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異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
第二章:冒険と王女と暗躍の都【帝暦715年】
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幽霊と土竜と峠の追跡戦

「見えたぞ。あれがアングラールの今のねぐらの洞穴さ」


 ハーンの案内で峠の道を外れた林の奥へとやってきた。

 双月が昇る夜空に星と月明かりだけが灯る。

 アングラールは火の明かりに敏感で、明かりに気が付くと襲いかかってくるそうだ。

 この峠に追い立てるまでは火を囮にしたそうだが、ここの土が気に行ったのか居着いてしまった。


「正直言えば、貴族の元からこいつを遠ざけた段階で俺達の目的は果たしているんだが、仲間がやられている以上放って逃げるわけにもいかなくなってな」

「メンツなんて、捨てて逃げればいい。大したメンツでもないくせに」

「そう邪険にしないでアーネ。盗賊といえど仲間想いは立派じゃない?」


 ツンケンするアーネを宥めながら私達はアングラールの巣を見やる。


「アングラールってどんな見た目なんですか?」

「見た目は毛むくじゃらのデカブツだ。茶色い毛皮が針みたいに尖ってて、手には鉄をも切り裂く爪。それで土を掘って地中を進みやがる。しかも地属性の魔法も使うって話さ」

「なるほど、ちなみに確認だけど、アングラールを退治することで問題ないよね?」

「あぁ、それで問題ないですぜ。死体はこちらで引き受けますわ。代わりに情報は今探らせてますから」

「了解。じゃ、さっそくやりますか」


 私はエクリプスをブックホルダーから外して構える。


「師匠、みんな、一先ずは私にやらせて貰えないかな?」

「いいけど、何する気だい?」

「んーとりあえず巣穴から出て貰おうかな?」


 そしてエクリプスをめくり、呪文を唱える。


「モードルナ、セット……コール、"水竜の抜け道"」


 水竜の抜け道。私が組み合わせて生み出した魔法陣の一つ。

 その効果はすぐに現れる。


「? なんだい? これは、地面に魔法陣が」


 アーネの言う通り、これは私を中心に魔法陣を展開するもの。

 魔法陣の直径は100m。

 ちょうどアングラールの巣穴を範囲に入れて起動した。


「これからアングラールを地上に出します。この魔法陣は空気中の魔素を水に変えて地中に流し込み続けます。隙間があればどんなところにも染み渡る。やがて、この魔法陣の下に空洞は無くなる」

「そうか、水で奴の巣穴を水没させてしまおうってことか」

「いえ、それだけだと足りませんから、もうひと手間」


 再びエクリプスに目を向けて別の呪文を唱える。


「コール、"水妖精の便り"。コール、"地を別つ障壁"、ループ、エンドコール」


 青の燐光を発する魔法陣に重ねるように魔法陣を展開する。

 青と黄の燐光を迸らせ、魔法陣は連なり重なりあって事象を巻き起こす。


 水妖精の便りは水を伝って水の中の様子を把握するための魔法。

 これで地中への水の行きわたり具合を調べる。

 ついでにアングラールの位置も把握した。

 まだねぐらまで水が行きわたっていないが、滴る水を浴びてご立腹らしい。ちょうどいいかな。


 地を別つ障壁は土壁を作る魔法。

 それを"エンド"とコールするまで繰り返す。

 空洞の遠い所から障壁を作り続けてアングラールを追いたてる。

 追い立てる先は眼の前の入口だ。


 アングラールが新たな穴を掘らないように掘りそうな場所に障壁を出現させて誘導する。


「"エンド"みんな、あと少しであの穴倉から出てきます。後はよろしくお願いしますね」

「りょーかい。憂さ晴らしだ。私の斧を叩きつけてやるよ」

「ここは前衛の我々にお任せを」

「私は後ろで見てるから、しっかりやりな」

「では俺も後ろで。なに分盗賊なんで、非力なもんですよ」

「じゃあ私も大きいのを唱えて準備してましょうかね」


 それぞれが先頭の準備をし始める中、私は追い立てながら少し、違和感を感じていた。


 風妖精の便りで知覚したアングラールの姿だが、毛むくじゃら? には思えなかった。

 どちらかというとスマートな感じで、毛も生えていないような丸いというより長いというか、これは……


 その答えはすぐに目の前に現れる。


「Grrrrrrrrrッ!」


 出てきたのは、地を這うドラゴンだった。

 身体は土色の鱗に覆われ所々刺々しい。

 4足で歩行して這い出てくるがその背には翼は無く、地獄の底から這い出てきたかのようだ。


「ねぇハーンさん......私達はアングラールってモルグ似の魔獣の相手をするんじゃなかったっけ?」


 ハーンの顔を伺うと彼も青い顔をしていた。


「し、知らねぇ! 俺はこんなやつ知らねぇよ!?」

「やっぱり、ここまで育ったのね」

「師匠?! 何か知っているんですか?」


 師匠は予測していたように静かに見つめている。


「アングラールは幼体の名前、その本来の姿は土竜アングラント。幼い頃は針のような体毛でも成竜になると固い鱗になり、体調も倍になると言われているわ」


 土竜、つまりドラゴンだ。

 この世界にもドラゴンは居る。

 上から下までピンキリらしいけど最低でもゴールドランクの危険度と強さだったはず。


「なんでさっき言ってくれなかったんですか?!」

「アングラールは滅多に成竜にならないのよ......その生息地は外敵が多くて成長できない。グランドワームや地竜も居るから余計にね。でも人に飼われたことで成長が進んでいたのね」


 なに冷静になってるんだこの師匠は......


「別に慌てる必要はないわよ」

「え?」


 師匠との押し問答の間にもこちらに気づいた土竜がこちらに突撃してくる。

 だがふと、視界に青い燐光が見えた。


【......天空より来たれ嵐の竜、砕け! 吹き荒れる嵐竜の足跡(テンペスト・ドロップ)!】


 燐光は一層輝き天より風と水の竜が土竜目掛けて落ちてきた。


「シャオ? 慌てちゃ駄目よ。常に冷静に、ね?」


 フィーアはこの状況で慌てず準備していた魔法を唱えきった。

 土竜は地面に伏せって動きを止めている。その隙を逃さず二つの影がまっすぐに飛び出した。


「シャオ~実践は初めてかい? ホーンベアの時は不意討ちだったからなぁ!」

「シャオ、怖いなら下がっても大丈夫だよ?」


 ......シャルクには悪意はないんだろう。でも今のは、カチンと来た。


「怖くないから。ちょっとビックリしただけだから! 私も攻撃するから当たるんじゃないよ!」

「はいはーい、気を付けるよ!」


 アーネの斧が土竜の鱗に傷を着ける。が、内側まで通らない。


「かったいねーこりゃ」

「そういう時は柔らかいところを狙うんだよアーネ!」


 シャルクがハルバードを突きの構えで持ち、そのまま土竜の頭目掛けて突撃する。


「"疾風"!」


 緑の燐光を武器に纏い、速度を上げて突撃したハルバードは土竜の右目を貫いた。


「Graaaaaaaッ!」


 土竜が吠える。

 そのまま地中を掘るように潜っていく。


 逃がさない、今度は私の番の魔法をお見舞いしてやる!






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