表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/29

Chapter11

 旅館についた俺たちはフロントでチェックインを済ませた後にそれぞれ俺と録、白宮と神宮の部屋へと移動した。

 指定された部屋の障子を開けるとそこには10畳ほどの部屋があり、その奥には素敵な景色が広がっている。綺麗な緑の奥に見える山々。ただ今日は曇りの為、少し霧がかかっており本来奥に見える景色が見えないため絶景とは言い難い。

 しかし、それでも部屋のよさと景色に俺たちは興奮を隠せなかった。


「なかなかいいとこだな翔! やっぱり奮発していい旅館を選んだ甲斐があったな!」

「だな! 明日か明後日どっちかで晴れてくれれば尚更いい景色が見れるんだけどなー」


 さて、“白宮をマリアに襲わせない作戦”通称仲良し作戦(長いので今思いついた)は実のところ一日目は特になにもない、外も曇りになることを想定して今日は食事と温泉を堪能するぐらいだ。

 と言っても作戦とは別に考えればメインは温泉なので少し楽しみではある。気持ちよすぎて寝落ちしなきゃいいのだが。


 客室で少しゆっくりした後、早速俺たちは温泉に入ることにした。温泉には他の客も入れる大浴場みたいなものと、客室に備わっているものがある。ひとまずは他の客もいる、大浴場の方に入ることにした。

 時間も夕方前ということもあってかあまり他の客は見えなかった。おそらくは観光などをしているのだろう。

 なんだか貸し切りしたような感じで得した気分だ。

 体と頭を洗い流して、俺と録は温泉へと入る。あまりにも丁度いい湯加減とそこから見える一面の木々やここから見える緑あふれる景色に思わず癒されていた。


「はあ~。なあ録、めっちゃ落ち着くなこれ」

「だな~。景色も最高だしもうこれだけで帰れるわ」

「おいおい、旅行は始まったばかりだぜ」


 だが録の言っていることも頷ける。それぐらいこの温泉には価値があるように俺たちには思えたのだ。しかもこの温泉と景色を3日間も堪能できるとか最高かよ、温泉万歳!

 もっとも堪能しすぎて帰りたくならないかが少し心配だけどな……。

 

「そういえば舞やしろみやさん達も向こう側にいるのかな?」

「そうだろうな」


 俺たちの視線の先にはいかにもテンプレート的な縦線のはいった木の板がどんと構えている。

 フロントにあった案内の通りならあの向こう側は女湯になっているはずだ。ただ俺と録じゃあ覗きイベントなんて発生するはずもなく……。


「向こうは向こうで楽しくやってるだろ」

「まあそれもそうだな」


 となんともつまらない感じで俺たちはそのまま温泉を楽しむのだった。




「いまごろ有野くんたちも向こうで温泉入っているのかな」

「だろうねー。まっ、あの二人だったら変なことしたりしないでしょ」


 私と舞ちゃんはそんな談義をしながら温泉に浸かっている。かれこれ30分以上はこうして話しているかな。

 とても平和な時間。お互いの中にそれぞれ魔王と聖女がいるなんてことも忘れてまったりとしている。

 それもそのはずだよね。だってこんなに良い温泉少なくとも私は行ったこともなかったのだから。

 でも私はまったりしすぎてはいけない。今日の目的は舞ちゃんともっともーっと仲良くなること。

 とはいっても不安もある。本当に上手くいくかな、またマリアさん襲ってきたりしないかな、また……彼に迷惑かけないかなって。


 最近やっと会えた衝動からかあの日からルーちゃんの様子がおかしい。自分で願ったことなのに初恋だからなのか初々しい反応する。昨日の夜もずっと相談を持ち掛けられた、私も男の子と付き合った経験なんてないのになぁ……。

 おかげで少し寝不足。相談が終わったのは3時過ぎだった。ても隣の部屋からガサゴソと音が聞こえたから彼も寝不足なのかもしれない。アニメでも見ていたのかな? あっ私が“そのこと”を知っているって彼は知らないんだよね、ふふっ。


「しろみー? おーいしろみー生きてるー?」

「えっ! ごめんごめん、少し考え事をしてて」

「ほんとにぃ? その割には顔がにやにやしてたよ」

「ほ、ほんとだよ~」


 どうやら顔に出ていたみたいだった。ちょっぴり恥ずかしい。

 舞ちゃんとの会話は楽しい。一緒にいてほんわかするし、きっと旅行なんてなくてもその内どんどん仲良くなれる自信がある。それほどまでに彼女は女友達の中では特別で将来は親友になってるんじゃないかな、なんて思う。

 温泉、絶景、そして舞ちゃん。私のための三大癒しがこの場所にはあった。

 思わず目的を忘れそうなくらい私は幸せに浸る。でもよくよく考えたら今日は何もしないんだし、今日ぐらいは浸ってもいいような気もした。

 

「ねえ、しろみーは好きな人っていたりする?」


 本当に突然だった。なんの脈絡もなく彼女はそう私に問いかけた。

 けど少し冷静になって思った。たぶん彼女はルーちゃんとアルさんのことが気になって仕方がないのだろう。私の気持ちがバレている訳ではないはず。


「うーん、まだこっちにきてそんなに日も経ってないし分からないや」


 我ながらなんとも無難な返答をしたと思う。

 言えるわけないよね。だってその問いに正直に答えてしまったら、きっともう4人ではいられなくなってしまう。それにもともと部外者は私だ、そんな傲慢を押し通すわけにはいかない。私一人の事情で今の関係を壊してはいけないと思った。


「そう……なんだ」

「舞ちゃんはどうなの?」

「私もだよ。そもそも男子との付き合いなんてそれこそあの二人ぐらいだし。あの二人は友達だから」

「そっか~。じゃあ私たち仲間だね~」


 ごめんね、舞ちゃん。私本当は知ってて聞いたんだ。ここで私に気を使って嘘を付くことも、あなたが本当は誰が好きなのかも全部知っているんだ。

 あの日、アルさんはマリアさんが私を襲う理由をこう言っていた。「二人の友情が深まるのを恐れた」って。

 確かにそれもあるかも知れないけどマリアさんが襲ってきた時、私は彼女の顔からもう一つの感情を感じ取った。

 それは誰かの嫉妬……小さいものだけど確かに感じた。

 それはマリアさん? いや違う。マリアさんが仮にアルさんのことを好きでもあの時点ではルーちゃんの目的は明かしていなかった。であれば、そう彼女しかいない。

 それに気づいた時、心が痛んだ。何も始まっていないのに動けばまるで私の世界を壊してしまいそうで。私がいることによって魔王のようにあの人たちの世界を壊してしまうんじゃないか。そんな錯覚に陥った。

 だから、壊すわけにはいけない。あの世界は、私が守らなくちゃいけない。

 

 ──例えそこに私がいなくとも──



 温泉にゆっくり浸かった後、夕食の時間になり男子の部屋に4人で集まって食事をしている。

 本当は別々で運んでもらうものなのだが、そこはあらかじめ旅館の仲居さんに言ってまとめてこちらの部屋に持ってくるようにしてもらった。

 今日の夕食は伊勢海老をはじめ、牡蠣やふぐの刺身など豪華な海の幸がテーブルに並んだ創作料理だった。

 特に伊勢海老の大きさは圧巻で、テレビとか写真で見るのより数倍実物は大きく見える。その大きさのあまり俺たち男性陣は興奮していた。


「なあ翔……これ食っていいんだよな? この伊勢海老は俺たちのだよな!?」

「ああ、間違いねえ。ここが俺たちが求めていた楽園だったんだ!」


 あまりの興奮によく分からないことを言ってる気がするがこの際どうでもいい。だってこんなもの普段絶対に食べることはないのだし、自然と語彙力だって乏しくなる。

 そして一方の女性陣も形は違えどなかなかに興奮していた。


「わあ! しろみーこれすっごいね~! 私写真撮ろっと」

「だね! あっ、舞ちゃんあとでその写真送って!」

「うん、任せて!」


 女の子って本当に写真とか好きだよな。思い出として残したいという気持ちが男より大きいのだろう。

 まあでもこういったやりとりを見てるのは悪いものじゃない。今は中の奴らには邪魔される心配がないからな。

 何故かと言うと一人だけ関係がない人間……そう録がいることだ。こういう時に事情を知らないというのは非常にありがたい。ルシファーも下手に俺に抱き着こうとしないだろうし、マリアも関係ない人まで巻き込もうとはしないだろうからな。

 アルもそのことを分かってか、景色や食事の感想は言うものの代わりたいとは言ってこない。正にこの旅行は中の奴らに邪魔されず、仲を深められるというわけだ。


 食事が終わったあとはそのままトランプをして遊ぶことにした。

 ゲームの内容はババ抜き、しかし何を思ってか録がこんなことを提案してきた。


「なあ、ただやっても面白くねえし罰ゲームでもつけないか?」

「それはいいが、例えばどんなんだ?」

「そうだな、じゃあトップの奴がビリの人になんでも質問できるってのはどうだ? それでビリの人は必ず答えなくちゃいけない」

「まあそれぐらいなら……二人は大丈夫か?」

「私はさんせー。なんか質問ってのが録らしいね、ちゃんと手加減してるというか」

「うん、みんながいいなら大丈夫だよ」


 確かに絶対命令とか言わないあたり録らしい気はするな。まあ質問ぐらいなら特に困ることはないだろう。まあ気楽にやるか。

 しかし俺は数分後に気楽に挑んだことを後悔することになるのだった。




「異性に告白するとき、なんて告白するの?」

「す、好きです。付き合ってください」

「あははっ! 面白みもなーんもない告白だね! あーおもしろっ」

「ぐぬぅ……」


 現在3回戦が終わったところ、既に俺の3連敗。いや俺ババ抜き弱すぎね? 3回戦目のトップは神宮。こいつ俺がおもしろい返答をするだろう質問をあえてしてきやがる。

 ちなみにここまでの戦績はビリはともかく1回戦目は白宮がトップで質問内容は「好きな食べ物は?」だ。なんとも優しい、俺は迷わず寿司と答えられたよ。

 問題は2回戦、トップは録だった。なにを質問してくるかと思ったら「あなたが選ぶ一番のデートスポットはどこですか?」というものだった。

 いやね、俺が彼女いない歴=年齢じゃなかったらまだいいよ? でもな! 俺はそもそも彼女が出来たことねえんだよ! しかも何がたち悪いって(こいつ)がそのことを知らないはずがないということ。

 そう、こいつはわざとこんな質問をしたのだ。俺が困るように。仕方なく俺は「アニ○イト」と答えた。その結果3人からはとことん爆笑された。本当に解せない。

 そしてそれに乗っかってしまったのが神宮(こいつ)と言うわけだ! だがな、俺だって男だ。ここで引き下がるわけには行かない、必ず次こそは勝って見せる。




 が、当然のように4回戦も負けてしまった。今度のトップは白宮だ。しかし質問の前に彼女は俺のことをくすくす笑い堪えながらアドバイスをくれた。


「あのね? 有野くんジョーカー持ってるとき顔に出まくってるから気を付けた方がいいよ」

「えっ、まじ?」

「しかもカード引くとき毎回右側しかとらないから……ぷふっ、そりゃ勝てないよ」

「そ、そうだったのか……」

「そういうこと。それじゃ質問にいくね」


 本気で落胆する俺に対し、神宮と録もくすくすと笑っている。どうやら本当らしい、こんなはずじゃなかったのに。

 しかし! 今回の質問者は白宮だ。きっと一回戦のように優しい質問に違いない、そうだよな!?

 というかなんでそんな含みのある笑いをしているんだ? おい、やめろ白宮、ばかよせ。


「有野くんって好きな人いる?」


 なんてこった。まさか乗る方向で来たのか白宮。録はよくやったと言わんばかりに笑っている。神宮は……あれなんか真剣な表情な気がするがどうなんだろう。

 ふっ、だが甘いな白宮。その答えは既に決まって──


「あっ、二次元の女の子は無しだからね?」

「こふっ!?」


 思わず吐血しそうな声をあげてしまった。白宮弥生、油断も隙もないやつだ。

 だがどうしたものか、この質問想像以上に難易度が高い。何故なら俺は今までそんなこと考えたこともなかったからだ。それこそずっと二次元の女の子に気持ちを注いできたからな……。

 いや? まてよ? そうか、そうだな。ちゃんといることはいるな。


「ああ、いるよ」

「誰なの!」「誰だよ!」「一体誰!」


 3人が一斉に俺に顔を近づける。なかなかいい反応してくれるじゃねえか。

 ちなみにこの答えはこの3人だ。我ながらいい案だと思った。白宮は俺に「恋愛的感情的に好きな人いる?」と質問するべきだったのだ。「好きな人いる?」だけでは他の意味で取ることもできる。

 だから俺の答えはこの3人、友達的な好きで許してもらおうと思う。えっ? 汚い? 普通恋愛的にとる? 俺、恋愛初心者だからそういうの分からないなあ。

 ……さてとそろそろ言ってやらないと怒られそうだし。


「それはな」

「「「ごくりっ」」」


 俺は右手を天に指し高らかに告げようとする。正に試合に負けて勝負に勝つとはこのことよ。残念だったなお前ら。

 さて、あとは答えを言う。答えを言うだけなのだ。一言お前らだよと。

 なのに口は開かず、あげた右手も動かず、そのまま後ろへと倒れてしまった。


 ──そう、俺はネタ晴らしをしないまま夢の中へ消え旅行一日目を終えるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ