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異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
第一章:幽霊と魔女と霧の森【帝暦712年】
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幽霊と子供と魔法ギルド

 魔法ギルド。

 魔法使い、魔女が所属する組織。

 その役割は魔法使い、魔女の知識の共有、そして魔法の申請、登録、閲覧を管理している。

 魔法の特許庁のような存在かもしれない。

 

 「魔法ギルドや冒険者ギルドは全国にあってね。大抵の町にはあるものよ。各支部も横の繋がりがあるみたいだけど本部は全部帝国にあるわ」

 「帝国、ゴルドラン帝国でしたっけ。そこが世界の中心なんですか?」

 「地理的にも情勢的にもね。全ての国に国境を持つがゆえに大きな力が必要だったと言えるけど」

 

 帝国の首都"アトランピア"には各ギルドの総本山があるらしい。

 ギルドとしては各支部に連絡が取りやすいというのが理由だろうけど、きっと情報が集まりやすいとか、そういう理由もあるのだろう。

 

 「とはいえ私らの目的は魔法ギルドに貴女を登録すること。事前に教えた通りにするのよ? あとは職員がやってくれるわ」

 「はい」

 

 魔法ギルドの扉を潜るとそこはまさに映画やアニメのような世界だった。

 

 「火の申請関連の許可出したの誰だ! まだ"炎獅子のマグワード"は死んじゃいねーぞ!」

 「地と水の複合魔法理論の提出ですね。承りました。こちらに魔法使い名と概要を記入下さい」

 「だーれだ! 風魔法で物運んでるやつは! 紙類は直接翔ばすと飛ぶから止めろっつったろうがぁ!」

 

 事務的な対応の声も聴こえるが、その光景が異常だ。

 箱に詰められた書類を浮かせて運び、書いてるサインにはマナの燐光が煌めいて、しかも後ろの書類棚は天井が見えないくらいに高い。

 外から見たときはそこまで大きな建物じゃなかったのに......

 

 「驚いた? ここはね、膨大な資料を管理するために建てられた時に空間転移の魔法が使われているのよ」

 「......転移? 拡張とかではなく?」

 「空間拡張は聞いたことあるけど使える人は知らないわ。神の御技とも言われてる。これはそこまですごいのじゃないわ。でも高度なのは間違いないけど」

 

 師匠曰く、このギルドの地下に部屋を作っており、ここの天井は地下の部屋の床と繋がっているらしい。

 職員の一人が風魔法か何かを唱えて上昇すると、ぼやけて天井が見えなかった辺りを通りすぎた時に空気に波紋が生まれた。

 なるほど、あそこが境目か。

 

 「空間転移って何属性なんだろ......」

 「闇属性よ」

 「闇?」

 「貴方には基本属性とそれに付随する派生属性の話をした時に少しだけ触れたわね」

 「名前だけなら聞き覚えがあります」

 

 師匠の教本には基本属性しかなかったから忘れていた。

 「闇と光は特殊でね。基本属性は適正がなくても使えると言えば使えるのよ。あれは適正があれば変換効率が良くなるだけだからね。でもこの2つは適正がなければ使えない。だから闇魔法と光魔法使いは貴重なの」

 

 なるほど、私にも適正はあるのだろうか。

 

 「登録する際にちゃんとした適正を計るからそれで分かるはずよ」

 「師匠はあるんですか?」

 

 そう聞くとよくぞ聞いてくれたとばかりにニヤリと笑う師匠。

 

 「闇魔法が使えるわ」

 「えーいいなぁー」

 「ふふ、適正があったら教えてあげるわよ」

 

 そんな話をしながら私たちは二階への螺旋階段を昇る。

 新人魔法使い、魔女の登録は二階でやっているのだそうだ。


 「大抵は誰かの弟子登録か、他所から移ってきた魔女達の転居登録だからね。暇なのよ基本ここは」

 「あら、深霧の森の魔女さんじゃないですか。珍しいですね、こんなところに」

 

 師匠に連れられてカウンターに来ると、受付のローブの女性が気づいて挨拶をしてきた。

 

 「えぇ、今日は弟子の登録とこの子の魔女登録をお願いしにね」

 「おぉ! ついにお弟子を取られるんですね!」

 

 女性は笑顔を見せて手を叩いて喜ぶ。

 

 「そ、だから手続きをお願いね」

 「かしこまりました! ではそちらのお弟子さん、こちらへどうぞ!」

 

 案内されたのは魔方陣の描かれた装置だ。だが、

 

 「? これ、魔法文字じゃないですね? それになんか形が違う気が……?」

 「あぁ、これは古代魔法陣ですからね。見るのは初めてですか?」

 「古代魔法陣?」

 

 「今日まで貴方が見てきたのはここ数百年で出来た魔法陣の体系なのよ。古代、神々が直接世界に関与していた時代には、神々が使う魔法陣があったらしいわ。それが古代魔法陣。古代魔法陣はその魔法陣の文様が一つの魔法を現している。"適正調査"ならそのためだけに使われる」

 

 そういえば、これと似たようなものを見たことが……あれは、この世界に来てヴィロ様に存在を固定してもらうための、魔法陣……

 「そっか、あれも古代魔法陣だったんだ……」

 

 小さく呟いたその言葉は二人には聞こえなかったようだ。

 あれが人の目に触れる必要はない。

 この世界に固定する魔法なんて使い道もないし、あまり触れていいものでもないはずだから。

 

 「はい、それじゃあ真ん中で楽にしてくださいね~。そしたら魔法陣に向かってマナを出す感じで」

 「こう、ですか?」

 「そうそう、そんな感じで念じるように送り続けてね」

 

 足先から力を放出する感覚でマナを魔法陣に送り込む。

 すると魔法陣に白の燐光が溢れ、溢れた燐光が身体を包むように集まりだす。

 集まった燐光は赤、青、緑、黄、白、黒と色を変化させていき、やがてそれらがまばらに散らばるように全体が変色していく。

 

 「この光はですね、あなたの適正の光なんですよ。各色が属性を現していて、その分布の多さがその人の適正になっているんです」 

 へぇ、ということは基本4属性と光と闇のそれぞれの属性の適正の偏りまで分かるってことかぁ。

 確かにそれは便利そうだ。

 

 「さて、分布はっと……うんうん、風が一番大きいですね。次に多いのは地、水属性、火は少な目ですが使えなくはなさそうですね。さて、肝心の属性はっと……おっと? ほうほう、あそこにあるのは黒ですね。おめでとうございます。闇属性の適正がおありですよ」

 

 師匠は一瞬目を見開いたが、すぐににっこりと笑った。

 闇属性か、ゲームとかアニメだとあまりいい印象はないけど、さっきの話からすると空間魔法とかそういう属性見たいだし、ゆくゆくは覚えておいて損はないかも。

 

 「ふふ、これは教えがいがありそうね」

 「そういえば深霧の森の魔女様は闇属性をお持ちでしたね。お弟子さんもとはまた運がいい」

 「これも日ごろの行いがよかったからね」

 

 「えっと、これいつまで出してればいいですか?」

 

 私を忘れないでほしい。




 「おほん、さて、適正も分かりましたし、貴方の魔法ギルド登録を行います。こちらに登録する魔女名と得意属性をご記入ください」

 

 渡された紙には魔女名と属性を書く欄があった。

 名前は"ヴィ・シャオリー"、得意属性は"風"と記入した。

 

 「はい、ありがとうございます。それでは今度はこちらの台に手を置いてマナを流してください。これは個人のマナを記録しておく装置になります」

 

 言われたとおりに台の上の魔法陣に手を載せてマナを流し込む。

 すると台の中が発光して輝き始めた。どうやら中にも魔法陣がいくつも入っているようだ。

 

 「これも古代魔法陣なんですよ。解析している人は本部にはいるらしいのですが、魔法陣分野は研究者が少なくて、古代魔法陣に限ってしまえば数えるくらいしかいません。もし、あなたが魔法陣に興味を持って研究するのであれば、我々ギルドは諸手を上げて歓迎しますよ?」

 

 彼女は冗談めいて言っていたが、私の夢のためには魔法陣が必須だ。研究するのは確定事項である。

 その最終的な結果は魔法陣でも呪文でもないものになるかもしれないが、そこはそれ。

 それにしても古代魔法陣。これまでに見たものでも用途は限られているけど複雑な処理を一気に行っているようだし、魔法陣も小さい。一体どういう原理で……自由に使うことができればいろいろ便利なのになぁ。

 

 「はい、ありがとうございます。ではこちらがあなたのギルドカードになります」

 「ありがとうございます」

 

 ギルドカード。

 師匠に先に説明されていたし、師匠のも見せてもらっていた。

 魔法ギルドに入るとこのギルドカードを渡される。これは魔法ギルドの管理するカードで、身分証明と銀行のような預金の出し入れが可能な魔法のカードだ。

 

 その中身はギルドの極秘とされており、研究しようとするとギルドから除名されるという。

 ギルドカードはそれぞれ色が決められており、魔法ギルドでのランクになる。

 下からレッドブロンズ、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ミスリル、ブラックメタルの7段階。

 最後がブラックメタルなのはどこか違和感があるが、どうやらこの世界の希少金属らしく、魔法でしか生み出せないらしい。

 オリハルコンはないのかと聞くと、それは冒険者ギルドの最高ランクのようで差別化を図っているそうだ。

 私が貰ったのは最初のレッドブロンズ、赤みの掛かった銅で、一つ上がるとブロンズ、緑が掛かった銅になる。

 これは魔法ギルドの資料の閲覧権限にもなっており、低ランクは低ランクの資料や魔法にしか触れられない。

 上げる方法はというと、魔法で大きな功績を残すか、冒険者と共に功績を残すこと。

 

 実は冒険者ギルドでも同じような7段階ランクを実装しているらしく、クラスとしては同列で、冒険者と共に依頼を受けるなら同レベルの依頼に参加することが可能なのだとか。

 まぁ、冒険者の知り合いもいないしそういう機会より研究をするべきだ。

 

 「こちらは身分証明書にもなりますので、無くさないでくださいね。それから、我がギルドに魔法の登録を行っていただければ、それが他の人の作っていない新規のものとギルドが認定した場合、報奨金と、その後誰かが使用した場合の使用料、閲覧料等がこちらのカードに振り込まれます」

 

 特許かよ。いや、間違ってないのか。

 

 「さて、ついでに弟子登録も済ましておきますか。こっちは私の登録だしあんたは外でも見てきてもいいわよ。学び舎に行く予定はなくなったし、買い物を適当にやったら森に帰るわ」

 「分かりました」

 「それとこれ、買い物するのにお金がいるでしょ? 少ないけど持っていきなさい」


そう言って銀貨を9枚と銅貨を10枚渡してくれた。

この世界の貨幣は硬貨で、小銅貨が最小単位で小銅貨10枚で銅貨1枚、銅貨10枚が銀貨1枚、銀貨10枚が金貨1枚、金貨10枚で大金貨1枚に値する。

物によるけど果物一つ買うなら小銅貨が5~7枚必要らしいからおおよその感覚では小銅貨が10円程ということでいいらしい。

つまり、1万円分貰ったことになる。


「こんなにいいんですか?」

「使いきっちゃダメよ? 貴方の必要なものとかそれで買うんだから」

「分かりました」

 

 

 ギルドの外に出てみると、人通りの多さに少し酔ってしまった。

 森にずっと居たし、都会の人混みもあまり得意じゃなかったのよね……

 人混みを逃れるように建物の間に入っていく。

 所謂路地裏という場所だ。

 

 「ん? あれは……」

 

 路地裏の奥の方に小さな人影複数、走っていくのが見えた。

 

 「……子供?」

 

 路地裏に子供、何やらこの町も賑やかな面だけではないらしい。

 あまり関わらないようにしようと表通りに戻ろうとするが、路地の奥を複数の男たちが走っていく。

 あの方向は、さっきの子供たちが向かった……

 

 「……見て見ぬ振り、をするにはちょっと、難しいなぁ……」

 

 この世界に来て数日間、魔法をちょっと齧った程度の私に、何ができるか分からないけど。

 

 「動かないで後悔は、したくないものね」

 

 ため息を一つ吐いて、私は路地裏に振り返って走り始めた。

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