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Chapter0

「ここが魔王の本拠地か」


 固く閉ざされている大きな扉を前に俺はそう呟く。


「ついにここまで来たのですね……アル」

「えぇ、姫。これが最後の戦いです」


 目の前の扉を見つめるといかにも強大なモノが潜んでいそうな黒いオーラが漂っている。


「みんな聞いてくれ、ここから先は魔王ルシファーとの戦いだ。

 恐らくこれが最後の戦いになる。今まで以上に辛い戦いになるだろうが

 それでも俺らは魔王を倒して世界を救わなくちゃいけない」


 扉を背に向け、俺は仲間たちに語りかける。


「はい王子。いえ勇者アル。私はあなたと共に最後まで戦います」

「ありがとうございます、姫。ここまで旅を共にしてくれたこと、姫には感謝してもしきれません。最後まで辛い思いをさせますが、よろしくお願いします」

「そんなことありません。あなたと過ごしたこの旅路、確かに辛いこともありましたが、決してそれだけではありませんでしたよ?仲間と助け合い、今日まで過ごした日々は何にも変えられない経験です」


「姫……」


「あの時、あなたに付いてきてよかった。だから見届けさせてください、そして一緒に戦わせてください。最後まで、あなたと共に」


「……ええ、もちろんです」


 彼女の名前はフィアーヌ姫。俺の自国……サンライル王国の姫である。

 俺の婚約者でもあるが危険を顧みず、今日まで魔王を倒すために今日まで共に歩んでくれたもっとも付き合いの長い同士でもある。

 ここまでの道のり、常に姫が一緒にいてくれた。辛いことがあっても、笑顔を絶やさずいつも俺に付いてきてくれたことを思い出し、思わず顔が緩んでしまう。


「顔が緩んでるわよ、勇者様?」

「う、うるさいぞ。聖女様」

「マリアでしょ?」

「マリア様」

「様付けられるの嫌いだっていつも言ってるのにそういうこと言うんだ?」

「最初にからかったのはお前だ。お互い様だろ?」

「ぐぬぬ、アルのくせに……」

「まったく、お前はいつまでたっても性格だけは成長しないな?」


 こいつの名前はマリア、職業はシスターだ。

 治癒魔法を得意としており、名前と職業と見た目だけなら完璧な聖女だが、如何せんこの性格ゆえ俺はこいつがシスターということを未だ信用しきっていない。


 しかしこんな性格でも、戦いになるとしっかり支援してくれたり、

 魔法で助けてくれたりと、頼りになることはこの長旅を得て俺も理解している。なんだかんだで頼りになる、それが目の前にいるマリアというシスターだ。


「まぁまぁ、王子その辺にしないと聖女様も可哀そうだって」

「おいロク、王子は恥ずかしいからやめてくれとあれほど」

「恥ずかしいのはどっちなんだか。姫様とあんなにイチャイチャしてたくせに」

「い、イチャイチャなんて俺は……!!」

「違うのか? 傍から見たらどう見ても愛のプロポーズと差異なかったぞ」


 こいつはロク、職業はナイトだ。

 とある王国を訪れた際に一緒に旅をすることになったのだが……そこは機会があれば話そうと思う。こいつとの関係を一言で表すなら戦友という言葉が一番しっくりくる。

 稽古にもよくついてもらうし、俺の剣の腕が上がったのも確実にこいつのおかげと言えるだろう。よくも悪くもこうして軽口を言い合える仲なので俺としては本当に貴重な友人でもある。


「でもまぁ、それはさておきだアル。そろそろ覚悟決めようぜ?」

「ああ、なにがあってもこれが最後の戦いだ。みんな……」


 俺は周りを見渡す。

 姫、マリア、ロクこいつらがいれば怖いものなんてない。あとはただ、進むだけ。


「…いくぞっ!!」







 扉を開き、まず目に入ったのは大きなレッドカーペット。上を見上げればシャンデリア。そして……レッドカーペットの奥には、玉座に鎮座する魔王。


「よくぞここまできた、勇者よ」

「ルシ……ファー!」


 瘴気のようなものがじわじわと伝わってくる。『こいつはヤバイ』と脳に直接語りかけてくるかのような威圧感を感じる。

 一般市民が見たらまず恐怖する部類だろう。だが……


「お前の思い通りになど……させない!!」

「思い通り……? ふふっ、あはははははは!!」


 何か変なことを言ったのか、ルシファーは笑い出した。


「なにがおかしい……! お前はこの世界を壊すつもりなんだろ!?」

「ええ、壊すわ……。そして“届ける”」

「とど……ける……?」


 創り直すとかじゃなく届けるだと?一体どういうことなんだ。


「わからないって顔をしているわね。いいわ、ならそこでじっとしていなさい。すぐに分かるから」

「そんなことできるわけないだろ! 何をしようとしているか知らないが、俺たちはお前をとめて世界を救う!」

「いくぞ! みんなっ!!」

「はいっ!」「任せて!」「おうよ!」


 俺たちは一斉にルシファーに向かって走り出す。

 最後の戦いが始まったのだ。


「くらいやがれっ!!」


 まずはロクが自分の身長の1.5倍はあるであろう大きな槍をルシファーに向かって突き出す。

 しかしまるで踊り子のようにスッとルシファーはその槍をかわす。


「甘いわ、あなた達の力ってその程度なの?」

「へっ、勘違いしてもらっちゃ困るぜ」


 その瞬間、ルシファーの半径5M以内の場所に4本の光の柱が地面から飛び出してくる。


「俺たちは4人なんだぜ?」

「そういう、こと!」


 マリアが繰り出した4本の柱から光線が内側に向かって放たれる。

 しかしルシファーはこの攻撃も瞬時に移動し避けていた。


「なかなかやるわね、でも……」

「まだ終わりません」


 姫の横には気付けば姫の身体のおおよそ10倍はあるであろう炎を纏った巨人がいた。

 これは姫の契約した精霊……イフリートだ。


「まさか、こんなヤツまでいたとはね」

「ルシファー! 覚悟してくださいっ!!」


 イフリートが拳を振りかざす、そこからルシファーに向かって炎が燃え始める。


「くっ!」


 寸前のところでまたしてもルシファーは跳んでかわす。

 しかし俺はその瞬間を待っていた、意識を剣に集中させる。

 すると剣は俺の気持ちに答えるかのように光りだした。


「終わりだルシファー! これが俺の……俺たちの絆だ!!!!」


 俺はルシファーに飛び掛かり剣を振りかざす。

 俺の……仲間達の……すべての思いをぶつけるように。


「……ごめんなさい」


 ルシファーが呟いた瞬間、俺の剣は無残にも砕けた。


 なにが起きたか理解するまで、俺は砕かれて柄だけになった剣を握りしめてその場に10秒ほど立ち尽くしていた。

 その間、仲間たちも立ち尽くしているのか静寂がこの魔王の城を包み込む。

 そしてその静寂を破ったのは、ルシファーだった。


「わかったでしょ……この世界での勇者は平和をもたらすことはできないの。だって、私の野望が変わってしまったから」

「ど、どういうことだ……?」


 なんとか声を絞り俺はルシファーに尋ねる。というかこいつは一体誰なんだ、本当にさっきまで世界を滅ぼそうと企んでいた魔王なのか?

 だって……俺の知っているルシファーは、こんな薄幸の少女のようなしゃべり方をするようなやつじゃ……。


「言ったでしょ? すぐに分かるって」

「だからどういう……!!」

「それじゃあ、また近いうちに会いましょう勇者、アル……」

「くっ!?」


 魔王がそう最後に言った瞬間、景色が光り魔王が白く包まれていった。

 なんだこれは、なにが……起きている……。

 仲間たちの姿も、徐々に消えていくのが見えた。


「な、なんだこれ! うわああああ!!」

「ロク!!」


 必死で叫んだが時すでに遅く、目の前でロクも消えていった。

 どうなってる、なにがどうなっているんだ!!


「待って! なによこれ! アル! アル助けて!!」

「マリア!!!!」


 今度は叫び、マリアに手を伸ばすが……その前にマリアは光に包まれた。

 ものの数秒で……二人の仲間を失った。


「はっ!」


 俺は最後の一人だけでもと思い、必死に彼女のいる場所を探す。

 見つけた! この距離なら……!


「ひめえええええええええ!!!」

「アルー!!」


 走った勢いのまま姫抱き締める。

 彼女だけは……彼女だけはあの光から守ってみせる。


「アル……私たちどうなってしまうの?」


 心配そうにこちらを見つめてくる。

 俺にも正直分からなかったが、今は彼女を安心させることだけを考える。


「大丈夫です……俺たちは絶対に離れ離れになったりしません」

「そう……ですよね。私たちの絆がある限り離れ離れになったりしませんよね。でもそれでも、私は怖いのです。アル」

「姫……」

「アルと離れてしまったら私はきっと絶望してしまう、だから……必ず私を見つけ出してください」

「ええ、もちろんです。たとえ離れても見つけ出して見せます」

「その言葉だけで……十分です」

「っ!! 姫!!」


 気付かなかった、もう光が姫の身体の下半分を包んでいることに。

 どうすればいい……どうすれば!!


「アル……」


「姫!! ひめぇー!!」


 俺は必死に手で光を払おうとするが、ただすり抜けるだけだった。

 なんで! どうして消えないんだ! どうしてっ……。


「さようならアル……また……どこかで」


 どうして笑顔なのですか、姫。

 そう尋ねようと最後にしようとしたが遅かった。姫もそのまま光に包まれてしまった。


「くそっ……くそぉ!!」


 情けない。魔王も倒せず、仲間も救えず、そして大切な人さえ守れなかった。

 悔しくて、悔しくて。

 しかしそんな悔しさや情けなさに同情なんてしないとばかりに、気付けば俺の足から光が包み込まれていた。


「ロク、マリア……姫、すみません……」


 俺はこの城にたった一人で取り残され、そして……

 そんな俺でさえも無慈悲に光は包みこむのだった。

今日から書き始めることに致しました!

至らぬ点も多々あると思いますが、宜しくお願い致します。

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