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異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
第二章:冒険と王女と暗躍の都【帝暦715年】
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幽霊と野宿と峠の盗賊達

「アーネ」

「分かってるシャオ。見られてるね」


 先ほどから警戒を強めているアーネに声を掛けるとアーネも気づいていたようだ。


「数は、それほど多くないようだよ。10人前後ってところかな」

「でも妙ですね。盗賊なら盗賊で襲い掛かってきてもいいはずですけど見てるだけとは」


 シャルクが気配から人数を読む。


「どうやら、向こうも襲う気はなさそうな、そんな感じがするね」

「ふむ……」


 師匠が呻る。


「よし。おーい、隠れてるそこの人たち~、出てきなさい~」


 師匠が大声で辺りに叫ぶ。


「師匠? 何をしてるんですか?」

「この方が早いでしょう? 襲う気がないなら話くらいできそうだもの」

「でも危険じゃ……」

「? どう考えてもこっちの方が過剰戦力よ。並みの盗賊なんて障害にもならないわ」


 ......確かに、シルバーランク相当4人に、師匠はこれでもプラチナランクの魔女だ。

 5人とは言えただの盗賊相手じゃ確かに過剰か。


 相手も警戒していたが、やがて一人の男が茂みをかき分けて現れる。


「まったく、盗賊相手に声を掛けるなんて、とんだお嬢さん方だ」


 茂みから出てきたのは短剣を腰に差した白髪と白ひげの男。

 両手を上に上げて敵意がないことを示しながら歩いてくる。


「あなたは、盗賊のボスってところかしら?」

「あぁ、そうだ。正確にはこの一団のリーダーをしている。俺はハーン。盗賊連合の頭の一人だ」

「盗賊連合?」


 聞き慣れない言葉に首をかしげる。

 するとフィーアが補足してくれた。


「盗賊連合は複数の盗賊団が合体した大きな組織ですよ。多岐な商売に携わる闇組織的な部分もあります」

「ギルドのような?」

「ギルドほど纏まってないですし各地の盗賊連合で横の繋がりはないと聞きます」

「そこの譲ちゃんの話はまぁ、間違っていないが、俺達"漆喰の牙"はあくどいことはしちゃいないよ」

「漆喰の牙、聞いた事あるねぇ。ギルドの掲示板にあったよ。確か商人から奪うのは積荷の2割まで。殺しはしない。貴族相手には大量に奪うから貴族に目の敵にされている盗賊連合」

「へぇ、やっぱ詳しいじゃないか」


 ハーンはニヤニヤと笑っているが、内心警戒心が強まったように感じる。


「ところでハーンさん? あなたは何しに出てきたのですか?」

「あぁ、それな。実はあんた達に頼みがあって、な」

「頼み?」


 はて、盗賊から頼まれることなどあるだろうか?


「アングラール、って魔獣を知っているか?」

「アングラール?」


 振り返ってみるがアーネ達も知らないらしい。


「……珍しい名前を聞いたもんだ」

「師匠は知っているんですか?」


 師匠は少し真剣な顔をしてハーンを見ている。


「アングラール、モルグのような外見をしているが体調は3mにもなる大型の魔獣。その体毛は鋼のようで、外見同様土に潜って移動し、地属性の魔法を扱う……南のガイルド武王国に生息する魔獣だよ」


 モルグ、向こうでいうところのモグラのような動物だったはず。


「へぇ、あんた詳しいな。そのとおりだ」


 盗賊が感心する中師匠はその険しい目を外さない。


「あいつは暖かい場所を好むはずだ。この近くにいるとは聞いたことがない。どういうことだい?」

「……俺たちがここまで追い込んだんだ。とある貴族が魔獣を飼うことを趣味にしていてな。だがでかくなった途端放し飼いにし始めてたから、盗んでやろうと思ってな」

「そいつも物好きだがあんたらも大概だねぇ。どうしてそんなことを? 魔獣愛護なんてわけでもなかろうに?」

「貴族の領地の民の中にうちの団の家族が居たのさ。そいつの頼みだ」

「そうかい」


「その、アングラールがどうかしたんですか?」


 別に盗賊の身の上話には興味がない。話の先を促す。


「あぁ、結論から言えば追い込んだはいいものの、この峠を巣にされてお手上げ状態。何人かやられてしまっているし、ここを通る商人も犠牲になっている」


 門番が言っていた商人の話、盗賊の仕業じゃなかったのか。


「まぁ、犠牲になった商人の金品は頂いたんだがな」


 やはり盗賊は盗賊か。


「そこでだ、あんたたち。見たところ腕は結構立つんだろ? こう見えて人を見る目は確かなんだ。アングラール退治。引き受けてくれないかい?」


 なるほど、自分たちの手で負えなくなった魔獣を私たちに押し付けようということか。


「おっと、タダでとは言わない。依頼料は払うさ。俺たちは真っ当な盗賊なんだ」

「盗賊に真っ当もなにもないと思うけど」


 アーネが毒を吐いた。

 その雰囲気からは何か盗賊に思うことでもあるのだろうか。


「それに、それは盗んだ金品でしょう。私たちは受け取れませんね」


 フィーアが依頼料を断る。

 確かに盗んだ金品を受け取るわけにはいかないな。


「……じゃあこれは借りだ。あんた達、何がほしい? たいていの物なら手に入るぞ」

「だから、盗みで得たものなんてッ……? シャオリー」


 私は反論するアーネを腕で制して、前に出る。


「あなた達、情報の価値って、分かる?」


 それを聞いてハーンは眼を見開いたが、すぐに笑みを浮かべた。


「あぁ、知っているぜ。うちの連合にはそっち専門のヤツもいるからな」


 ふむ、それは、好都合だ。


「じゃあ報酬は情報よ。神王都の第二王子周辺の情報。噂話でもどんなに小さなものでもいいから集めて欲しい。それで引き受けてあげる」

「おい、シャオリー。こいつらは盗賊だぞ?」

「待って、アーネ。悪い話じゃないわ。私達が危険を負わずに情報を得られる」

「でもフィーア」

「今は私情より目的を果たしましょう?」

「......分かったよ」


「話は分かった。あんたらも訳ありってことかい。第二王子の情報は仲間に探らせる」


 ハーンが右手を挙げると隠れていた一人が走り去る。

 素早い動きだなぁ。ただの盗賊じゃないのかもしれない。


「いいのかい? 言っといてなんだが危険な依頼だよ?」


 シャルクが訪ねるがハーンはどうってことないように笑う。


「第二王子の話なら別に危険じゃねぇよ。裏の世界ではそこそこ有名人さ。噂程度ならすぐ集まる。調査となったら別料金だがな」

「つまり、お金を払えば調査もしてくれると?」

「さてね、仲間を紹介してやるから後はそいつの判断だ」

「分かった。それでいいよ」

「助かるぜ。お願いしたいが明日にするかい?」

「いえ、このままやりましょう。時間が惜しい」


 師匠が腰を上げて立ち上がると、フィーア達も続いた。


「仕方ない。私も動くよ。盗賊のためじゃない。シャオと王家のためだ」


 アーネも斧を担いで準備を始める。


「分かった。奴が潜んでいる辺りには俺が案内する」


「さて、準備を整えたらすぐに行くよ。アングラール狩りだ!」


 なんだかんだまともな戦闘はホーンベアを除けば初めてか。

 森は平和だったからなぁ。


 せっかくだから作った魔法をいくつか試してみようか。

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