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超次元的異世界ブリンカー   作者: トラック
森の中で
2/6

第一話 始まりは

 










青年――向井送は自分が地面に横たわっていることに気付いた。

 そこは熱せられた鉄板のようなアスファルトの上ではなく、生い茂る草の上。


「俺は、死んだのか?」


 口をついて出たのはそんな言葉だった。

 送は自分の記憶が確かならば、自分は坂道を転げ落ちた後、トラックに押しつぶされたはずだったと思い出す。

 ぶつかる瞬間に目を瞑っていたことと、トラックに潰されるような痛みを感じなかったことから、自分は奇跡的に助かったのだろうか、と考えて。


「ないな」


 苦笑しながら起き上がる。

 起き上がってから気付いたが、送の体に傷は見られなかった。

 服も自分が最後に着ていた白い半袖のTシャツに紺の半ズボンのまま。

 お気に入りの茶色のスニーカーも以前彼の足と共に健在だ。

 ポケットの中に入っていた財布やスマートフォンはなくなっていたが、服全般は無事である。


 流石におかしい、と送は思った。

 あれだけの惨事に巻き込まれていて、この状態は異常である。


――やはり自分はすでに死んでいて、ここは死後の世界なのでは?


 そう考えて、背中に冷たい汗が流れる。

 特にやりたいことがあったわけでも、心残りがあったわけでない。

 彼女も友達も家族、どれに対しても彼は強い興味を持てなかった。

 一人でいることも、誰かといることもどちらも苦ではない。

 だからといって、楽しかったわけでもなかった。


 悪いやつではないけれど、別に面白いやつでもない。

 言い換えれば、いてもいなくても変わらない人間。

 それが周りの人間の自分に対する評価だと送は考えている。


 だからといって。


 向井送はそんな簡単に死んだということを認められるほど壊れてはいなかった。


「体は動く。声も出る。目も見える。音も聞こえる。匂いもわかる。味は……」


 体操をするようにその場で飛んだり屈伸をしたりなどして、とりあえず自分の体は外見中身ともに正常だと確認した。

 触覚、視覚、聴覚、嗅覚の無事も確認。

 味覚を確かめるためにそこらへんの草でも食べてみようか、と考えた。


「――あれ?」


 草を一本引き抜いてやろうかと思ってあたりを見渡せば、まず目についたのは鬱蒼と生い茂る木々。

 ちょうど目が覚めた時の、自分の背中側に広がっているのは薄暗い森林。


 今立っているあたりには精々くるぶしあたりまでの背丈の草がほとんどだが、森林地帯のほうには送の背丈を遥かに超えた木や、腰のあたりまでありそうな茂みが光を遮り、まるで先の見えない暗黒地帯を作り出している。


 明らかに危険だとわかる。

 送も絶対に行きたくないと思った。


 その森林地帯の対角線上に広がるのはくるぶしまでの草木が覆う草原。

 見通しが良く、所々に木々が見える。

 しかし。


「ここ、どこだ?」


 人の営みがあるような場所が送には感じられない。

 もちろんこんな場所に見覚えなどない。

 道路も、家も、人もいない。

 あるのは草と木と土。

 そして、自分。

 食料も水ももちろんない。


 もし仮に。

 奇跡的に自分が今生きていたとしても。

 このままだと訪れる未来は確定しているのではないだろうか。


「おーーーーーーい、だれかいませんか!!」


 とりあえず大きな声を出してみるのは、おそらく送と同じ状況になった人間がとる行動としてはありふれたものだろう。

 しかし。

 それがもたらす未来は。

 決してありふれてなどいないということを向井送は知らなかった。











 それは、逃げていた。

 なるべく木を避けながら、邪魔な草は力任せに引きちぎり、地面に露出した根を蹴り飛ばし。

 後ろを振り返ることなく。

 自慢の四本足で大地を踏みしめ、前へ一心不乱に進む。


 先ほどまで暗かった木々の向こうに少しづつ明かりが見えてくる。

 それは本能的に森の外へ出ること拒否し、足を止めようとした。

 しかし、自分を追ってくる存在、森の外への忌避感を天秤にかけ。

 それはいっそう足に込める力を大きくした。


「お……い、だ……か……か」


 かすかに、森の向こうから何かが聞こえた気がしたが、恐怖に追われるそれにとっては些細なことだった。











2016/9/23始まりと終わりを少し開けました。

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