プロローグ
最初に感じたのはとてつもない衝撃だった。
次に感じたのはまるで、空を飛んでいるような感覚。
もう一度衝撃。
そして、世界が回転する。
「――」
かすかに声が聞こえる。
ようやく、彼は認識した。
「事故ったのか」
口に出したつもりだったが、声にならない。
大学からの帰り道だった。
自転車で急こう配の坂道を汗を垂らしながら登り切り、そこから風をきって進むのが好きだった。
いつものように下り坂を自転車で走っていたら、突然。
目の前に少女が現れた。
彼は車道の左側を通行していた。
左側は工事現場を覆う壁。
右側は車道。
どこからあの少女は出てきたのだろうか?
まるで、突然俺の目の前に瞬間移動してきたように見えた。
避けようとして、ハンドル右に切った。
結果、少女にはぎりぎりぶつからずに済んだが、彼は今坂道を転げ落ちている。
ようやく体の回転が止まった。
今は太陽に熱せられたアスファルトの上に仰向けに寝っ転がっている。
身を焼くような熱が、自分はまだ生きているのだということを強く認識させた。
酒に酔った時のようにぐにゃぐにゃと揺れる視界が、坂道を下ってくる大きな車を確認した。
黒板を爪でひっかいたときのような、甲高い耳障りな音が響く。
運転席の男の頬は引きつり、目を見開き、口は大きく開いて何かを叫んでいるようだった。
「くそ、止まれッ――!!!!」
最後に彼――向井送は。
手元にあった何かを強く握りしめ。
目を瞑った。
直後。
まるで爆弾が爆発したような音が響き渡った。