幽霊と雷獣とエクリプス・ユピテル
「じゃ、私は飛んでいくから。師匠達も気を付けて」
「えぇ。私達は森を突っ切って行くから。リーエンが先導してくれるらしいわ」
「任せて。森は私の庭よ」
「頼りにしてるよリーエン。行ってくる」
師匠達と別れて南西の大型魔獣を目指す。
浮遊で木々の上に少し上がれば、その姿を確認することが出来た。
「あれか……」
木々の向こう、緑色の草原が広がっている向こう側にそれは居た。
まるで怪獣映画のようなその巨体は、以前戦ったドラゴンよりも大きい。
黄色い体毛に二本の角。
牛のような顔に見えるが、遠くからでも判る牙が二本、まるでサーベルタイガーのように口から剥きだしている。
二足歩行でそこまで俊敏ではなさそうだが、一歩一歩が大きいため、森の沿線を超えるのも時間の問題だろう。
「……二足歩行で人型、ミノタウロスのような……でも毛深いし牙あるし、例えようがないなぁ」
『マスター、別に例える必要はなくない? とりあえず"雷獣"って呼べばいいんだから』
「……まぁ、ね」
そうなんだけどさ。
知識にない生物だと気になって。
「向こうが近づいてくるのを待つ必要はないわよね。エアリス、本格的な戦闘は初だけど試運転にはちょうどいいと思わない?」
『えぇマスター。私達の連携が四英雄に通じるか、試してみましょう』
スゥっと私の内側から風が外へと吹き出る。
風がエアリスの姿を取るとだいたい15㎝くらいの妖精の姿を形取る。
「……戦闘用インターフェース構築完了。肩を借りるわねマスター」
そのまま小さくなったエアリスは私の肩に腰かけ、マナで編んだ画面を複数空中に展開する。
この戦闘用インターフェースはエアリスが魔法の制御をするために構築したエアリスの身体だ。
エアリスの本来の姿は私と大差ないんだけど、その姿を外で維持するのはそれなりに風のマナが必要になる。でも、外部に出ていた方が周囲の状況を把握するのに便利だということで考えたのがコレ。
マナで編んだ画面と言ったけど具体的には索敵魔法の"風精の輪"で得た情報をリアルタイムで表示するために水魔法を組みあわせたディスプレイ。
魔法陣の構築はちょっと手間だったけど、エアリスに流れてくる情報を風のマナから水のマナに変換することで上手く接続できた。
私が使った場合、風の精霊が運んできた情報は私の目、つまり一画面分しか把握できない。流石に左右の目で別の情報は扱えないしね。
でもエアリスなら自身が風の精霊と同質故、複数の精霊の情報を同時に見ることが出来る。
だからこれは実質エアリス専用魔法ってことになるのかな。
「うん。アポロ、マルス、ディアナ、ネプチューン、ケレス、の稼働良好。エクリプス・ユピテル全機能正常。展開していいよマスター」
「了解。エクリプス・ユピテル、展開!」
腰から下げていた魔陣書がマナの輝きを発しながら宙へ躍り出る。
パラパラとページを捲りながら私の前面へ展開し、固定された。
そして追随するように、文庫本サイズの魔陣書がエアリスの周囲へ集まっていく。
今回の改修によって進化した魔陣書、名前は"エクリプス・ユピテル"。
ネーミングについては完全に私の趣味だ。元の世界で使っていたツールから貰って来た。
基本の魔法陣の作成、構築、変換、発動、記録はこの一冊で出来るようになっている。
今まで作った魔法はほとんどこの中に入っているから、私が使う分はユピテルで十分だ。
文庫本サイズで作ったのは衛星魔陣書。
エアリスのサポートをするために機能を特化して作ってある。
アポロ :火系統の魔法の制御と"速攻魔法"の発動
マルス :闇系統の魔法の制御と"空間魔法"の演算
ディアナ :風系統の魔法の制御と"索敵魔法"の管制
ネプチューン:水系統の魔法の制御と"迷彩魔法"の展開
ケレス :地系統の魔法の制御と"結界魔法"の構築
アポロによる"速攻魔法"は予めセットしておいた魔法陣を3つまでエアリスの任意で発動できる。
エクリプス本体から参照、構築、展開と手順を踏まなくても即座に発動できるのは不意の対応や牽制に役に立つ。
マルスの"空間魔法"の演算は転移系の闇魔法を目視の場所に飛ぶための計算を代替わりしてくれる。
三次元座標を私の頭で処理するのは限界があるけど、精霊の力を借りればそれも可能。
ディアナの"索敵魔法"の管制は、エアリスのサブユニットとしての性質を持ってる。
風の制御に合わせて、エアリスの補助が出来るように細かな機能を搭載した。
ネプチューンの"迷彩魔法"の展開は私が愛用している幽闇の衣を専用で展開、管理するための機能。あの魔法は常に発動する必要があるので、別機能としてエアリスに管理をお願いした。
ケレスの"結界魔法"の構築はその名の通り、結界魔法に特化した魔陣書だ。
各属性の魔法による結界を範囲、強度、数を引数に瞬時に発生させる。
まぁ、これら本当に本なのか? って疑問はあるけど、本の形しているし、元の世界のパソコンやツールの機能をイメージして構築したからしょうがない。
これらの魔陣書の内部で契約している精霊の数は既に100を超えてしまったらしい(エアリス曰く)
一先ず、エクリプス・ユピテルの展開が完了したことだし、一発当ててみようか。
「エアリス、まだ向こうには気づかれてない見たいだし、とりあえず先制攻撃してみようと思うんだけど、質と数、どっちがいいと思う?」
「各属性で貫通性のあるランス撃ってみるのはどう? 弱点属性が分かるかもしれないし、ここは数で様子見かな」
「そうだね。それにしようか。じゃあ私が展開するからエアリスは観察してて。とりあえず、頭、両腕、胴体、両足に各属性5本ずつ。撃ってみようか」
エクリプス・ユピテルのページを捲って各属性のランスの魔法陣を空中へ展開する。
「ファイア・ランス……アクア・ランス……ウィンド・ランス……ロック・ランス……」
4種類の魔法陣が前面に展開し、このままマナを流せば4本のランスが飛んでいくだろう。だが、
「オールサークル、セット。ループ30」
4種の魔法陣がさらに倍の8、12、16……と赤黄青緑の輝く燐光を放ちながら次々に展開していく。
「ターゲット6、トップ、レフト、ライト、センター、ローレフト、ローライト……ラインアップ」
6か所のターゲットを狙い定めて、4種×5、20本ずつ計120個の魔法陣が雷獣目掛けて整列している。
「……せっかくだから名前つけようか……じゃあ、ネームセット、"カルテット・フルバースト"」
エクリプス・ユピテルの白紙のページに魔法名とその魔法を呼ぶための手順、フローを記載する。
各魔法陣へアクセスし、ループロジックを組んで6か所同時に攻撃する魔法として。
「よし、行くよ。"カルテット・フルバースト"」
エアリスの乗っていない左手を前方へ伸ばす。
待機していた魔法陣へマナが供給され、4色の槍が形成され120本の槍が宙を覆う。
「発射!!」
掛け声と共に左に大きく腕を振るう。
そして一斉に槍は雷獣目掛けて飛び出した。
その槍は一直線に雷獣の頭、両手、胴体、両足へ飛んでいく……が、当たる前に120本の槍全てが空中で破裂してしまった。
「おろ? 弾かれた?」
「マスター、120本の槍、全て前面に展開された雷の障壁で迎撃された」
「おっと、障壁かぁ。ランス系の魔法は威力結構あると思うんだけど?」
「観察の結果、雷の障壁に当たった瞬間にマナが霧散したのを確認したから、多分純粋な魔法はあれで弾かれるっぽいかなー」
「……魔法無効とかチートじゃない?」
「マスターが言っても説得力ないよ」
「だぁれだぁ! 今攻撃してきやがった馬鹿野郎はぁ!!!!」
エアリスと結果を分析していると野獣のように叫ぶ声を聞いた。
「エアリス、今の声どこから?」
「……マスター、雷獣の頭の上を」
「いや遠すぎて見えないから」
そういうとエアリスは自分が視ている画面を一つスライドさせて私の目の前に持ってくる。
あぁ、これは便利だ。拡大された、というより風の精霊の視点で遠距離が中継されてる。
エアリスの画面を見ると雷獣の頭の上、角に挟まれた場所に一人の男が立っていた。
褐色で筋肉質、上半身は裸で腕を組んだ身長は2mは超えているだろう大男。
額には二本の小さな角が生えていて、乱雑に切りそろえられた黒い短髪からちょっとだけ先が出ている。
「隠れてるなら出てきやがれ! てめぇが攻撃したのは魔王国四英雄が一人、雷獣のデトロイトだと、分かってやりやがったのかぁ?」
おっと自己紹介してくれたよ。
本当に四英雄、雷獣のデトロイトが出てきたってことは、向こうも本気でアルスレインを潰すつもりなんだね。
「呼んでいるみたいね、どうする? マスター」
「まぁ、言葉が通じるなら一度話を聞いてみようとは思うよ。あの見た目脳筋だから通じないかもだけど」
先制攻撃も失敗したし、話してみよう。
浮遊状態のまま、雷獣の頭の上にデトロイトへ向けて飛んでいく。




