異世界転移は突然に!
「ハァッ!」
上段から振り下ろした剣は、何の抵抗もなく敵を切り裂く。
間髪入れずに、右手から襲いかかってくる敵に対して、すくい上げるように切り上げ相手を両断する。
「チッ!数が多い!」
いくら切っても湧いて出てくる敵に苛立ちを覚えながらも、冷静に周りを見渡す。
周りには数え切れぬ程の敵に囲まれ、傍目から見たらどう考えても劣勢、それどころかこの先に待つのは死だけだと誰もが思うだろう。
しかし・・・
「アキラ!もういいわよ!」
「こっちも大丈夫です!」
「お膳だてはしたわ!後は頼むわよ!」
これ以外にも、色々な所から多くの愛する嫁たちの声が聞こえてくる。
「任せろ!」
声を張り上げ、みんなに声を返す。
俺には隣に立つ心強く、可愛い嫁たちがいる。
それに・・・
俺には魔法がある!
「我が願うは煉獄の炎!」
俺が持つ中で最強の炎系魔法!
「燃え尽きろ!ムスプル・・・」
~~~~~~~~~~~~~~~~
カッカッカッカッ・・・
「この文章の読み方としては・・・」
一定のリズムで黒板に刻まれる英文とまだ若さを残した張りのある声が教室に響く。
周りにすこし耳を傾ければ、ノートにシャーペンで書き込む、カリカリという音が聞こえる。
窓から外を見ると、秋らしく赤く色づいた葉は冬が近づいていることを示すような冷たい風が散らしている。
はぁ・・・、異世界行けねぇかなぁ
高校三年の秋、冬が近づき寒さもます今日。
受験までもう間もないという事もあって、進学校であるうちの高校はラストスパートをかけるべく、生徒も先生もいつも以上に授業に熱が入っている。
そんな中、成績が下から数えると数秒で名前が見つかる程の落ちこぼれの俺は、周りの熱気には付いていけず、ぼーっと今ハマっているWeb小説によくある設定の、異世界に自分が迷い込んで無双するという妄想の最中である。
異世界行って、チートで無双して、美少女ハーレム作りてぇなぁ
自分でもそれが創作であって、現実に起こるはずがないとは思っていても、勉強をしなければいけないというストレスから逃げるために、最近は勉強もせず、ずっとWeb小説を漁っている。
自分で言うのも何だが、なかなかレベルの高い学校に通っていると思ってる。
そうするとやはりいつもはふざけているようなやつも、何だかんだ勉強し始める。
そう考えるとやはり自分は根がクズなのか、この空気は合わない。
いつまでも、どうにかなるという根拠のない自信に縋って勉強もせず、遊んでいて、周りからバカにされることが多々ある。
まぁ、だからといってクラスに馴染めないということもなく、どちらかというとクラス内カーストは高い方だとは思っているけども。
まぁ、そんなことはどうでも良く、今はとっとと退屈な授業を終わらせて、Web小説を読み漁りたい。
というかもう、ほんと何でもいいから異世界行きたい・・・
異世界転移じゃなくても、異世界転生とか、もしくはクラス転移でも・・・
そう俺が考えた瞬間、突然、教室の床が赤く輝き出した。
そうそう、こんなふうに床が魔法陣になって転移するのがクラス転移のお約束・・・・・・って、えぇぇ!!!
クラス中が騒然とし、誰もが惚けている間に、その輝きは強さを増していく。
「っ!みんな教室から出・・・」
先生が出した指示を全て聞き終える前に俺、松岡章の意識は飛んだ。
そしてここから、俺のちょっと変わった異世界転移物語が始まる!