幽霊と会議と魔王について
「さて、本格的に協力する前に私たちと貴方たちの状況について整理しましょう。ルサイス様」
ルサイスに向けて話せば彼も一つ頷いた。
「そうだな、ではまず我々魔導王国側の事情を説明させてもらおうか。質問があれば都度聞いてくれ。少し長くなる」
「その前に、ここの防諜設備は本当に問題ないの?」
話を始めようとしてたルサイスを師匠が止める。
師匠から見れば新しい魔法だし、効果の保証は確かに判らないか。
「そこは大丈夫だと思いますよ、師匠。ウィリアムが手掛けているのならこの魔法陣の原型はあの魔法無効化魔法陣だと思いますから」
「私はその現物をちゃんと確認していないのだけど……」
「分かりました。私が確認しますから。ルサイス様、申し訳ありませんが魔法陣の現物か、写し絵はありますか?」
写し絵は魔法陣を人に渡す際に描かれるスクロールのことだ。
魔法ギルドが希望者に魔法陣を公開し、配布しても良いと判断されたものはスクロールとして手渡される。
私の登録している魔法陣もほとんどは公開しても良いと判断されているから、結構な数のスクロールが出回っているはずだ。
「あぁ、ウィリアムから届けられたスクロールがある。もちろん、これは火喰鳥じゃなくて伝令が届けた物だがな」
ルサイスは立ち上がると部屋の隅に置いてある棚から鍵付きの箱に鍵を差し込む。
その中から一枚の紙を取り出し、テーブルの上へ置いた。
「これがそのスクロールだ。幽玄の魔女と名高い貴方なら判ると思うが?」
「ありがとうございます……なるほどこれが」
ウィリアムから魔法無効化魔法陣の実物は以前見せてもらったことがある。
中身を確認すると複雑に線が広がり、まるで迷路の地図のような魔法陣が出てきた。
「…………よくこの規模に納めることが出来たと感心するわね。性格はともかく腕は確かなのは相変わらずか……あ、一部のマナを龍脈から得ようとしているのね。でもこれじゃ減衰率が高くてまともには……いや、こっちの記述で増幅しているのか……減衰しても増幅させればいいなんて効率を考えれば意味がないけど龍脈を使うのならメリットはあるわね……ここは改良ポイントとしてメモして置きましょう……それに」
「シャオ」
後ろから声を掛けられてビクっと身体が跳ね上がる。
振り返ると師匠やルル達が呆れた目でこちらを睨んでいた。
「あーえっと、ごめんなさい。ちょっと夢中になってしまったわ」
「はぁ……貴方の研究熱心なところは褒めてあげたいところだけど、今は時間が惜しいわ。結論だけ先にちょうだい。その魔法陣は問題ないの?」
「あ、はい。問題ないです。改良の余地はあるけど機能としては問題はありません。風魔法による音の遮断、闇魔法による空間の遮断、地魔法による物理的な防壁。問題なく発動しています。起動時間も半永久的に動くので途切れることはないかと」
「半永久的? いや、詳しいことは後でいいわね。問題ないなら話を続けましょう」
師匠もこの魔法陣に興味を抱いたようだが、優先順位をはっきりさせているからブレることはなかった。
『マスター、コピー終わったよ』
『ありがとうエアリス』
エアリスに頼んでいた魔法陣のコピーが終わったみたい。
これでいつでも魔陣書から確認できる。
「ルサイス様、ありがとうございます。こちらはお返しいたします」
スクロールを再び巻きなおし、ルサイスへ手渡す。
「うむ、あの一瞬でそこまで考察できるとは……噂に違わぬ力量をお持ちのようだ。頼もしい限りだ。では、話をしようか」
ルサイスが再び椅子に座ったのを見て私たちも席へ戻る。
全員が座ったのを確認し、ルサイスは語り始めた。
「我が国、マギリス魔導王国は貴族制を取らず、任命による領主を各都市に建てることで治世を行っていた。私も、我が父も前魔導王エンディミオン陛下から任命された。だが、現魔導王でありエンディミオン陛下の息子であるアンブール、あいつが王になってからその治世も乱れている」
「確認させてほしいのだけど、私の記憶ではアンブールなんて名前の息子は居なかったと思うわ。そのアンブールはどこに居たの?」
「あぁ、貴方はエンディミオン陛下と暮らしていたのでしたね。貴方がこの国を離れてからですよ。アンブールが生まれたのは」
「私が出て行ったのはだいぶ昔とはいえ、即位するには若すぎると思うのだけど? アンブールは魔族でしょう? 寿命は平均的な人族より長く、成熟にも差があるはず」
「あなたのおっしゃる通り、本来であればアンブールに即位する力はなかった。彼の継承権の序列は最下位だったのですから」
「待ってください。本来、ということはアンブールはそうではないということですか?」
ルルが会話に割って入る。
ルサイスの発言の通りであればそういうことだろう。
その質問はここにいる全員が考えていたことだ。
「そうだ。アンブールに母親は存在しない。奴はエンディミオン陛下の魔法により作り出された存在。魔導生物、我々はホムンクルスと呼んでいる」
「魔導生物……」
魔導生物、元の世界で漫画やアニメで聞いたことがある。魔法とか錬金術とかそういう不思議パワーで作られた人造生命体。
「なるほどね、魔族ですらなかったわけ。魔導生物、昔、確かに聞いたことがあるわ。でも実現は不可能だって結論が出ていたと聞いているのだけど」
「当時は、な。エンディミオン陛下がその後、技術を向上させて実現に漕ぎ付けた」
「その魔法はどういう魔法なんですか? 無から生命を作るわけではないですよね?」
「あぁ、魔導生物製造魔法。現時点ではその魔法式もエンディミオン陛下以外使うこともできないし、知っているものも居ない。ただ、聞かされた話では魔導生物は自分のコピーという話だ。自身のマナと身体の一部を触媒に、肉体を生成し、空気中の精霊に働きかけて生命を宿らせる、らしい」
肉体を作ってから生命を……それが本当ならそれは魂に関わる魔法。
そんなことが出来るなんてエンディミオン陛下とはどれほどの知識と魔法を持っているのだろうか。
「それで、アンブールが魔導生物というのは分かったわ。それがどうして、魔導王、いえ、魔王に即位することになったの?」
ルサイスは一度顔を背け、ため息を一つ吐いてから再び顔を上げた。
「……アンブールに宿った生命が、問題だったのだ……」
「生命……?」
「この魔導王国建国時の魔王の話は聞いたことはあるか?」
「えぇ、少しだけど聞き及んでいるわ」
「その魔王だが、討伐されたわけではない。魔王の意思は魔導王国の地下深くに封印されていたんだ。魔王は不死身の存在だったんだよ」
「不死身? それは倒しても死なないと、そういうこと?」
「いや、合ってはいる。だが魔王を倒すことはできるんだ。身体を滅ぼすことはできる。でも、その意思まで倒すことは出来ないんだ」
「…………魂が、転生し続けるというの?」
「魂? それは意思のことか? そういう意味ではその通りだ。魔王の意思、いや魂は身体が倒れると生まれる前の赤子として、その経験と知識を持って再度生まれてくると伝えられている」
「そんな……」
魂の転生。
この世界の転生は死ねば即転生する。その際、知識を持って生まれてくるものを私は知っている。
だが、それは極稀なことのはずだ。現にマーリン以外の者も長い年月で数人という人数だ。
元の世界基準では多いがこの世界でいえば少ない。
その知識の継承を確実に行うことができる。
悪意のある者が何度でも世界に現れ続ける。
これほど恐ろしいことはあるだろうか?
「故に、初代の魔導王様は魔王の魂を封印することを選んだ。だから魔導王国建国後、魔王が復活したことはない」
そうか、そうでなければ魔王の略称で魔導王が呼ばれることはない。
魔王という存在が周知ならば、そんな悪い名前が浸透しているはずがないから。
「…………待ってください。今の話の流れでは、まさか魔導生物の、いえ、アンブールに宿っている生命というのは」
ルルが青ざめた表情でその事実を口に出す。
そう、今この話をするということは、そういうことなのだ。
「そうだ。アンブールに宿った生命、魂は、地下に封じられていたはずの、魔王の魂だ」
この世界に既に、魔王が生まれていた。
お久しぶりです。
なかなか続きが書けずにいたのですが、なんとか魔導王国編が本格的に始まりそうです。
さて、11月12日で投稿から1年が立とうとしています。
本来の目標では150話くらい行けると思っていたのですが、なかなか難しいですね。
でもせめて100話の大台に乗りたいと思い、12日まで1日~2日に1話のペースで上げれたらと思っています。
細々とやっておりますが、これからもよければ応援、よろしくお願いいたします。




