4.創造神の日常
_ミーハウ・ケル。創造神、彼女は何のために地球の上に馬鹿でかい要塞、天領域を作り上げたのか、今、ワタクシ、この宇佐美が解き明かして見せよう!(キリ
決まった…!
「鏡に心惹かれるなんてまだまだお子様ですねぇ。」
いつも背後から愛すべき憎たらしい天使は声をかける。
「べ、別に鏡見るくらいいいだろ!あまりこの身体になれてないんだからよ。」
鏡に映る姿は従来の勇ましい(自称)俺の姿ではなく、白銀に輝く長い髪、誰もが目を奪われるような整った輪郭に大きな蒼い眼と鮮やかな鮮血を思わせる唇、そしてどこをどう見ても幼く見える身長とほんの少し膨らむ胸。女の子だと意識するには少し幼いためか、あまりやましいことをしようという気にはならない。
「ははーん…。さては、見とれてますね?自分に。」
シーナはにやけながら横腹を人差し指でつんつんつついてくる。
「見とれてなんかないわっ!それより探索の続きだ!行くぞ!」
俺らはロビーに飛び、そこから各部屋を回っていたのだが、廊下に置いてあった鏡に映る姿に驚いてしまったのだ。こんな間近で自分の変わり果てた姿をみりゃ驚く人はいないでしょうに。
俺はシーナについていく。トイレ、風呂、物置、寝室らしき部屋。生活するには困らなそうだと思わせる施設ばかりだ。寝室は個別ではないのだろうか。そこが一番の心配だ。
「あら、仲良くデートかしら。」
背後から声がする。もう後ろから声をかけるのはやめてくれ。いちいち驚くことに疲れる。
「ラブラブデート中ですよぉ~!!」
雄たけびを上げるように冷やかしに喜びながら振り向くシーナ。その姿はまさに、獲物を眼中にとらえた肉食獣のような様子だった。
「誰だよ…。それに俺はデートなどしてないし、案内してもらっているだけだ。」
仕方なく後ろを向いてあげると、紫色のロングストレートに目を疑うようなナイスバディ、そして膨らむお胸のおかげで目のやり場を失ってしまいそうになってしまう。目線を上にあげるとふつくしい…。と言わんばかりのお姉さんと目が合った。
「私の名はニネ。改めてよろしくね。」
聞いたことがない。何の神なんだ。
「何かを司るのが神って訳じゃないでしょう?」
思ったことを口に出したわけではないのに反応が返ってきた。まさか心が読めるのか?彼女は俺の顔をじとりと舐め回すように見ている。そんなまさかだ。はは。本当にこの世にそんなエスパーが存在するわけない。たとえ神であったとしてもそれは許されない上(自分自身では)、誰からも反感を買うはずだ。故に、ニネが心を読める神ではない可能性が高いだろう。そもそも認めたくない。
「何があなたをそんな難しい顔にさせているのかしら。ふふ。私がまさか心を読める超能力者なのかと疑っているのかしらね。」
彼女は俺の反応を楽しむようにどんどん心理的に俺を追い込んでいく。
「みーちゃんをいじめるのはやめてください!流石に天使でも主を傷つけるものは誰であろうと許しませんよっ!」
シーナが眉を吊り上げ頬を膨らませている。緩い印象を持ったせいかあまり怒っている事の迫力が感じられない。
「んもぉ、からかっているだけじゃないの。宇佐美、いい?私は他人の心を読むことができるのよ。」
ニネは最後の言葉をかなり強く推してきた。俺は心を読むことなどできないと信じぬいてやるさ。しかしなぜ俺を宇佐美と呼んだのか。シーナにみーちゃんと呼ばれ続けているせいもあるかもしれないが、ニネが俺を宇佐美と呼ぶことが気がかりだ。
「いい加減にしてください!!私本当に怒りますよ!!いいんですか!」
シーナの怒号が激しくなる。何に対して怒ったんだよ今…。
「…わかったわ。また今度機会がある時にゆっくりお話しましょ。天使さんも、ね?」
ニネはそういうと、俺らの進行方向とは反対のほうへ向かっていった。いったい何だったのだろうか。何の目的で俺をからかったりしたのだろう。
「ここがキッチンですっ!」
シーナが勢いよくドアを開ける。よくあるデザインのキッチンだ。流し台とか。
「なんか、俺の知ってるキッチンでよかった。」
しかし炊飯ジャーが見当たらない。俺はあのソフトな丸い機械の置かれた風景が焼き付いているのだ。椅子とテーブルが数個設置されており、その辺のいすに俺は腰を掛ける。
「炊飯ジャーはないのか?」
あまりにも俺の世界のキッチンと酷使しているためうっかり口に出してしまった。意外と自分は天然なところがあるのかもしれない。ウケるかな、このステータス。
「炊飯ジャーって何です?」
シーナは首をかしげる。
「お米を炊く家電だよ。お米を研いて水と一緒に入れてフタを閉める。あとはらくらくスタートボタンを押すだけ!」
つい気分が高揚してしまった。家電男なのだ。もう男ではないが。シーナはずっとこちらを見つめ、
「そのみーちゃんが抱いてる奴ですか?なんだか大きいたまごみたいですねっ。」
と、一言いう。俺は何も持ってなど…。モッテター!
「勝手に炊飯ジャーが現れたんだが!怖いんだが!炊飯ジャーの呪いおそるべし。」
とっさにテーブルの下に隠れる。頭隠して尻隠さずってやつか。天領域の雰囲気にも慣れてきたおかげか、ボケをかますことが幾分楽しい。
「みーちゃんがこの世に存在すると認定したものは、概念、能力、物体、絡繰り、そのたもろもろなんでも創れますよ!」
この天使、自分で何を話しているかわかっているのかね。、もしそれが事実ならば俺は誰もが恐れる絶対神にだってなれてしまう。
「それ、マジ?」
あまりにも衝撃的な事実で目の前で起こった炊飯ジャー事件を疑ってしまう。
「マジですっ!」
マジかよ。
「そろそろ夕暮れですので、何か料理をもてなしましょうかっ。」
うきうきとエプロンを付けながらシーナは笑顔で尋ねる。まるで、俺の親か恋人のようなポジションに見え、照れてしまい答えるのにためらってしまった。
「つ、作れる…ならお願い…します。」
なにか心理にトラブルが生じると敬語になってしまう癖を直したい。日々、そう思っております。
「じゃあ、今日はみーちゃんの大好きなオムライスにしよっかー。」
いや、俺みーちゃんじゃないし。何かおかしい。
「もしかして、俺の好物とかそういうプライバシーもろもろながれてるのか?」
俺は、今とても心臓を震わせている。嫌な予感が胸騒ぎを奮い立たせているからだ。
「はいぃ!みーちゃんのなにからなにまで知ってますよ!」
シーナが狂気を持っているのではと思ったが、自分の好物がオムライスという事実が概念として漏洩しているということに気づく。俺を崇める人々が石壁にオムライスをささげる姿を書き込んでいる描写を思い浮かべるとシュールで笑みを浮かべてしまう。
「早速この炊飯ジャーを使わせていただきますねっ!」
シーナはそういうとまるで、料理をすることになれたような手つきで支度を始めた。俺はニネのことについてもう少し頭を振り絞ってみることにする。
_俺にニネが心を読める存在だと思わせるような発言をした。そして、俺を宇佐美と呼んだ。俺を利用して心を読めるようになったとしてそれを何に使うというのか。
「やぁやぁ。美味しいにおいに誘われて、ついここまで足を運ばせてしまったよ。ふわわぁ…やっぱり寝起きは眠いや。」
扉から目をこすりながらその少女は入ってくる。金髪の寝ぐせでぼさぼさにした髪に、丸顔に眠いのかとろりとした目つき、そして今の俺とあまり身長が変わらない女の子だ。
「君もいたのか。みーさん。」
眠たげな目線をこちらに向ける。
「私の名はセレーネ。月の女神だ。どうぞよろしゅう。」
「よ、よろしく。」
挨拶をするとセレーネは俺の隣に座り、
「天子さん今日は何作ってるのー?」
と、シーナに声をかけた。シーナはまさか毎日全員分の食事を作っているのか。
「今日は、ミーちゃんの大好きなオムライスです!」
シーナからフライパンをゆする後姿からでもよく聞こえる大きな声がした。キッチンがケチャップで玉ねぎと米を炒める香ばしいにおいと音で満たされる。
「いつもシーナが皆のために料理を作っているのか?」
「そうですよっ。」
それはすごい。人のために行動できることは尊敬する。
「シーナでも人のために役に立てることはあるんだな。」
「でもって何ですかっ!余計ですよその言葉!」
シーナは怒っているような口調をしつつも褒められてどこか嬉しそうだった。
「君らを見ているとまるで仲の良い兄弟を見ているようで微笑ましいよ。」
セレーネはニコニコしながら俺らの事を見て楽しんでいるようだった。
「出来ました!」
どうやら完成したらしくシーナは俺とセレーネの分を運んできた。
「運ぶところまで任せちゃって悪いな。」
そういうと、
「いえいえ!私はあなたに尽くすためにいるので!」
と、シーナはいう。簡単にそんなことを口にするが、他人のために自分の時間をたくさん削って彼女はその生き方に満足しているのだろうか。宇佐美として生きてきた俺はそんな簡単に人のために自分の時間を削ってやるぜ!なんて事は極力しなかった。
「ふむ。新・みーさんはよくフリーズすることがあるのな。冷めないうちに食べようではないか。」
ぽんぽんと俺の肩をたたきながら、セレーネはだらだらとよだれを眠そうな鈍い表情のまま垂れ流している。何とも言えない光景で、どう反応すべきかわからなかった。
「新ってなんだよ。食べるよ。」
シーナが丁度、シーナの分も持ってきたので食べよう。
『いただきます。』
全員で声を合わせ食事のあいさつをする。気づいたのだが俺の記憶から改変されたか元々からかわからないが、挨拶や普段の過ごし方が日本の文化とあまり変わらないようだ。
シーナは挨拶を終えるといきなり包丁を取り出した。
「うおっ。何をするのかねぃ…天使殿。」
セレーネはどこから取り出したかもわからない包丁を見て驚いている。俺も正直言ってとても驚いてしまった。シーナは包丁を素早く振り下ろした。怖くて顔を手で隠してしまった。
「おおー!素晴らしいぞ天使君!私は君に恋をしてしまいそうだ。」
セレーネの黄色い歓声がする。
「さぁ、召し上がってくださいっ。」
えっ。
おそるおそる手を顔から離すと、目の前には包丁によって割られた半熟で今にもとろけだしそうなオムライスがあった。これをかけてくださいと言わんばかりに目の前にデミグラスソースやケチャップなどの調味料がおかれている。はっきり言って、シーナは料理の天才かもしれない。今まで家で食べてきたオムライスなんて卵でチキンライスをオブラートのように包んだだけの貧相なものしか食べてこなかった。そんな俺にとってここまで豪華なものを作るシーナは神様と崇めてもよいと思ってしまう。デミグラスソースをかけて一口いただく。
「うほぉぉ。なんだこれは、口の中で卵の甘さが広がってその奥からやってくるチキンライスがなんともいえないまっちんぐ…。」
お隣に座るセレーネさんがうまく俺の心境を語ってくれました。
『ごちそうさまでした。』
手を合わせ、挨拶をする。食器を皆で片づけた。人と一緒に食事の時間を過ごすのは久しぶりだった。俺にとってこの時間がとても楽しかった。
「そんじゃ私はアマテラスと職場交代せねばいけませんのでー。」
そういうとセレーネは、キッチンから出て行った。月の女神は夜勤なのか。
「みーちゃんはこの後どうするんですか?」
シーナは聞く。
「実は、結構寝てた時の寝汗が酷かったからお風呂にでも入ろうかな。」
「浴場の場所はわかりますよね?私は他の方の分の食事も準備しなくてはいけないので、ついていけませんが、どうか死なないことを祈ります…。」
シーナはついていけないことがとても惜しく思っているようで、拳を強く握りしめて悲しんでいる。
「風呂くらい一人で入れるわ!風呂に入るくらいで死ぬわけないって!」
死亡フラグを立ててしまった。
「あと、オムライスおいしかったよ。」
そういうと、シーナは目を輝かせ嬉しそうに何かを言おうとしていたため、被害にあう前に俺はキッチンを後にした。
廊下を進み浴場へと入る。…。男女分かれているではないか!分かれていて当然だろ!自問自答を終えおそるおそる女湯と書かれたほうヘ進む。どうか誰もいませんように…!誰もいなかった。よし。
_着替えどうりゃいいんだ。シーナに聞きに行こう。振り返ったとたん爆音と共に胸元を剛速に何かが駆け抜けていった。
「もうすこしだったのにぃ。なんで振り返っちゃうのかしら。」
背後にはニネがいた。右手に拳銃のようなものを持って。
「お前、なんでそんなものを持っているんだよ…?」
俺はあまりにも急な展開でのんきな質問をするまでしか頭が回転しなかった。
「あなたを消すためよ。ふふ。」
あまりにもストレートすぎる回答で俺には考える猶予が与えられなかった。そしてニネは拳銃の銃口を俺の頭に向け、引き金に指を添えた。
リアルが多忙です。