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異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
第四章:エルフと魔王と魔導王国【帝歴716年】
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幽霊と地下と親書開封

書き出しで詰まってしまいだいぶ遅れました。

更新再開します。

 領主邸から出てきたエルフの青年。

 彼がリーエンの兄で領主のルサイスだろう。

 魔導王国は貴族のような爵位はない。だから門番のエルフが言っていたように皆領主と呼んでいる。

 他の領主が呼ぶときは町の名前か本人の名前を呼び合うらしい。

 初代の魔導王がこの地を治める時、魔導王の直下に領主を配置し、領主同士に優劣はないとした名残だそうだ。


 さて、にっこりと笑っているルサイスの方を見るとその視線の先は一人に注がれている。

 視線の先、リーエンを見ると目を逸らしてそっぽを向いている。


 なるほど、怒っているように感じたのはリーエンに対してだったか。

 まぁこっそり抜け出して領外へ出ていたのだから、心配もするだろう。

 ごめんねリーエン、ちょっとそれは庇えないかな。


「初めまして、アルスレイン領主、ルサイス様。私は神王国第二王子ウィリアム殿下より親書を預かって参りましたシャオリーと申します」

「あぁ、ウィリアムから聞いている。親書についてもな。詳しい話は中でしよう。シュリット、彼女たちを案内しろ」

「畏まりました」


 いつの間にかルサイスの横には執事服のエルフの青年が立っていた。

 金髪青眼の美青年、なるほど、エルフって美形ばかりの種族なのかな。

 その辺は向こうの世界のイメージ通りだ。


 シュリットと呼ばれた青年に促されて領主邸の中へ入る私達。

 その後ろを着いていこうとしたリーエンの後ろ襟を摘み上げるルサイス。


「リーエン、お前はまずこっちだ。まったく、勝手に抜け出して外の森へ行くなど……シャオリー殿、申し訳ないがこのじゃじゃ馬を叱りつけてから向かわせてもらう。部屋で寛いでいてくれ」


 そう言ってルサイスはまるで猫のように摘み上げられたリーエンを軽々と抱えて邸内の奥へ消えて行った。

 リーエンも小柄とはいえそこまで軽くはないはずなんだけど……


「さて皆様、こちらへどうぞ」


 シュリットに案内されて邸内を進むと地下へと続く階段の前へ来た。

 シュリットが壁に触れると魔法陣が浮かび上がり、その先の燭台へ炎が灯る。


「これは、連結魔法陣による着火ですか?」

「えぇそうです。流石は幽玄の魔女様。一目で分かりますか」


 シュリットはニコっと笑って地下への階段を降りていく。

 そんな彼の背中を見ながら、今言われた言葉を反芻する。

 彼は今、"幽玄の魔女"と言った。

 私はシャオリーとしか名乗っていない。

 伝令から聞いたのか、既に情報を集めていたのか。


 これから話す相手のことを考えると少しだけ憂鬱になる。

 情報戦は余り得意じゃない。

 神都の盗賊ギルドで話したこともかなり緊張したし、実際情報は得られてもこちらが優位に立った感覚はなかった。

 きっと領主であるルサイスもキレ者なのだろう。

 なんたってあのウィリアムとやり取りをする仲なのだから。


「先生? 行かないのですか?」


 後ろからルルの声がかかる。

 考えても仕方がない。


「いいえ、ちょっと考え事をしていたから」


 階段を一歩ずつ降りていく。

 階下ではシュリットが待っていてくれた。

 そのまま石で作られた地下通路を歩いていくといくつかの扉が左右に並ぶ。

 その一番手前の扉の前でシュリットは足を止めた。


「こちらの部屋でお待ちください。領主様は直ぐに来ますから」

「リーエンへの説教はそんなに短いの?」

「えぇ、あぁ見えてリーエン様にはお優しい方ですから。そこまで長々と説教はしないでしょう」


 へぇ、兄弟仲は良いんだ。


 部屋の中へ入ると私を含め、師匠、ルルが反応した。


「先生、この気配は」

「えぇ、師匠も分かりますか?」

「分かるわ。これがそうなのね」

「はい。術式は改造されてますが広げ方がそっくりです。間違いないですね」

「あの、3人共何を話しているんですか?」


 サリファが首を傾げながら問いかける。

 魔法を使えるとはいえ彼女の魔法は特殊だから気づけないのも無理もない。


「この部屋全体に魔法陣が仕込まれているの。効果は部屋の中全て。このタイプの魔法陣を私は一つ知っているんだけど、それにそっくりなのよ」

「なるほど。ちなみにどんな効果なんですか?」

「魔法の内容は……風と地と闇……闇で部屋全体を覆って魔法による透しを防いでる。風は防音、そしてここは地下だから地の魔法で音が伝わらないようにしているわね。つまりこの部屋は完全防音の秘密の部屋ってこと」


「正解だ。なるほど、あいつが褒めるだけのことはあるようだな」


 後ろから声がしたので振り返るとルサイスとその後ろに隠れたリーエンが居た。


「待たせた、とは言ったものの入口に居たということはシュリット、お前ワザと遠回りしたな? 余計なことを」


 シュリットの方を睨むルサイスにシュリットは涼しい顔で頷いた。


「えぇ、その方がタイミングがよろしいかと思いまして」


 うわぁ、シュリットさん、したたかな性格のようで。

 振り返るとアーネと師匠は苦笑いをしていた。

 あの二人、気づいてたんだ。経験の差かな。

 物珍しくてキョロキョロしてた私とは違うみたい。

 サリファもドリーもルルも気づいてなかったようだ。


「さて、早速話をしようじゃないか。中へ入って掛けてくれ」


 ルサイスに促されて用意されていたテーブルの回りへ散る。

 上座の方へルサイス、その隣へリーエン。

 近い方から私、師匠、アーネ、ドリー、ルル、サリファと並んだ。

 シュリットさんは気づいたら消えていたけど、しばらくしてお茶を運んで皆の前へ並べてまた消えてしまった。

 彼は話し合いには参加しないようだ。


「まずは親書を預かろう。内容はだいたい予想できているがな。読んでいる間、お茶でも飲んで休んでいてくれ」

「はい、こちらがウィリアム殿下からの親書です」


 テーブル越しに親書を渡し、まずは一つ依頼達成、と。


「確かに、受領した」


 そしてルサイスは手紙の封を切り、中身を読み始めた。


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