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Chapter12

「ん、んぅ」


 朝……か? 鳥の鳴き声が聞こえるし間違いないだろう。けどいつもうちの近くで鳴いているやつとは違うような? まあいい、とりあえず起きて朝の支度をしなくては。

 と思ったのだが、体が起き上がらない。腹のあたりに丸太でも乗っているような感触がする。もしかしてフィギュア達が落ちて来たのだろうか。

 ゆっくりと目を開けるとまず見慣れない天井があった。そして丸太の正体を確かめるべく、自分の腹部を確認するとそこには俺と同年代ぐらいの男の足乗っかっていた。


 ああ、そっか。俺そういえば旅行に来ていたんだったな。丸太の正体は俺の親友こと清水録の足だった。こいつ、何度か一緒に泊まったことはあるが相変わらず寝相悪いな。べ、別に変な意味じゃないぞ!

 と、誰に弁明したのかも分からないまま俺は昨日のことを思い出す。確かトランプをしていて……。


「あっ……」


 思わず声に出してしまうほど俺自身何をしでかしたかを思い出した。そうだ、確かトランプの罰ゲームで白宮が「有野くんって好きな人いる?」なんていう質問をしてきて、連敗続きの俺はこいつらに一泡吹かせてやろうと思って変な答えを溜めて溜めてようやく言おう! とした瞬間に寝落ちしたんだった。なんせそれを言った記憶がないのだから間違いないだろう。


 はあ、全員集合したらなんて言われるか分からないな。その状況だけ見たら俺、罰ゲームを途中で逃げ出したやつみたいだしな。

 とりあえず親友の足を退けて起き上がる。さすがに女の子二人は部屋に戻って寝たらしい。というか今は何時だろう。

 俺はスマホを取り出し時間を確認する。


「はぁ」


 時間の表示を確認すると05:13と画面には表示されていた。これじゃあいつもの起床時間と大差ないな。

 とはいえみんなより睡眠を早くとったこともあり二度寝することも無理そうだ。仕方ない、折角の箱根だし散歩でもするか。


 俺は外に出る準備をして旅館を出る。浴衣で散歩なんてしたことがないので、少し気分が高揚する。

 旅館を出て50mほど歩いたところで後ろから誰がが走ってくる音がした。

 何事かと思い、後ろを振り向くと神宮が息を切らし俺の目の前で止まる。


「ち、ちょっと! どこ行くの!」


 そしていきなり怒られてしまった。いやただの散歩なんだけどな。

 もしかしてアニメのクライマックスのようにどこか遠くにでも行くと思われたのだろうか。いやいや俺の人生にそんなこと起こるわけがない。

 極力人生は平和に生きたい方だ。何事もそれなりが一番。

 というかそれぐらい神宮でも考えれば分かることだろう。なにをこんなに怒っているのか分からないが、一応説明しておくか。


「どこ行くって。目が覚めたから散歩でもしようと思ってな」

「えっ?」


 なぜそんなにキョトンとしているんだ……。もしかして俺が神宮たちを置いて先に帰るとでも思ったのだろうか?

 よほど自分の勘違いが恥ずかしかったのか、神宮の顔は早朝にも関わらず夕焼けのように真っ赤に染まっていた。


「それならそうと早く言ってよ、ばかっ!」

「じゃあ俺が散歩する時は神宮に許可を取ればいいのか?」

「っ! 誰もそんなこと言ってないでしょ! ばかばかっ!」


 神様、すごい理不尽なことを言われているようなのですが気のせいでしょうか。

 それより折角外まで来たのでどうせなら早く散歩をしてみたい。


「そういうことだから。俺は散歩してくるぞ」

「ま、待って。私も一緒に行きたい」

「え? 別にいいけど神宮はいいのか?」

「はい! 決まり! いこいこ!」

「お、おい! ちょっと待てって!」


 もしかして本当は散歩に行きたかっただけなんじゃないか? それも俺と……というのは考え過ぎか。

 一人で楽しむのもいいが、こうやって誰かと観光するのも悪くはない。

 見たもの、感じたものを誰かと共有できるっていうのはいいものだ。それはアニメやゲームで学び、こういう場でも共通だということを俺は知っている。

 なんだか白宮が来てから俺、徐々に二次元離れしてないか? なんだか社会的には嬉しいような、個人的には複雑のような。

 それから少し歩き、それまで楽しそうにしていた神宮が急に真面目な顔になり俺の方を向いた。


「ねえ有野。昨日の最後の質問だけどなんて答えようとしたの?」


 今日のうちに誰かに聞かれるとは思っていたが、まさかこのタイミングで聞かれると思ってはいなかった。

 きっと彼女が真面目に聞いてきたのは本当にいた場合、彼女なりに応援してくれようとしたからだろう。

 だが悪いな神宮。目を瞑り口を開く。俺の昨日の答えは……。


「そもそも俺には今そんな恋愛的に好きな人っていないんだ。だからあの時は『お前らだよ』って答えようとした。だから想像と違っていたら、ごめん」


 怒られる、そう思った。だって俺は思わせぶりな態度を取ってしまったのだから。

 ゆっくりと目を開けると、神宮は予想外の表情をしていた。

 何故かほっとしたような顔をしていたのだ。分からない、現象と結果はあるのに過程がまるで分からない。


「そっか、そうなんだ。よかった~。だったらまだ………………ある」


 最後の方はよく聞き取れなかったが、過程のことをずっと考えていた俺にその内容まで考える余裕はなかった。

 その後、神宮は終始元気に話しかけてくれた。ただ俺は考え事をしているせいか適当な返事しか返せなかった。それでも神宮は楽しそうだった。だからこそ余計に分からなくなった。

 朝食の時間が近くなったので俺たちは旅館に向かった。早朝の時と違って帰りはそこそこ観光客がいた。家族連れ、御老人、カップル。

 よくよく考えたら今の俺たちもカップルに見えるのだろうか。手こそ繋いでないものの第三者視点ならきっとそう見えるだろう。


「ねえ有野。折角だし手でも繋ぐ?」


 神宮もそんなことを思ったのか小悪魔のような笑いで俺を見つめ、問いかけてくる。

 きっと冗談で言っているのだろうがここは軽い気持ちでこういうことをしてはいけない。第一オタクの俺にそんな度胸はなかった。


「気持ちは分かるが、そういうの友達同士でするものじゃないだろ」

「そ、そう……そうだよね。やだなぁ有野。な、なに本気にしてるの。冗談だって冗談、あははっ」


 ちょっときつく言い過ぎただろうか。思ったより神宮がしゅんとしたように見えたので反省する。

 それでも少ししたらまた元気な神宮に戻っていたので安心した。

 ようやく旅館に戻った俺たちはとりあえずそれぞれの部屋に戻ることにした。


「ありがとな神宮。散歩、付き合ってくれて」

「ううん! 私も行きたかったからね! こっちこそ連れていってくれてありがとう」

「ああ。じゃあまたあとでな」

「うん、またあとで」


 俺はそのまま部屋に戻る。すると大の字になって未だに熟睡している録の姿があった。

 本当に気持ちよさそうに寝てやがるな……って寝落ちしていた俺が言えるようなことでもないか。

 しかし、さすがにそろそろ起こしてやらないと朝食がきてしまう。俺より一回りほど大きいであろう体を手で揺らして呼びかける。


「おーい録、起きろ~」

「んぅ……ここは……俺に任せろ……全部倒してやる……」

「なに言ってるんだ! 早く起きないとメシが無くなるぞ!」

「メシ!?」


 すごい勢いで録が起き上がった。どんだけ飯が好きなんだよこいつは。

 というか『俺に任せろ……全部倒してやる』ってなんだ。お前は一体何と戦っているんだ。


「んー、ここはどこだ? お前は誰だ?」


 おまけに今いる場所も目の前にいる俺のことも忘れているときた。

 ったくどれだけ寝ぼけているんだよ。仕方ない、面倒だがここはちゃんと説明してやるか。


「ここは箱根にある旅館。俺とお前と神宮と白宮で旅行にきた。これで分かるか?」

「旅館……旅行……あっ! ちょっと待ってくれ!」


 思い出したみたいだが、一体なにを待てと言うのだろうか。

 しばらく瞑想をした後に録が目を開く。こいつ普段からこうやって目を覚ましているのだろうか……。


「お、おう翔! おはよう!」

「随分と変な目の覚まし方をするんだな録、おはよう。ほらそろそろ食事がくるぞ」

「お、おー! 楽しみだなー」


 なんか録の挙動がとてつもなくぎこちない気がするが、まあいいか。そんなに気にすることでもないだろう。

 朝から軽い運動もしたし、いい感じにお腹も空いている。


 しばらくして朝食が部屋に運び込まれた。白米に味噌汁、お新香に鮭と正に日本の朝食! といった内容だった。

 味噌汁を心にしみ込ませ、俺と録は朝食を堪能していく。うーん朝食も大満足だ。これで今日も一日頑張れそうだ。と言っても基本的には楽しむだけなんだがな。


 ──仲良し作戦2日目が始まった。




「舞ちゃん……」


 誰に言ったわけでもなく、小さく呟いた。

 いや正確には言ったのかもしれない。その相手は彼女……神宮舞とその隣にいる有野翔だった。

 やっぱり本気なんだ。彼女は。早朝に物音がしたので目が覚めてしまったのだが、その時には既に彼女の姿がなかった。

 もしやと思い、眺望が利くベランダのようなものから旅館の外に視線を向けた。

 そこで彼と彼女が話しているのが見えた。おそらく有野くんが散歩にでも行こうとしたのを舞ちゃんも見かけて追いかけたのだろう。

 なぜ約束していないと思ったかと言うと昨日、有野くんは寝落ちしたからだ。


 寝落ち……そういえば昨日の最後の質問、彼はなんて答えるつもりだったのだろう。

 それに関してはたぶんあそこにいた3人全員が気になったことだと思う。舞ちゃん? 私? それとも他の子? いずれにせよどこかタイミングを計って彼に聞きたいところだ。

 もしかしてこの散歩中に舞ちゃんは聞いたりしちゃうのかな。なんだかずるい。


 しばらくベランダでぼーっとしていると帰ってくる二人の姿があった。

 行った時と違って舞ちゃんはとっても楽しそうだった。

 やっぱりか……私が昨日懸念していたことはどうやらほぼ確信していいものらしい。

 だとしたらこの旅行。一筋縄でいくようなものじゃない。


「有野くん、今回の作戦はあなたも頑張らなくちゃいけないよ」


 今度の私ははっきりと彼に聞こえない声で彼に向けてそう言い放った。

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