幽霊と手紙と私の信条
「……なるほど」
親書を読み終わったルサイスは中身の1枚をテーブル越しに私の方へ滑らせた。
「この1枚は貴方宛のようだ。幽玄の魔女殿」
「私宛?」
そう言われて渡された紙を受け取り、中身に目を通す。
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拝啓 シャオリー
君がこの手紙を読んでいるということは無事にルサイスに親書を届けられたということだろう。ご苦労様。
彼とは火喰鳥を飛ばしあってここ1年情報を交換し合っていたいたんだ。
だから彼は君についていろいろ知っている。
君が我々神王国王族の恩人であることも、1年前の事件のこともね。僕が話したからね。
勝手に話してしまったことについて君はどう思うのかな?
怒ったかい? いや、君はきっと呆れるタイプかな。
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なんだろうか。
この王子は何をしたいのか?
私を煽って楽しみたいのか?
というか火喰鳥で文通できるなら親書を届けなくても良かったのでは?
いやでもこれは私たちが魔導王国で動きやすくするためにって話だし……
と、続きは……
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それにどうせ、『火喰鳥を飛ばせるならわざわざ親書なんて送らなくても』とか考えているだろう?
頭のいい君のことだ。気づいているとは思うが火喰鳥は万能じゃない。途中で捕まれば内容を盗み見られることもあるし、届かない事故だってある。
重要な案件は信頼できる筋から連絡をつける。当然だろ?
僕は君を信頼しているから親書を託したんだ。
そうそう、君が気になっているだろうから言ってしまうけど、ルサイスと話をしているということは地下の部屋に案内されただろう?
そこは僕が提供した"防音魔法陣"の設置部屋第一号だよ。ルサイスから秘密の話をするための場所と方法は何か無いか? と聞いてね。
魔法無効化の魔法陣の部屋全体に効果を与える術式を応用したのさ。君なら直ぐに気付いただろう?
そこの術式はルサイスには聞かれたら公開してもいいと伝えてあるから気になるなら聞いてみるといい。
君の反応が見れないことだけが残念だ。
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「……どうしよう、今から城に飛んで殴り飛ばしてやりたい……」
「……まぁ、あいつの性格を考えたら神経を逆撫でするようなことが書いてあるのだろう。だがそれは一応最後まで読んでからにしてもらえるだろうか?」
ルサイスの助言を受けて再度手紙に視線を落とす。
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さて、些事はこのくらいにして本題を話そう。
まずは先に謝罪しておく。今回君たちの旅の目的を聞いて利用させてもらうことにした。
ルサイスは反アンブール派閥の領主達の中心に居る。
君たちには彼らの助っ人を頼みたい。
我々神王国側としてもアンブールに即位されたままではいつ戦争状態になってもおかしくないと考えている。
ルサイス達の考えの詳細は直接聞いて確認して欲しいが、彼らは前魔導王エンディミオン陛下の再擁立、または新王を立てるつもりだ。
つまり、クーデターを起こそうというわけだ。
君たちの目的の一つはエンディミオン陛下に会うこと、または救出だろう?
目的は一致しているはずだ。
僕が頼むのも変な話だが、ルサイスとは昔からの付き合いでね。話だけでも聞いてやってほしい。
謝礼は無事、戻ってきた時に僕ができる限りで望むことを叶えよう。
では、ルサイスによろしく。
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「……素直に協力して欲しいなら最初から言えばいいのに」
読み終わった手紙から視線を上げると苦笑したルサイスの顔が目に入る。
「あいつはそういう奴だよ。さて、手紙の内容を聞かせてくれないかな? だいたい予想は付くけど他の人への説明も含めてね」
「……そうね、元々これはここにいる全員に宛てた内容をわざわざ私向けに書いているようなものだからね……この回りくどい言い回しといい……」
手紙の内容を要訳してルサイス達、反アンブール派閥のクーデターの手助けをしてほしいという内容を全員へ伝えた。
「なるほどね……それで、シャオはどうしたい?」
「……師匠はどうしたいんですか? 元々は師匠が始まりじゃないですか」
「まぁ、そうなんだけどね……私としてはシャオがどう決断しようとやることは決まっているから、さ」
「ほら、師匠がそんなこというから、私だって選択肢ないじゃないですか……はぁ」
ぐるっと他の皆の顔を見る。
ドリーは変わらずの笑顔で目が当然着いていくと言っている。
アーネは歯を見せて笑っていた。あれは面白そうだなって考えてる顔だ。
ルルはちょっと苦笑い気味だけど反対というわけじゃないらしい。
「その、先生、私としては着いていきたいのですが立場上問題があるので……」
「あぁ、確かに君の立場としては問題があるだろう。普通ならば、な」
「普通ならば?」
「今の状況は普通じゃない、ということだ。それについても説明しなければならないが、それは同意が取れた後だ。今はその件について問題はないということだけ分かってくれればいい」
「……だってさ。ルル。どうする?」
ルルは少し考えるように俯いたが、すぐに顔を上げた。
「でしたら私も同行させてください。先生の近くで見ていたいんです」
「分かった。よろしくね、ルル。さて、後は……」
「はい! 私も同行させてもらいます!」
サリファは元気に手を上に伸ばして返事をする。
「……あんたも他国の事情よ? クーデター、下手したら罪人として捕まるわよ?」
「シャオリーさん、私がなんのためにこの国に来たのかお忘れですか?」
サリファはいつになく真剣な顔でそう告げる。
サリファの目的はあの予言の内容の確認だ。
そして、今、この時点でその予言の通りのことは起こっていない。
つまり、これから起こるのだ。
「そっか、なら、一緒に行きましょう。サリファ」
「はい! よろしくお願いします!」
「というわけで、全員の承諾を得たわ」
『マスター、私の承諾は?』
身体の内からエアリスが飛び出してくる。
「あんたは私と一心同体。もちろん、ついてくるわよね?」
『わぁ強制。ふふ、もちろんですとも。それにあの暗黒マナの出どころもこの国だって話だし、弟を苦しめた現況を許しておけないもの』
エアリスにも戦う目的はある。
「さて、シャオリー。全員の答えは決まったよ。後は、あんただ」
「師匠……。はい」
ルサイスへと向き直り、彼の眼を見つめる。
「ルサイス様、私たちは貴方たちの計画に乗ることにします。最終目標はエンディミオン様の救出。この点においては協力できるでしょう。ただし、政治的な問題に発展した場合はその限りではないことをお忘れなく」
「もちろんだ。君たちは他国の者。それを内政に関わらせることはしないと私の名において約束しよう。エンディミオン様の救出、その助っ人であると他の仲間にも伝える」
スッと手を伸ばしてくるルサイス。
その手を握り返して互いの意思を確認する。
「……ありがとう。正直言えば断られる可能性も考えていたんだがな。他国の厄介ごとに巻き込むのだから」
「……師匠の事情もあったけど、それでも断らなかったと思うわ」
「ほう、それは、どうして?」
確認の意味もあるのだろう。
彼は手を放しながらそう聞いた。
そんな彼の手をもう一度握り返す。
びっくりした顔でこちらを見るルサイスに、私は微笑み返した。
「私の手の届く範囲で困っている人がいるのなら、私はその手を取って、助けてあげたい。それが私、幽玄の魔女。ヴィ・シャオリーの信条だから」




