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異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
第二章:冒険と王女と暗躍の都【帝暦715年】
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幽霊と騎士と他愛のない話

 アーネ達の依頼を師匠が承諾したので、私達は神王都へ向かうことになった。

 出発は5日後。タルタスのベルガモットに寄って追加の薬やポーションを卸してから神王都へ向かう。

 師匠は準備があるからとさっさと部屋に戻り、私はアーネ達を客室へ案内していた。


「こっちが女部屋、あっちが男部屋で。ちょっと埃っぽいかな。掃除は明日やるからフィーアさんは私の部屋に寝かせて、アーネさんも私の部屋を使って。シャルクさんは申し訳ないけどそのまま使ってもらうしかないね」

「僕は別に構わないよ。騎士って遠征する時は野宿だってするし、屋根があるだけでも申し分ないよ」


 シャルクはほがらかに笑って部屋の中へ入っていく。


「しかし、いいのかい? あんたの部屋なんだろう?」

「大丈夫。私は基本寝なくても問題ない身体だから。精神衛生上は寝た方が気持ちスッキリするけど、そのレベルだし」

「幽霊族、だっけ? 精霊族とのハーフとなるとやっぱりすごいんだな」

「種族として能力には恵まれましたが仲間は一人も居ませんから。私は人にも恵まれているんです。師匠もドリーも家族のように思っているし、町の人も優しいですから」


「ドリー? ここには二人じゃないのかい?」

「ええ、精霊族でドリアードのドリーが一緒です。とはいえ彼女は森の中に住んでいるので今は居ませんが」

「精霊族まで住んでいるとは、やっぱりあんたたちは変わっているね......面白いからいいけど」

「ありがとうございます。でもアーネさん、幽霊族のことは他言無用でお願いします」

「分かってるよ。そんな特異な種族、狙われない方がおかしいからね。シャルクにも言っておくよ。フィーアには?」

「目が覚めた時に自己紹介します。お二人だけ知っている状況だといずれ分かるでしょうから」


「そうかい、まぁ安心しな。フィーアは口は固い方だ。信用していい」

「ずいぶんお詳しいんですね。昔馴染みですか?」

「そんな所さ。子供の頃からの付き合いでね。今回の依頼もあの二人から私に打診があったんだ」

「そうだったのですか」


 私が幽霊族というのを知っているのはタルタスの町では門番のジョアンとベルガモットのミリーとカリエ婆ちゃん、魔法ギルドの面々だけ。

 師匠から昔注意されたように無闇に言うことはしない。

 信頼の置ける場所と人には公開したし、アーネ達のように見られてしまった場合はしょうがないと思っている。

 あの時は隠す気はなかったんだけど。


「ところで、アーネさん、はやめようか?」

「? というと?」

「私はさん付けで呼ばれるほど上等じゃないってことさ。アーネ、でいい。その代わり私もシャオリーと呼ぶ」

「そういうことですか、分かりましたアーネ」

「その畏まった話も無しにできないかい?」

「...はぁ、分かった、よろしくアーネ。仲のいい人はシャオって呼ぶ」

「オーケー、それでいい。それで? 私は仲がいいのかな? シャオ?」


 試すように笑みを浮かべてアーネは手を伸ばす。


「それは、これからの行動次第じゃない? 姐さん?」

「はっ! 言ってくれる。だがまぁ、よろしくだ、シャオ」

「こちらこそ、アーネ」


 伸ばされた手を取り握手を交わす。




 アーネとフィーアを部屋に残して外に出ると、シャルクが丁度1階へ降りて行くのが見えた。

 夜も更けて遅い、こんな時間にどこへ?

 足音を立てずに浮いて追いかけると玄関から外へ出て行くのが見えた。

 森へは入らず、家の前の広場でハルバードを取り出すと、一心不乱にそれを振っている。

 自主鍛錬、ってところか。


 彼の技量は、まぁある方だと思う。少なくともタルタスにいる冒険者よりは上だろう。

 騎士の動きについてはよく分からないが、ホーンベア戦でも少ししか見ていないが動けてはいたようだ。


 振り降ろし、振り上げ、横薙ぎ、突き……ハルバードでの構えや挙動を一つ一つ確認している。

 実直な、それでいてまっすぐな動き。でも堅さがある。

 まじめな人間なのだろうと、端から見ても分かる。


「シャルクさん、こんな時間にどうされたんですか?」


 後ろから黙って見ているのも忍びないので声をかけて見た。


「シャオリーさん、いえ、どうにも落ち付かなくて。動いていた方が気が紛れる気がしたので素ぶりを」

「そうですか、それは、ホーンベア戦のことですか?」

「......分かりますか......えぇ、姐さんやシャオリーさんのおかげで助かりましたが、フィーアを守れず、僕は騎士としての役目を果たせなかった」


 シャルクは悔しそうに顔を歪めて、なおも一心に素ぶりを続ける。

 なんと声を掛けようかと迷っているとシャルクが苦笑いを浮かべて話題を変えて来た。


「そういえばシャオリーさんのあの魔法、即興魔方だとか。あの風で槍を作るのは複雑な技術が必要なのでは?」


それを知っているということは魔法についても知識があるということか。

フィーアさんとも付き合いが長いとアーネも言っていたし。


「あれは元々は"ウィンド・ランス"の魔法ですよ」

「"ウィンド・ランス"……でもランス系の魔法は属性の渦を飛ばすもので、槍の形ではなかったはずですが……?」


 うん、そこは知っているのか。

 確かにランス系は属性の渦、例えば風なら竜巻のように回転し、水や火ならその属性の渦が、地なら砂の渦が形成される。


「その答えは"コピー"の魔法にあるのですよ」

「コピー、ですか?」

「コピーの無属性、その効果は読み取ったものの形を魔素が記憶し、保存しておく魔法です。トレースと合わせて使うことで記録が可能な魔法というのはご存じですか?」

「えぇ、神王都にも掲示板はありますから。仕組みも少しは」

「なるほど、それなら後はお見せした方が早いですね。そのハルバードを少し借りても?」

「え? あぁ、どうぞ。重たいですよ?」

「いえ、持つ必要はありませんから」


 そう言ってポルターガイストを発動させ、ハルバードを浮かせる。

 シャルクはその様子に驚いたが、少しは慣れたのか引き攣った笑いを浮かべていた。


 目の前に浮遊させたハルバードに対して、ブックホルダーからエクリプスを取りだし、呪文を唱える。


「モードコロナ、メモリー……スキャン、ターゲット、命名"ハルバード"、セーブ」


 呪文を唱え終われば、空中のハルバードの先に魔法陣が垂直に展開され、その魔法陣を潜るように魔法陣が動いて、ハルバードを呑みこんでいく。

 先端から末尾まで呑み込み終わると、魔法陣の燐光が収まり、消えていく。


「これがコピーの魔法陣を応用した魔法、"スキャン"です」

「スキャン?」

「えぇ、コピーした内容をこの本、コロナへ保存したのです。そして」


 次いでエクリプスに対して呪文を唱える。


「モードルナ、セット……"ウィンド・ハルバード・ウェイト"、セーブ、リリース」


 その呪文に答えるように目の前に風の渦と魔法陣が現れ、その渦が一つの形を作る。


「これは!?」


 そこに出来上がったのは隣に浮かぶハルバードと同じ形の風のハルバードだった。


「命名、"風戦槍"」


「これが私の魔法、このコロナにはボール系やアロー系などの基礎系の魔法陣を分解したもの。これを部品魔法陣と呼んでますがそれらの他に、スキャンで複製した武器や物の形状を保存してあります。ここから組み合わせて呼びだすことで即座に好きな魔法陣が描けるのですよ」

「さっき、モードルナとか、コロナとか言っていたけど、あれも呪文かい?」

「えぇ、モードコロナはコロナに部品魔法陣やスキャン結果を記憶させる時に、モードルナは作成した魔法陣を名前を付けて保存しておく時に使います」


 指を鳴らすとハルバードは風に戻って霧散した。

 そしてもう一度、呪文を唱える。


「コール、"風戦槍"」


 すると再び風の魔法陣がハルバードの形を取って形成される。


「こんな感じに、一度作った魔法はコールの呪文ですぐに呼びだせる。名前を付けておけば短い呪文で呼びだすことも可能なんです」


 シャルクは呆気に取られたように口を開けっ放しでいる。

 私はハルバードをシャルクの元に返して、風のハルバードを手に持つ。


「そ、それは、手に持てるのかい?」

「えぇ、魔素は固定してしまっているから私が命じない限り形を維持し続けるわ。持ってみる?」


 シャルクは恐る恐るという感じに風のハルバードを持つが、その軽さに驚きの表情を浮かべる。


「とても、軽い。風で出来ているからか? この大きさで?」


 風のハルバードで再び素ぶりを行う。

 その動きは早くなっているが、精錬さに欠けている。


「うん、やっぱりこれは軽過ぎて振るうのが大変だ」

「軽いとやはりダメなのかな?」

「そうだね、ある程度重さが無いと振った時に手を離してしまいそうだ」

「そっか、じゃあやっぱりこれは射撃用になってしまうわね。または地で作った武器なら使えるかしら?」


「君は、武器を作りたいのかい?」

「そういうわけじゃないけど、もし戦いをするなら、その場で武器を生成出来た方が役に立つと思わない?」

「確かに、武器ってのは消耗品だ。戦闘中に代えが用意できるならいいと思うよ」

「でしょ? だからね、私は色々できるようになりたいの。私の夢は『世界一の魔女』になることだから......そうだ! シャルクさん、私の手伝いをしませんか?」

「手伝い?」


「そう、私が属性で武器を作るから使い勝手を試して欲しいの。私の周りは武器を振るえる人がほとんど居なかったから試せなかったのよね」

「そういうことなら、神王都に向かう途中で良ければ喜んで。君には命を救われている。これは感謝の気持ちだよ」

「ありがとう、シャルクさん」

「それから、僕のことはシャルクで呼び捨てで構わないよ」

「分かった。それじゃあシャルク、私の事もシャオリーでいいわよ?」

「ああ、シャオリー、これからよろしく」

「えぇ、こちらこそ、シャルク」


 双月の夜、騎士シャルクは魔女シャオリーと友誼を結ぶ。


「そうそう、私が幽霊族という話なんですが......」


シャルクにも幽霊族について口止めをして、その日は解散した。

 

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