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異世界でただ一人の幽霊と魔女  作者: 山海巧巳
第一章:幽霊と魔女と霧の森【帝暦712年】
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幽霊と魔女と魔法の勉強

 食事を終えて一息つく。

 献立は少し硬いパンと野菜のスープ、干した何か獣の肉とサラダだった。


 「美味しかったです。いつも料理を?」

 「今日は特別、あなたが弟子になった記念にと思ってね」


 つまりいつもはもっと質素だと。


 「あなたの世界がどうか知らないけど、ここまでの献立は普通の家じゃ出さないわよ?」


 顔に出ていたのか、考えを読まれて視線を泳がす。


 「こほん、そう言えばドリーも食べていたけど精霊族もご飯食べれるんですね」


 ドリーを見ると食べ終わったお皿を片付けて洗い物をしている。

 なんて出来た子なんでしょう。


 「精霊族は食べたものを自身のマナに還元しているの。普段は森からマナを受け取っているらしいけど食事でも摂れるらしいわね。効率は悪いらしいけど」


 食事をマナ......それはもしかしたら私も同じかもしれない。

 食べたものを体内で変換している。このお腹に入れたものが消える感覚はそのせいか。


 「師匠、さっきからマナとか魔素とか魔法っぽい単語が聞こえるので、魔法の話が聞きたいです」


 そう、魔法だ。魔法を覚えたい。


 「そう焦らないで、あなたが知るべきことはたくさんあるわ。順番にね」


 師匠がゆっくりと向き直る。

 それに合わせるようにドリーがお茶を運んでくる。この子はどこでこういうことを覚えるんだろうか。やはり師匠か。


 「ありがとう、さ、お茶でも飲みながらゆっくり話しましょうか」


 「最初の講義は"魔法使い"と"魔女"と呼ばれる私達について」


 師匠はお茶を少し飲むと話し始めた。


 「魔法使いと魔女について説明する前にこの世界の種族について説明する必要があるわ。まずは人族と呼ばれる種族、それから亜人族と呼ばれる人とは違う特徴を持つ種族、エルフにリルズ、ドワーフにシャーンを代表する獣の特徴を持つ種族が居る。そして、魔族」

 「魔族と言うのは魔法に長ける者たち、ということで有名ね。特徴は種族全員が魔法を使えると言うこと。それ以外は人族と変わらないわね」

 「後はドリーのような精霊族、精霊族は種類も多くてね、森ならドリアード、水辺ならウンディーネ、火の近くならイフリートと場所によって種類も変わる。貴方の言う幽霊族も精霊族の一つとして数えられるでしょうね。発生場所は……墓地なんてどう?」


 冗談じゃない。確かに幽霊と言えば墓地だがそれが私のこととなれば話は別だ。


 「発生場所は霧の森で、精霊族と人族のハーフってのはどうです?」


 ハーフが生まれるのか知らないけど。


 「前例はないけど何事も最初はあるものよ。今後、幽霊族について聞かれたら精霊族と人族のハーフってことで」

 「分かりました」

 「種族について説明できたら次は魔法使いと魔女について、これらは人族の魔法を使う者の総称よ。男は魔法使い、女は魔女を名乗る」

 「それは必ず名乗るものなんですか?」

 「名乗る、とは違うかしら。これはギルドに登録する際に名乗らされるのよ」

 「ギルド?」

 「そう、魔法ギルド。人族の魔法を共有し、発展させ、仕事を斡旋する場所。魔法ギルドに加盟すると作成した魔法を弟子以外に展開することができる。それにより、閲覧料、使用料などを徴収して発案者へ還元する。それに魔法ギルド内での知名度も上がれば国から声が掛かることもある。代わりに、広めやすい異名を付けられるのよ。それが魔法使いであり、魔女」


 てことは師匠の"深霧の森の魔女"っていうのは……


 「お察しの通り。私の"深霧の森の魔女"はギルドが付けた異名。おかげでそこそこ有名にはなったけどね」


 なるほど、ね。


 「いずれ貴方も魔法ギルドに登録することになるわ。今からでもいいから自分で考えときなさい。じゃないと、勝手に決められるわよ?」


 それはゾッとする話だ。それなら自分で考えた方が幾分マシな気がする。


 「魔法使いと魔女についてはそんな所ね」

 「ひとまずは理解しました。それで、魔法については?」


 師匠はニヤリと笑うと立って歩き出した。

 キッチンに行くと用意していた桶に水を汲んでそれをテーブルの上に置く。


 「まずは貴方の適性を調べましょう」

 「適性?」

 「あなたが使いたがっている魔法の適性よ。魔法にはまず4つの基本属性がある。『火』『水』『風』『地』。さらに独立して『光』と『闇』属性がある」

 「氷とか雷は無いんですか?」

 「あるわよ? それらは派生属性って言うの。例えば火の属性は炎だけじゃなく、熱に関する系統でもあるの。火と水属性を扱えれば、水から熱を奪い、氷へ。熱を与えて霧へ変えることが出来る。雷はまた違うんだけど風属性の系統に属するわ。この辺はおいおい勉強しましょう」


 そう言って師匠は手招きをする。

 桶の前まで来た私の手を取って、水の中に沈める。


 「今から見るのは基本属性の中でどれが貴方に適しているかを調べる方法よ。この桶は中に水を入れた状態でマナを流し込むと系統によって水の性質が変わる道具よ」

 「あの、私マナとかそういうの教えて貰ってないんですけど」

 「大丈夫、最初は私が道を作ってあげるから。ほら手を重ねるわよ」


 師匠が水に沈めた私の手に自分の手を重ねる。


 「目を閉じて。自分の中にある力を意識して。私が流し込むエネルギーが分かる? それがマナよ。自分の中の同じものを探して」


 師匠の手から暖かいものが流れてくる。液体のようで空気のような不思議な感覚。

 これがマナ……この感覚は、食べた後に感じた消失感と一緒にあったような……

 そうか、あれがマナに変換しているってことか。

 ということはこの感覚の源は……


 「そう、上手よ。マナを見つけたようね。それじゃあそれを右手に集めて、外に出すイメージ」

 「右手に……集めて……外へ……」


 マナを外へ出すイメージ。イメージ……イメージ……


 「……これは、想像以上ね」


 師匠の言葉に目を開く。

 するとそこには桶から天井近くまで立ち上る水の渦が出来上がっていた。

 驚いてマナの放出を止めると水の渦は桶の中に戻って行った。


 「水が渦を巻く。これは『風』の素質がある証拠。しかもあれだけの大きさ。やっぱり精霊族に近いのね」

 「……風の素質……いやそれより精霊族に近いとっていうのは?」

 「説明してなかったけどね、精霊族も魔法が使えるの。でもそれは種族固有の魔法。イフリートは火しか使えないし、ドリアードは地しか使えない。代わりにマナの効率がとてもいい」

 「効率?」

 「ここからは講義2、魔素とマナについてよ」


 いきなり講義が再開された。


 「この世界には私達の周りに魔素と呼ばれる粒子が浮いています。これはそのままでは何も影響を及ぼしません。しかし、マナと呼ばれる力と結合することにより、事象を起こします。これが"魔法"」

 「マナは色を持っていて、赤マナなら火、青マナなら水、緑マナなら風、黄マナなら地という風にね。このマナの保有量は人によってバラバラなんだけど、種族によって偏りがあるものがある。それが"変換効率"」

 「人族の場合、常人で自己保有量の2割。例えばマナを100持っている人は20しかマナが出せない。20使うと空になってしまう。英雄と呼ばれる者でも高くて8割と言われているわ。ちなみに私は6割」

 「そして精霊族はね、変換効率がなんと10割、ロスなしでそのまま出力できるの。代わりに固定の魔法しか使えない。けれど」


 そこで一度区切って私を指差した。


 「シャオリー、貴方は幽霊族、そのどちらでもない。その特性は精霊族の100%の変換効率と、人族の多種多様な魔法の才。それらを扱えると言うことよ」


 それは、凄い事なんじゃないだろうか?


 「でもドリー達だって使おうと思えば多種多様な魔法を」


 師匠は首をゆっくりと横に振る。


 「シャオリー、残念だけど彼女達は"話せない"。呪文の詠唱が出来なければ魔法陣を描くしかない。だが魔法陣は未だ研究者が少ないの……」

 「呪文と、魔法陣、ですか?」

 「ん? あぁそこはまだ説明してなかったわね。そうね、そこはまた今度ゆっくりと話しましょう。今は素質の話よね」

 「はぁ」

 「まず貴方は『風』に対する素質が高い。そして、ヴィロ様の加護のおかげで『水』と『地』にも適性がある。それに」


 師匠は桶に手を入れて指で掬う。


 「温度はあまり上がっていないから『火』はあまり得意ではなさそうだけど使えなくもない。それに少し粘り気が出ている。これは『水』への適性も少しありそうね。加護と合わせて貴方は『風』と次いで『水』が得意。そして順に『地』『火』と一応四属性は使えるみたい。鍛えがいがあるわ」


 そう言って桶をキッチンへ片づけに行った。


 「今日はここまでにしましょう」

 「え? 私はまだまだ平気ですけど……」

 「ここから先は魔法について触れて行くわ。そしたらちゃんとこっちも準備しなきゃ。貴方の適性も分かったしね。続きはまた明日」


 そう言われてはこちらもせっつくわけにはいかない。


 「分かりました。師匠」

 「うん、素直でいい子な弟子は好きよ」


 明日を待ちわびながら、今日は用意された自分の部屋へと向かう。


 「必要なものがあったら言いなさい」

 「分かりました」


 と言って部屋に入るとそこは昨日見た部屋とは見違えていた。


 「これは、まさか師匠が?」


 ベッドが整えられており、埃まみれだった部屋は掃除が行き届いており、換気もされているようだった。


 「……明日、心配かけた事、もう一度謝ろう……」


 せっかく用意してもらったのだ。使わなくては申し訳ない。


 「この身体で眠れるのか、検証と行きますか」


 そのままベッドに潜りこみ、そして、その日はいい夢を見た。


2019/04/15

内容の一部を修正しました。

魔女名を付けるくだりを修正しました。

大筋の流れは変わりません。

また、シュナスのセリフにブレがあったため、口調を修正しました。

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