出ているクエストに妙な偏りがあったね。なんというか収集、討伐系のクエストが東に寄っている感じだ。どれも神王国の東側に生息したりしているものが多い。西側のものがほぼなかった」
東、エンバルディア聖王国の方か。
聖王国に冒険者を寄せたい意図が?
それとも、逆か?
マギリス魔導王国に冒険者を近寄らせたくはない?
「それは、たまたまとか時期的にではなくて?」
「いつもはもっとまばらだったと思う。とはいえ、それが何になるかと言われると分からないよ。違和感程度さ。これに第二王子が関わっているとは思えない」
「頭には入れておこう。フィーアは?」
フィーアを見ると少し考え事をしているようだ。
「……あ、ごめんなさい。私の話は最後にさせてもらうわ。まずはその盗賊連合の情報を聞きましょう」
「? 分かった」
何かあったんだろうか?
後で話が聞けるようだし私は小カバンから取り出した紙を開いてそれを声に出して読む。
「"漆喰の牙 荒事屋のハーン 及び 情報屋のシング"って名前が書いてある。これは、きっと信頼というか信用の証って奴かな。変な所で真面目な盗賊だ」
「で、内容は?」
「うん、それが……」
手紙の内容を要約するとこうだ。
第二王子についての噂を纏めると大きく3つの噂があった。
一つ目は第二王子の周りで部下の不審死が相次いでいること。
最初は彼の侍従の者だったという。一人目は王城から転落死。二人目は服毒による自殺。
本当のことか分からないがそれ以来人を近付けなくなったとか。
二つ目は第二王子の野心が窺い知れるところか。外交に力を入れようとしており、西のマギリス魔導王国へ使者を何回か送っているそうだ。
三つ目は彼自身ではないが、その配下にして忠臣とされているゴート伯爵の領地で最近羽振りが良くなったという噂だ。
他細々としたものがあったが、大きくはこの3つだろう。
「不審死……単純に考えれば第二王子が邪魔者を消したか?」
「いやシャルク、それならその後の人を近付けないが少し違和感を感じるよ。むしろ警戒しているんじゃないか?」
「第二王子も狙われている?」
「そこは推測の域を出ないわね。それに部下のゴート伯爵かしら。彼の羽振りが良くなったというのはきな臭いわね」
「そこは第二王子が実権を握り始めた見返りと……なるほど、つまりゴート伯爵が今回の件に絡んでいると?」
シャルクの言葉に頷く。
「そうだね、そして二つ目のマギリス魔導王国。これは冒険者ギルドのことを考えると、魔導王国側から人を遠ざけようとしている動きにも見えなくもない……フィーア?」
フィーアがおずおずと腕を上げる。
何か言いたいのかな?
「その件で、実は相談があるの」
「相談?」
「えぇ、マギリス魔導王国にも関連するんだけど、魔法ギルドと宮廷魔術師団経由で私に話が来ていたわ」
「どんな話?」
フィーアは少し目を伏せつつ、深刻そうな顔で言葉を紡ぐ。
「魔導王国に外交中の第二王女、サラ殿下から直々に現在の王城の内情を探ってほしいという依頼です」




