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目覚まし

作者: かたかな

 瞼の裏でにじむような淡い光の刺激で覚醒しかける。

まどろみながらも普段感じることのない自分の匂いと温もりを含んだ布団を頭から被っていることに気が付く。


 自分の体温であたたかくなった布団はとても居心地がよい。若干の匂いも自分の巣がそうであるように安心感をもたらしてくれる。母胎という幸せの地から追放されてから過酷な世界に向き合うことを強要され続ける人生の中でこんなにも安息に満ちる場所は他にあるのだろうか。


 布団を通しても若干感じる光の気配を感じるが体はまだ起きることに抵抗している。だってまだまだ眠い。ほらこんなに眠い。このまま目をつぶって深めの呼吸を繰り返せばそのままもう一度眠りにつけそうだ。叶うならこのまま永の眠りについてしまいーたーいー…。粉薬が水になじむようにすぅーっと意識が拡散していく。


「ジリリリリリリリリリリリリリリ!!」


 溶けていくはずだった意識を再度形が与えられる。気に障る金属音が脳に突き刺してきた目覚まし時計をお星さまにして差し上げたいほどに不快だが、この目覚まし君は昨日の私が課した使命を忠実に果たしてくれているのだからここで恨み言を言うのは理不尽にもほどがある。例え八つ当たりをしてやりたいと思い実行に移そうとしても小憎らしいことにこの幸せの巣から若干移動しないことには届かない場所に陣取っている。おのれ狙撃兵気取りか。いやいや彼は私をいつも通りに送り出すための任務に忠実なだけの謹厳実直な人柄なのだそもそもそこに配置したのも昨日の私だったはずだ。憎むべき昨日の自分に感謝と悪態を捧げつつ布団からえいやっと勢いよく飛び出して目覚まし君へチョップチョップ。え?一回でいいハズだろう?うるさいなそういう気分なんだ。一回だけが美徳とされるのはハイだけだ。


「リリリリン………   」


 静寂の奪還に成功すると今度は寒さが身に染みこんでくる。なんてことだ二重のブービートラップか。いや軽くもおよしてくるものを加味すると三重か。当然私にはこんなものを準備した覚えはないから即ちこれは世界からの拒絶であろう。まさに悲しみとは大群で押し寄せてくるものであるかそれなればかくあれかしと意気をご覧にいれたいのだがまた意識が拡散しそうだ。ああ、あそこにぬくいけはいがする。きっとあそこだけがわたしのいばしょだそうにちがいない。もそもそと転身していく。


 温かさを逃がさないように体を丸めると幸せまで抱きしめたような気分になる。温められた体と共に安心を得て意識も粘性を減じてそのまま拡散していく。約束された安住の地はここにあった。


「ジリリリリリリリリリリリリリリ!!」


・・・ところでスヌーズとは素晴らしい機能だと思う。

スヌーズの性質を鑑みるに人間の怠惰さを寛容しつつも救いの手を差し伸べるがごとくとはなんたる慈悲の御手か。今日という日をつつがなく過ごすための一歩をそっと押してくださる。重要なことだから2度ずつ起きるのか?まるで郵便配達が鳴らすベルのようだ。こういう継続的な作業を得意とするのは女性だということだからこれもきっと女神さまの御手に違いない。女神様の指が脳に突っ込まれているとか想像するとなかなか倒錯的だな。今日もご褒美ありがとうございます。


「リリリリリリリリリリリリリリ!」


とまれスヌーズを開発したものに災いあれ。




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