森人と姉妹と決意と
お兄様に連れられて来たのは地下の秘密部屋だった。
以前、大事な話をする場所として神王国の第二王子、ウィリアム殿下へ相談した結果出来た場所。
入るのは初めてだがお兄様から聞かされていた。
「リーエン、これからお客人達と大事な話がある。お前には何も話さずにいたが、事態がこれで大きく動くことになるだろう。だからお前にも同席してもらう。意見を言う必要はない。ただ聞いていればいい」
お兄様にはさっき、勝手に外へ出たことを叱られた。
とはいえ、そこまで酷く叱られることはなく、その後はどうして外が危険なのかを簡単に教えられた。
一つは森の変容、変異種とみられる魔獣がうろついているためだ。
これはあの出会った黒いボアがそうなのだろう。
確かにあれは危険だ。
もう一つは敵対者へ付け込ませるような隙を作らないため、だそうだ。
敵対者についてはこれからの話で出てくるからその時に分かる、と。
「この部屋全体に魔法陣が仕込まれているの。効果は部屋の中全て。このタイプの魔法陣を私は一つ知っているんだけど、それにそっくりなのよ」
「なるほど。ちなみにどんな効果なんですか?」
「魔法の内容は……風と地と闇……闇で部屋全体を覆って魔法による透しを防いでる。風は防音、そしてここは地下だから地の魔法で音が伝わらないようにしているわね。つまりこの部屋は完全防音の秘密の部屋ってこと」
部屋の扉を開けるとそんな会話が聞こえてきた。
この部屋に仕掛けられた魔法について話しているようだ。
その中心に居るのはシャオリー、私を助けてくれた魔女。
「正解だ。なるほど、あいつが褒めるだけのことはあるようだな」
その輪の中にお兄様は入っていく。
私は答えられることもないからその後ろをただ着いていくだけ。
全員が席へ座り、シャオリーがお兄様へ手紙を渡す。
お兄様がしばらく手紙を読む間、せっかくだからとシャオリーから渡された姉、マーリンからの手紙を開いてみる。
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リーエン、久しぶり。
元気にしているかな?
私は森の中に研究小屋を作って気長に研究をしているよ。
まぁ私のことはいいんだ。今の私のことを話してもリーエンには関係ないからね。
私はね、後悔しているんだよ。
当時の私はエルフに、友人に、家族に興味がなかった。
だからリーエン達にはあまりいいエルフに見えなかっただろう。実際、いいエルフとは言えなかったからね。
けどリーエン、君のことは気にかけていたんだ。
当時は家族としてではなく、ただただ才能のある子どもとしてだけど。
あぁ、勘違いしないでほしい。今ではそんなことはないんだ。
あれから色々あって考えを改めた。
こう言っては勝手だし君は怒るかもしれないが、家族を、妹を心配する姉として気にしている。
リーエン、君は私と比較されることをとても気にしていた。
当時の私は何故そんなことに拘るのかと良くわからなかったが、一つだけ思っていたことがある。
君は私に習うべきではなかった、と。
別に君が嫌いというわけではない。君の才能の話だよ。
リーエンの才能は魔法の方面に伸ばすべきじゃない。
精霊との対話、精霊との繋がり、精霊弓、精霊剣を教えてあげるべきだったと思うよ。
魔法の才能がないんじゃない。君には精霊と心を通わせる才能があった。
元水精霊族の私が唯一感心を持ったのが君だけだったのだから。
あぁ、私のことは一緒にいるシャオリーに聞くといい。
彼女には色々話してあるし、手紙では書ききれないことも多く話した。
私はもう国に戻るつもりはないんだけど、君のことはどうしても気になってね。
こうして手紙を書くことにしたんだ。
精霊のことについてはシャオリーや一緒にいるドリアードのドリーに聞いてみるといい。
そして、精霊を使うではなく、手伝ってもらう、友に歩むという意識を持ってみるといい。
そうすれば精霊剣も精霊弓も格段に強くなれるはずだ。
最後に、こんな姉だが、会いに来てくれるとうれしい。
たまには一緒に話してみたいこともある。
場所はシャオリーが知っているから聞いておいてくれ。
それじゃ、元気で。
ロゥ・マーリン
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読み終わった手紙をくしゃっと握りつぶした。
何なんだろう。急に手紙を寄越して、そしたら私のことを気にかけていた?
確かに昔は人に関心を持たない感じで、愛想がいいとは言えないけど私に魔法について聞いたことを教えてくれていた……
え? あれって私が特別だったの? あんな不愛想に嫌々教えているようだったのに?
それに昔はって、今は何? どう変わったっていうの?
分からない。私には姉が何を考えているのか分からない。
ただ、この手紙から伝わる姉の感情が、昔よりはっきりと見える。
姉は本当に、私を気にかけていてくれていたらしい。
姉と比べられるのが嫌だった。
私より才能がある姉が嫌いだった。
教えてと言えば、答えてくれる姉を尊敬していた。
勝手に出て行った姉を、何も言わないで出て行った姉を、私は恨んで……いいえ、羨ましかった。
好きに生きる姉が好きだった。
姉は力があった。姉には好きに生きる力があった。
私は、私には力がない。
外に出れば、魔獣に殺されかける程、私は弱かった。
強くなれば、姉のように生きられるだろうか?
お兄様に守られなくても。
国に閉じ込められなくても……
あぁ、私は、自由に生きたいと、ずっと思っていたんだ。
顔を上げると真剣な顔で話し合うお兄様とシャオリー達。
その内容は驚くべきことばかりだったけど、お兄様が外に出さないで守ってくれていた理由は分かった。
魔王。
それに対抗するためにシャオリー達の力を借りようとしている。
シャオリー、彼女は私よりずっとずっと強かった。
腕っぷしでも、魔法の力でもない。
何よりその精神が強い。
彼女に着いていけば私は変われるだろうか?
彼女に着いていけば自由にこの世界を歩けるだろうか?
姉に、追い付けるのだろうか?
"精霊のことについてはシャオリーや一緒にいるドリアードのドリーに聞いてみるといい"
手紙の一文を思い出す。
姉は、シャオリーに聞け言っていた。
彼女は私が強くなるために必要なことを知っているはず。
そして、彼女に着いていけば、姉のことをいろいろ聞けるかもしれない。
もう、会議は終わろうとしている。
私は感情に任せたまま、勢いよく立ち上がって、喉の奥の言葉を吐き出した。
「ちょっと待って!」
「どうしたリーエン。急に大声を出して」
急に叫んだ私を見てお兄様も眼をあけて驚いている。
シャオリー達もこっちをジッと見ている。
「お兄様! 私も、彼女達に同行させてください!」
ルサイスは再び、今度は口を開けて驚いたが、すぐに冷静な顔を取り戻して口を開く。
「……リーエン、どうして急にそんなことを?」
「……私は、強くなりたいの。誰にも守られなくても、自分の意志を貫ける強さが。そのためには、シャオリー、彼女に着いていくのが一番だと思ったのよ」
「彼女たちは重要な依頼を受けて動いてくれている。足手まといは」
「足手まといにはならない! 努力する」
「お前に何ができると――」
「いいわよ。一緒に行きましょう」
お兄様と怒鳴り散らすような喧嘩をしていた中、シャオリーが間に入る。
「リーエン、貴方、強くなりたいのよね? それは何のため?」
「……自由に生きたいから。誰にも守られることなく、私は、自分の足で前に歩きたいの。そのためには強くならなくちゃ行けないから」
「……分かった。私で良ければ力を貸すし、他の皆だって手伝ってくれるよ」
「いいのか? こいつはまだ未熟で、足を引っ張るかもしれないぞ?」
「別に、足を引っ張らないように強くなるって、本人も言っているんだもの。大丈夫よ。それに」
シャオリーはにっこりと私の顔を見て笑った。
「困っている。助けを求めている子の手を取るのは、私の信条だもの。力になるわよ、リーエン」
「…………ありがとう、シャオリー」




