幽霊と会議と反魔王連合
「アンブールが魔王、というのは分かりました。でも一つだけ。魔王の魂は封印されていたんですよね? それがどうやって封印を逃れて魔導生物の器に入ったの?」
「それについては我々も詳しい情報を得ていない。エンディミオン陛下ならご存知かもしれないが……」
「……そうですか。判りました」
封印を抜けた魔王の魂。
長い年月で封印が綻んでいた所に偶然魂を引き寄せる魔法が発動したのか。
それとも誰かが意図的に封印を解いたのか……
後者だとしたらやっかいよね。
「で、魔王アンブールが生まれ、それが魔王だと気付いたのは?」
「アンブールが即位した後だ。アンブールは狡猾だった。生まれた時には自我があったんだろう。赤ん坊の姿で生まれた奴は数年で成人並に成長した。その頃にエンディミオン陛下はアンブールを実子だと発表。まぁ理論上はエンディミオン陛下のマナから生まれたんだ。強ち間違っていない。そうして正式に王子になったアンブールは表向きは良き王子として振る舞っていた。民にも慕われるくらいにはな。実際、私も当時の奴とは会ったが、好青年って風貌だったよ」
「まぁ、人望はあったんでしょう。神王国の第二王女を籠絡して手駒にするくらいなんだから」
師匠がため息交じりに零す。
1年前の事件、事前に防げたとはいえ実質魔導王国からの宣戦布告。
第二王女サラティエが外交官として魔導王国へ行き、そこで出会ったアンブールに忠誠を誓った、らしい。
ウィリアムが投獄されたサラティエを尋問して吐かせた内容ではそうなっているが、ウィリアム曰く、あれは恋する乙女の顔だったそうだ。
恋は盲目。自国を裏切る程とはね。怖い怖い。
チラっとルルを見る。
彼女は特に気にしていないような、澄まし顔で座っている。
実際、サラティエのことは彼女にしてはどうってことないのだろう。
だが、王族として、身内の恥だと思ってはいる。だからかな。
テーブルの下で手を強く握りしめている、とエアリスがこっそり教えてくれる。
ルルはきっといい王女になる。
人の気持ちを考え、立場を考え、その中で自分のすべきことを見定める。
頭のいい子だから。まだ隠しきることはできてないけどそこは周りがフォローすればいい。
ルサイスに再び眼をやればこめかみを指で押さえて目線を下げていた。
「その件については申し訳ない。こちらも手が出せず、気づけば王女はこの国を立っていた」
「まぁ終わった話です。上の方で話は付いているのでしょうから私達から言うことはない」
「……ありがとう」
「アンブールに人望と魅力、カリスマがあることは判ったわ。そして、力もあることも」
「ほう、力、か」
「えぇ。貴方の話を聞く限り、別に反アンブール派が少ないわけじゃないと思う。じゃなきゃあの力、ドラゴンを扱う力があるくらいだもの。この1年で潰されていてもおかしくない。余程地下に隠れるのが上手くなければ」
「ふむ。確かに我々はそれなりに数と力も居る。おかげで今でも完全に潰されはしていない。それに隠れているわけじゃないのさ。我々はそれぞれの領主の連合だからな。向こうも自分に遇する領主と反する領主は判っているだろう」
「そう。でも逆にそんな貴方達でも簡単には手を出せないくらい、向こうの力も強大ということよね?」
「どうかな? 向こうも王になろうとしているんだ。領主を潰したら纏まらないことを把握しているし、だからこそ無事と言うこともあると思うが?」
「それこそないわね。ここの領主は任命制。それは貴方が言った通り。なら仕組みとして領主が変わるくらいで大きな変化があるわけはない。人望のあるアンブールだもの。任命する領主候補くらいは居るでしょう?」
「……く、はっはっはっは! そうか、そこまで判るのか。これは予想以上だな」
そこまで言うとルサイスは声を殺して笑った。
「私の予想は当たっているかしら?」
「あぁ。君の言った通りだ。我々はただ、アンブールを牽制するくらいの役割しか出来ていない。こちらも準備を整えているが、向こうも防備を固めている。なかなかチャンスが回ってこなかったんだ」
「来なかった。つまり」
「あぁ、今がチャンスだ。君達という協力者が現状を打開する手立てになる」
気づけばルサイスの後ろに立っていたシュリットが、大きな紙を持ってテーブルへ広げる。
「これは魔導王国の地図だ。今いるアルスレインがここ。赤い丸が付いているのが我々『反魔王連合』の領主がいる街だ。そしてここが」
ルサイスは一際大きく描かれた街を指差す。
話の流れではそこが魔導王国の首都だろう。確か名前は
「ここが我が魔導王国の首都にして始まりの地。建国の地。魔都ゼオートだ。アンブールはここに居る」
「魔都ゼオート……」
「そして、君達と我々の共通目標。先代魔導王エンディミオン陛下が幽閉されているのもここにある」
「それは、どこ」
師匠が身を乗り出す。
「王城の離宮の奥。旧王城跡に建造された白磁宮に」
「白磁宮……そう、あそこに、居るのね……」
師匠は白磁宮という言葉を聞いた瞬間、眼を見開いて、そして視線を伏せる。
一瞬の沈黙。
その空気を破ったのはシュリットだった。
「皆様、一度休憩に致しましょう。お茶も冷めてしまっております。新しいものを淹れてまいりましょう」
シュリットの提案に乗り、会議はここで一度休憩となった。




