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Chapter10

「それで、結局これからどうすればいいんだ?」


 あれから神宮宅で軽い治療を行ってもらい俺と白宮は帰宅した。と言ってもガーゼで巻いてもらった程度だが。にしても今でも右手の奥がじんじんと痛む。ったくあの勇者はこの痛みをよく耐えていたな。

 そしてとりあえず今日の出来事が多すぎたのでこうやって今は白宮とテーブルを囲って作戦会議をしている。お互いに頭の中を整理しておきたい。


「それよりも手、大丈夫? 有野くん」

「ああ、痛いのは確かだけど神宮の家で治療もしてもらったし我慢できる痛さだよ」


 今日の出来事をそれよりの一言で片づけてしまうのか、本当にお人好しなんだか優しいんだか。けどそれに甘えてばかりもいられない俺は本題へと切り込む。


「それで今日のことだけど、とりあえずいろいろ整理したい」

「うん、そうだね。なんだか波乱の一日だったからねえ」

「そうだな、じゃあまず……」


 こうして俺らは今分かっている範囲のことを互いに確認した。

 まず、向こうの世界からアルは俺に、ルシファーは白宮に、マリアは神宮の中にいること。そしてフィアーヌとロクもどこかにいること。そしてその人は必ず“あの夢”を見ていること。

 そして重要なのは……お互いの意志さえ合致すれば精神を入れ替えて体を操れること。これらが向こうの世界とのルールみたいなものだろう。

 ただ問題なのは目的だ、勇者一行は完全に巻き込まれただけで、ルシファーの目的はアルと付き合うことらしい。これまたどうして、と思ったのだが本人曰くそれだけは言えないとのことらしいからな。


「それで、私たちは結局なにをすればいいんだろうね? 適当にルーちゃんと代わって、アルさんとお話させてお付き合いさせればいいのかな?」

「そもそもあの勇者がルシファーのことを好きになるかねえ、あいつ向こうの世界では婚約者いたらしいし」

「それって」

「ああ、フィアーヌ姫のことだろう」


 というか言ってたんだけどな。でも話を聞いていた限りじゃ、特別好きってわけでもなさそうなんだよな。そうだったらそもそもあの時点で断っていただろうし。

 それで結局俺たちがなにをすればいいかだが……。


「なあ白宮。とりあえず神宮ともっと親睦を深めてみないか?」

「えー、そういうのって自然と仲良くなるものじゃないの?」

「確かにその通りではあるのだが、今日のマリアの挙動を見ただろう。とりあえず襲わないとは言っていたが、内心まだマリアもルシファーのことを警戒しているはずだ」


 今日はマリアの方も疲れたから引き下がってくれたが、また気が変わって襲ってくるかもしれない。もっともそれは神宮が阻止してくれるだろうが、また今日みたいに脳内喧嘩で体調を崩されるのも見てられない。


「んーそれと今の話、関係あるの?」

「ある、元々マリアが焦っていた原因覚えているか?」

「あっ」


 そうこれはアルが言っていたことだが見事的中していた。アルは「二人の友情が深まるのを恐れたんじゃないか」と。深まってしまうといざ魔王を倒した時に神宮に深い傷が出来てしまうからな。たぶんマリアも根は良い人なのだろう。でなきゃこんなこと理由にするはずがない。

 であれば今回はその根の良さを逆に利用したいと思う、申し訳ないけどな。


「今のうちに仲良くなるイベントでも起こせば、マリアも白宮をもう襲う気にならないと思わないか」

「確かにそうかも。でも具体的にはなにをするの?」

「そ、それは……」


 しまった。それについては全く考えていなかった。うーむどうしたものか。

 録と遊ぶときは大体ゲーセンかアニメグッズ専門ショップでグッズや情報を集めるぐらいだし、神宮と三人そろって遊ぶときはファーストフードやファミレスのドリンクバーで喋ってるだけだったしなあ。女の子同士ってなにして遊ぶのだろうか。ならば……。


「ショッピング、カラオケ、映画とかどうだ?」

「確かに定番だけど、それじゃあ本来の目的と合わなさそうだよね」

「うーん、それもそうか」


 確かに普通に遊ぶだけならこれでも全く問題はないのだろう。ただ今回は少なくとも思い出に残るようなことをしなければならない。どうしたもんかな、なにかヒントにならないかと俺はあたりを見渡す。当然そんなもの見つかるわけがない。このリビングにあるのなんて見慣れたものばかり、キッチン、テーブル、それを囲む椅子が四つ、椅子から見やすい位置にあるテレビ……。


「──あった」

「えっ?」

「これだよこれ! これなら……いけるぞ!」


 どうして今まで気付かなかったのか、つい先日始業式があったなら当然ひと月でこの時期がくるはずだ。であれば当然こういった普段できないことだってできるじゃないか。

 指さした場所にあったのは先ほどのテレビなのだが、俺が気になったのはテレビの内容だった。

 そこには女性リポーターが体にタオルを巻いて画面の向こうから話しかけている。そしてテレビの右上にはこう書いてあった。


 《一度は行っておきたい!GW直前、箱根の温泉旅館&ホテル特集》



 神宮は次の日から登校してくるようになった。そしてこのゴールデンウィークに突入するまでマリアが現れることはなかった。

 一方こちら側もアルとルシファーに例のことを話したところ、納得してくれたみたいでその“イベント”が終わるまではむやみに入れ替わりは行わないとのことだった。

 その間、神宮にイベントのことを話したところ快く承諾してくれた。もっとも概要には触れずこういったことをしたい。というところだけ。

 そしていよいよ迎えた大型連休。今年はまさかの水曜から5連休だったので、水曜から2泊3日で行くことになったらしい。としたかったのだが、行くことになった。

 最初は神宮と白宮だけで楽しんでもらう計画だったのだが白宮が「どうせ行くならみんなで行こうよ!」ということを言い出したので結局みんなで行くことになった。

 そんなこんなで迎えた当日……。


「眠い」

「おいおい、旅の始まり第一声がそれかよ翔」

「そりゃあ昨日荷物の支度したあと今期の録画したアニメ全部見てたからな」

「うわっ、確かに最近のお前三次元の方が忙しそうだったもんな」


 確かに録の言う通りだが、あんなことがあったからな。そう見えるのも仕方ないのかもしれない。

 昨日のアニメ鑑賞もいつも以上に疲れた。何故かというとアルも一緒に見てしまうからだ。昨日みたアニメはファンタジー系だったのだがそれが余計にまずかった。アニメの作画に対していちいち剣の振り方の解説や魔法についての解説をされた。普通であればとても興味惹かれる内容なのだが、最近はばたばたしてて疲労もほぼマックスに近い状態でアニメを見始めたせいでとても反応する気になれなかった。

 しかも俺が無反応でも、そんなの気にしないと言わんばかりにアルは向こうの世界のことやアニメに対する評価をしていた為、俺の疲労もついには振り切り一言だけ「お願いだから黙って見てくれ」と言ってしまった。その後アルがしゅんとしていたので少しだけ申し訳なくなり、気を使ったのが更に疲労を溜めてしまった。

 それでもなんとか2時間は寝れたのでなんとかなると思いたい。


 現在の場所は《桐谷駅》の改札前。俺たちが通う桐谷学園はそのままこの名前が由来となっているらしい。

 集合時間の10分前に俺と白宮が着いたころには、既に録がいたというわけだ。あとは神宮を待つのみだが。


「ごめんごめん! 遅れちゃった」

「大丈夫だよ舞ちゃん! 集合時間にはまだ5分も早いから」

「えっ、そうなの? よかったー」


 無事全員集まったみたいだな。さてどんな旅になるかな。

 大丈夫、思い出を作るための道具も用意してきた。きっと上手くいくはずだ。

 それでもってその後は……ルシファーのことだな。結局のところあいつの恋は応援したほうがいいのか。それとも何もしないのが吉なのかそれすらも分からない。

 でもこうやって一つずつ解決する方法を考えていけばいいはずだ、難しいことは今は置いといていい。

 今のこの問題が解決したら、また白宮とみんなで次の問題に挑めばいい。


「それじゃあ出発しますか!」

「おー!」「いえーい!」「よっしゃ!」

「お前ら統一性なさすぎるだろ……」


 こうして出発した俺たち、電車で1時間ちょっとすれば箱根につくはずだ。

 箱根について多く語る必要はないだろう。温泉と言えば箱根、箱根と言えば温泉と言われるぐらい有名なところだ。

 観光地としても旅行先としても有名で、温泉によって効能等が大きく違うのも特徴的だ。また景色も絶景で、春であれば桜、秋であれば一面の紅葉が見れたりするらしい。

 ただ今は5月、その代わりにと俺たちが選んだ宿は天気がいいと富士山が見えるところだ。まあ3日もあるし1回ぐらいは見れると信じたいところだ。天気予報も今日は曇りだが明日明後日は晴れる予報だった。


 電車で移動している途中、意識が朦朧(もうろう)とする中ふいに白宮が話しかけてきた。


「有野くん」

「うん? どうした白宮」

「私ね、こうやって友達同士で旅行とか行くのずっと憧れていたんだ。だからあの日有野くんが旅行のこと提案してくれた時、すごくドキッとした。なんか自然と顔が綻んでいたの」

「そ、そうか」

「うん、だから……ありがとね」


 白宮は俺に笑顔でお礼をしてきた。くそ、そんな顔でそんなこと言われたらこっちが別の意味でドキッとしちゃうじゃねえか。思わずさっきまでの眠気も覚めてしまう。

 結局そのまま神宮や録も交えて話をしているうちに目的地に到着してしまった。うーん、途中で寝落ちしたりしなきゃいいが。

 そこから歩くこと数分、俺たちはついに目的の宿に到着した。


「うわあ、大きいねー。ね! みんな!」

「すごいすごい! なんだか私、わくわくしてきた!」

「た、確かにこれは想像以上だな。録、これ俺たちが写真で見たときより大きくなってないか?」

「大きくなるわけないだろ、単純に写真だったから実物が大きく見えるだけだ。にしてもでかいなー」


 女性陣がはしゃぐ中、ただただ圧倒される男性陣だった。

 しかし驚いている場合ではない、俺たちにはちゃんと目的もある。録にも事情を軽く話し協力してもらうことにはなっている。もっともルシファーたちのことは話してないが。

 

 そしてついに《白宮をマリアに襲わせない作戦》が幕を開けるのだった。

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