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異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
第二章:冒険と王女と暗躍の都【帝暦715年】
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幽霊と宿場と初めての野宿

 ドリーに見送られて深霧の森を出発した私達は、タルタスの町にやって来ていた。

 早朝に出発したため、まだ日が昇り切っていない。

 今日の予定はタルタスでの用事を済ませたら最初の宿場町ホルン到着予定だ。


「おや? 森の魔女さん達じゃないですか。今回は早いですね? しかもお二人揃ってとは、何かありましたか?」


 町の門で門番のジョアンさんがこちらに気づいて声を掛けて来た。

 いつもは20日くらいの周期でやってくるが、今回は前回から5日しか経っていない。

 最近は私一人で来ていたし、気になったんだろう。


「いえ、これから用があって神王都の方へ出ることになったんですよ。しばらくは向こうに居るのでその間こっちの薬が切れないように量を作って卸しに来たんです」

「へぇ、神王都ですか。ここは最北端の町ですからね。片道で5日程でしたか。ご苦労様です。ということは今日はこちらの門は通られないんですね?」

「そうなります。次に戻るのはしばらく後になりますね」

「分かりました。道中お気をつけて!」


 笑顔で送り出してくれたジョアンさんは何も聞かずに見送ってくれた。

 一緒に居たフィーア達も護衛の冒険者と言ったら怪しむことなく通してくれた。


「いい人そうですね」

「うん、いい人だよ」


 フィーアと他愛無い会話をしながら通いなれた路地を曲がる。

 薬屋ベルガモットに来ると店先で掃除をしていたミリーがこちらに気づいて手を振った。


「シャオ? 今回は早いね、どうしたの?」

「ミリー、ちょっとね。実は……」


 ミリーに神王都に行くことを伝え、追加の薬のことを話す。


「そっか、神王都に行くんだろ。それでこんなに薬とポーションをね。ありがと」

「聞かないの? 何しに行くんだって?」

「気にならないと言ったら嘘だけど、それはシャオとシュナさんが決めたことでしょ? 私が口を挟むことじゃないかな」


 ミリーは朗らかに笑いながらそんなことを言う。


「そっか、ごめんね、用事が終わったら帰ってくるからその時にゆっくり話すね」

「うん、待ってる」

「あ、これカリエさん用の薬ね。薬効の高いのが採れたから作っておいたよ」

「ありがとう。お婆ちゃんも最近調子悪いみたいでね。助かるよ」


「シャオ、薬、運んで置いたよ」


 アーネ達が薬とポーションを卸してくれていたようだ、さすが冒険者やってるだけあって力仕事は早いな。


「ありがとうアーネ、シャルク、フィーア。それじゃミリー、行ってくるね」

「いってらっしゃいシャオ。皆さんも気を付けて」


 ベルガモットを後にして馬車を走らせ南の門へと向かう。

 今馬車を運転しているのはシャルクとアーネだ。

 フィーアと師匠と私は荷物の空いた荷台で今後のことを話していた。


「と言うわけで、考えられる王達の病の原因だが、私は病気の線は薄いと思っている」

「それはやはり、呪いを疑っている、ということですか?」

「そうね、その線が濃いでしょう。症状を聞く限りその三人しか倒れていないのがおかしいわ。侍従の一人や二人倒れてもおかしくない。しかも呪いだったとしてもその対処は千差万別。それを突き止めないと解呪も難しい」

「……それで私なんですよね……」

「ふふ、期待しているわ。この方法なら確実に呪いの種類が分かる」

「はぁ……ほんと、頼みますよ師匠」


 結局、呪いについての知識をひたすら教え込まれたが結論として私では解呪することまでは出来ない。単純に時間が足りない。

 そこまで覚えるのには最低でも1年は欲しいところだ。

 病ならなんとかできそうなんだけど……


 そこで考えられたのが私の能力の一つ、"憑依"だ。

 師匠がとっておきと言っていた秘策。

 憑依によって相手に重なることで相手の感覚とシンクロする。

 呪いとは身体の中のマナに作用する現象らしく、作用しているマナを正常に戻すことを解呪と呼んでいる。つまり、シンクロしてどの場所にマナの濁りがあるかを把握すれば、あとは師匠が解呪を行うという手筈だ。

 つまり、私に呪いを写して正体を探るという危険な行為である。


「それ、私も一度呪われろって言ってるようなものなんですからね?」

「むしろ、こんな方法が取れるのはあんたしか居ないわけだし、これはシャオにしかできないことなのよ?」

「そんなこと言ったって……」


「まぁ頑張ってくださいシャオ。こちらも万全の状態で準備しておきますから」


 フィーアの苦笑いが辛い。

 この話を聞いたときにフィーアも驚いていたが命に別状がないなら、と納得してしまった。そこはもうちょっと反対して欲しかった。


「私としては、そもそもシャオが王達の下へ辿りつけるかの方が心配なんですが……」

「それはなんとかなる、としか」

「その、もう一回聞いてもいいですか? というか、そろそろそのとっておきの魔法っての見せてくれてもいいのでは?」

「しょうがないなぁ、少しだけだよ? 本当は当日まで秘密にしようと思ったんだけどね」


 フィーアにせがまれては見せないわけにはいかない。

 ふふふ、これこそが真の幽霊となるために生みだしたオリジナル魔法。


「コール、"幽闇の衣"」


 立ちあがった私の足元に魔法陣が生まれる。燐光は黒。つまりこれは闇魔法の一つということだ。

 パッと見ではそう思うだろう。


「これは……水と火と風の魔法も混じっていますね。4種複合魔法とは……これだけでも驚愕ですが」


 その通り、これは4種複合魔法。

 闇属性魔法の"シャドーベール"。影を纏うことで闇夜で認識されにくくなる魔法。

 夜しか使えない上に地味なのであまり使われないが、これに別の属性を付与することでこれは完成する。

 火属性の"ミラージュ"。陽炎のように揺らめく幻影を作る魔法。

 水属性の"アクア・カーテン"。水に写しだした幻を見せる魔法。

 風属性の"イリュージョン"。風の障壁で別のものを見せる魔法。


 これら各属性の幻影魔法を組み合わせ、所々処理を弄ったり調整したりして完成したのがこの"幽闇の衣"だ。

 その効果は見ていれば分かる。


「......! シャオの姿が消えてッ!?」


 そう、これは所謂ステルス。光学迷彩。相手から視認されなくなる魔法。

 4種複合魔法で高度な上にマナを大量に消費し続けるため、コスパは良くない上、見えないだけで人に当たればぶつかるから汎用性は高くない。そう、普通の人が使えば。


「ふふふ、この魔法は昼間でもどこでも視認されなくなる魔法。そして、私の幽霊族としての特性の透過を併用する。つまり、見えないし触れない私に潜りこめない場所は無いってことよ!」

「……また、一般には出せないような魔法ですね。シャオ、あなた、分かっていて作っていますね?」


 当然だ。これらの魔法は悪用されれば一瞬で広まる。

 そしたら魔法の製作者である私の名前に傷が付く。

 世界一の魔女に不名誉な傷は必要ないのだから。


「私は真っ当な魔女を目指すんですから。こんな悪用されまくりそうな魔法、世に出してたまるかってもんですよ」

「自分が悪用するのはいいのね」

「いいフィーア、世の中の真理を教えてあげる」

「なんですか?」

「結果的に良いことに繋がって、誰にも迷惑を掛けないならそれは良い事なのよ」

「……方便じゃないですか」

「今回のことは誰にも迷惑かけないからいいの。衛兵さん達は侵入されたことに気づかずに巡回を終えれるのだから」

「分かりました。あなたに依頼したのは私ですから。私も共犯です。だから、頼みましたよ?」

「任せない、フィーアも神王都についたら城の見取り図と順路の作成、王に会った時の身分の証のための準備とやること多いんだから、頼むわよ?」

「はい、そこは任せてください」


 そして日が暮れて、金の月が見え始めた頃、最初の宿場町ホルンへと着いた。

 この宿場町はタルタスへ向かうためには大抵通る場所で割りと賑わっている。

 既に日が暮れているのにも関わらず人の往き来が盛んだ。


「今日はここに泊まるが明日は野宿になる。ベッドで寝れるのは次は明後日だからゆっくり休んでください。明日は朝一でバルク峠の中腹を目指します」


 シャルクが馬車を宿屋の馬小屋に預けに行きながらそんなことを行っていた。

 せっかくだし観光したいところだが、急ぎの旅だし帰りに取っておこう。

 眠らなくてもいい私だが夜に人も居ないところをふらつく趣味はない。


 そんなわけで特に何かが起きる訳でもなく最初の宿場町で一泊した後、早朝には町を出た。

 町を出るとき門番からこんな噂を聞いた。


「あんたら神王都へ行くんだろ? ならあの峠は気を付けな。最近盗賊が住み着いたって話で商人が何人かやられてる」

「なに、私らが着いているから大丈夫だよ」

「でも警戒しましょう。なんせ私達、シャルク以外女ですからね。狙われてもおかしくないですから」


 盗賊か......

 こういう時の嫌な予感は大抵当たる。

 日も暮れて来た頃、予定通りバルク峠の中腹に着いた私達が野宿の準備をしていると、何か視線を感じた。

 しかも複数に見られている感覚。


 これはいよいよ予感的中かな?


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