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異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
第一章:幽霊と魔女と霧の森【帝暦712年】
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幽霊と魔法と初めての魔法陣

 呪文と魔法陣、アルル文字と魔法文字について勉強を始めて、5日が経過した。

 ここ数日でこの世界について分かったことがいくつかある。

 まず、この世界は昼が少し短いこと。太陽が昇って、日が暮れると先に金の月が昇り、後を追いかけるように銀の月が昇る。先に金の月が沈むと追いかけて銀の月が沈む。そのため、比較して夜が長いようだ。

 

 時間の概念はあるらしく、時計を見せてもらった(銀製の懐中時計のようだった)が、1日は30時間あり、おおよそ6時から20時が昼、それ以外が夜というのが一般的らしい。

 時期によってはさらに夜が長くなるんだとか。

 

 時期ついでに四季について聞いたところ、この辺りは寒い地方らしく、そういうのがある、という噂は聞いたことある程度らしい。

 

 そんな中、一日中魔法の授業をしていたかと言うと、そんなことはなかった。

 

 師匠の収入源は薬売りらしく、この森でドリーに取って来て貰った薬草を使って薬や飲み薬、一般にはポーションなんて呼ばれるものを作っては町に定期的に卸しているらしい。

 町か、いずれは行ってみたいな。

 

 とはいえ、これも弟子の仕事ということで薬作りを仕込まれていた。

 朝からドリーと昼過ぎまで薬草採取、昼過ぎからは師匠と薬作り、夜は魔法の勉強とこのサイクルが日常化していた。

 

 「さて、今日も書き取りしますか」

 

 晩御飯を終え、洗い物を片付けてから自室に戻り、師匠から貰った魔法の書物を開く。

 中身はどんな魔法か初日に教えてもらい、その文字がどういう意味を持っているのかを比較して意味を汲み取る。

 

 もっと効率よく学べないかと聞いたら、町に行けば学舎があるらしく、そこで文字を教えているらしい。

 今度町に卸しに行くときに貰ってきて上げるから今は我慢して、と言われてしまった。

 

 魔法についてもいくつか分かったことがある。

 まず、呪文だが、唱え方がよく分からなくて使えない。

 声にマナを乗せる、と言うが乗せ方がさっぱり分からないのだ。

 逆に魔法陣は惜しいところまでは行ける。

 ペン先からマナを放出するのは適正を見たときに師匠にやって貰った感覚があったからすぐに出来た。

 

 しかし、同じ出力で出し続けるのが難しい。

 出しすぎると魔法文字が潰れ、絞りすぎると見えなくなってしまい、失敗してしまう。

 何度も書いているうちに慣れてきたし、今日くらいは成功させたい。

 

 見本にある"ウィンドボール"の魔法陣を描く。呪文にすると

 

 【風よ、球と成りて、的を撃て】

 

 "ウォーターボール"とは一節目が違うだけで他は一緒だ。

 "ファイアーボール"、"アースボール"も、それぞれ【火よ、】【地よ、】に変わる。

 基本属性の4つは最低限覚えるようにと師匠は言っていた。

 実際はこれらを組み合わせることで他の魔法を使えるようになるらしいから、覚えるしかない。

 

 例えば、火と水なら"氷"、"霧"の魔法を出せるそうだ。

 地と火なら"砂"、地と水なら"泥"や"木"の魔法が使えるらしい。

 ヴィロ様の加護が地と水に補正を与えるのもそのせいかもしれない。

 

 ……元システムエンジニアとしては、何度も同じ処理を書くのは抵抗がある。

 例えば1節目を変数化して能動的に入れられれば一つの魔法陣で4種の魔法が使えるはずなのだ。

 他の魔法も似たり寄ったりで、ボールシリーズの次にアローシリーズがあるのだが、

 "ファイアーアロー"、"ウォーターアロー"、"ウィンドアロー"、"アースアロー"……と続く。

 呪文も【火よ、矢と成りて、的を撃て】などに代わり、今度は2節目だけが違う作りだ。

 

 どうせなら1節ごとにどっかに保存して、必要なパーツだけを呼びだして使えばいいんじゃないだろうか?

 ライブラリ化、関数呼び出し……うーん、実現させたいけど、PCで作るわけじゃないからなぁ。

 考え方だけあっても、実用化できなければ意味がない。

 これはいずれ、というわけで今は魔法を覚えよう。魔法。

 

 「……あと少し、丁寧に、出力を一定にして……」

 

 今書いているのは"ウィンドボール"の魔法陣。

 適性が風だと言われれば、だったら得意を伸ばして行こう。そう考えた。

 

 「最後に、的、を、撃て………………おぉ、よし、書けた……」

 

 緑の燐光が紙の上に留まっている。

 円の中に魔法文字も描いている。問題ない。

 

 そう言えば魔法文字はアルル文字と比べて文字数が少なくて済むのだと、書いていて気付いた。

 アルル文字で"みず"という意味の文字は4文字になるけど、魔法文字では2文字で済む。

 師匠に聞いたところ、

 


 「もうそこに気づくとは、なかなか見込みがあるわね……その通りよ。魔法文字は魔法陣を描く上で、文字数をできるだけ減らすために生みだされた文字なの」

 「なるほど、考えられてますね」

 「さて問題、実は魔法陣に書くのはアルル文字でもいいの。でも誰も書かない……どうしてか分かる?」

 「それは、わざわざ文字数増やして書く苦労人が早々いるはずは……あれ? そういえば別の文字でも反応するってことは魔法ってどうやって認識しているんですか?」

 「ふふ、すぐにそこに気づくのね。実はね、魔法陣に書いてある文字は『使用者が読めれば何でもいい』のよ」

 「え?」

 


 そんなやりとりを思い出す。

 今回は教本通りにやったけど、安定して書けるようになったら日本語で書いてみよう。

 

 「よし! せっかく書いたし、試し撃ちだ!」

 

 窓を開けて外へと飛び出る。

 持っているものは透過できないが残念だが、そこまでできたらいろいろヤバい。

 

 ふわりと地上に降り立つと、金と銀の月がちょうど真上辺りを通っている。

 明かりも問題ないし、マナが切れる前に撃ってしまおう。

 

 「えっと、たしか魔法陣に触れてマナを少し流す、と」

 

 書いた紙を森の木の一つに向けて狙いを付ける。

 右手で持った紙に、左手を乗せてマナを集中させる。

 左手から緑の燐光が紙へと伸びて、魔法陣の光を強くさせる。中心へと収束するマナの光は、やがて一つの事象を生み出した。

 

 「きゃっ!?」

 

 魔法陣の中心から風の球が渦を巻き、勢いよく木へと飛んでいく。

 その勢いに負けて後ろに倒れ、尻もちをついてしまったが、意識はそんなことよりも木へとまっすぐに落ちることなく飛んでいく風の球へと向いていた。

 木にぶつかって表面の皮を削る"私の"ウィンドボールはやがて空気に消えるように霧散した。

 

 静寂がしばらく辺りを支配する。

 

 「…………ッ!」

 

 声にならない悲鳴を上げて、全身でガッツポーズした。

 

 「できた! 私の、初めての魔法だ!」

 

 仰向けに倒れて、夜空に浮かぶ双月の光が、とてもきれいに思えた。

 

 この日、私は正真正銘、魔女の弟子となった。

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