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愛を求め鳥は泣く  作者: よろず
本編
11/50

十一. 柔らかな檻5

 王様とカーラットさんは無理矢理連れて来た事を悪かったと思ったらしく、なんだかとっても優しかった。本当に私と話をしたかっただけみたい。でも申し訳ない事に、私には話したい事なんてない。

 私はにこにこ笑ってお酒とツマミを楽しむ。ティグルはまた、私のシャツの中に隠れて眠ってしまっていた。


「チカはグレアムとはどこで出会ったの?」

「森の中です」

「どうして森の中に入れたの?」

「迷いました」

「お嬢さん、どうやって迷い込んだんだ?」

「質問の意味がわかりません」


 カーラットさんが言うには、あの森にもグレアムさんの結界が張られていたらしい。何も知らない人間は、森に入る事すら出来ないようになっている。だから私が迷い込むなんておかしいんだって。

 とりあえず、誤魔化す為に無言でにこっと笑っておいた。


「チカ。君の家族は?」


 聞かれたくない事だったから、私は悲しげに目を伏せ声を震わせる。


「……話したく、ありません」


 なんだか気まずい空気が流れた。それで良し。涙が滲んだ振りで鼻を啜っておく。


「あいつさ、元々人と関わるのは苦手だったんだけど、すげぇ才能なんか持ってたもんで周りがうるさくてよ。それを煩わしがって森に引っ込んじまったんだよ。なのに久しぶりに会ったらお嬢さんが一緒に住んでて驚いた」


 カーラットさんが優しい瞳で酒を飲む。王様も、優しい苦笑を浮かべている。


「ずっと一人で構わないとか言っていたから心配してたんだ。でもカーラットからチカの話を聞いて、会いたいと何度言ってもグレアムが会わせてくれないからさ。カーラットに攫って来させちゃった」


 てへって可愛く笑っているけど、王様っていくつなんだろう。本当に年齢不詳。


「……私は、なんの力もない人間です。拾って頂いて、教わる事ばかりです。彼の側に置いて頂けるだけで幸せなんです」


 思わず本音が零れた。だって、王様もカーラットさんも、本気でグレアムさんを心配してるんだって気持ちが伝わって来た。だからこそ、賢者なんて呼ばれる彼の側にぽっと現れた私がどんな人間なのかが気になったんだと思う。多分、私がどこかの間者だったりしないかとかも疑われてる。下手したら殺されるのかな。にこにこしている王様の瞳も、にこやかなカーラットさんの瞳も、私から何かを探ろうとしている。私が何かを隠しているのなんて、きっとバレバレだ。だけどこの隠している事が、グレアムさんの不利になる事の可能性もあるから私は隠し通す。拷問されたって言うもんか。

 美味しいのにいくら飲んでも酔えない酒を煽って私はこっそり溜息を吐く。

 したくもない他人との会話。よくわからない腹の探り合い。とっても疲れる。いつになったら終わるんだろう。……私が、隠してる事を素直に話したら終わるんだろうな。それならずっと終わらない。


「今日はずっと部屋の掃除をしていて埃塗れなんです。グレアムさんに会う前に汚れを落としたい。お風呂、入りたい…………」


 ずっと、体が気持ち悪くてたまらないの。お風呂入らせて、帰らせてって気持ちを込めて呟いたら、王様が気が付かなくてごめんって謝ってくれた。だけどカーラットさんは眉間に皺を寄せた。


「ちょっと待て。部屋の掃除って寝室の方か? アイシャが整えておいたはずだろう?」

「寝室は綺麗でした。でも仕事部屋の方は酷い有り様でしたよ」


 落ち人だとかは関係ない話だし、大丈夫だろうと思って私は愚痴を零した。森の家の仕事部屋よりも酷かった。カビも、キノコみたいな物も生えていた。室内なのに。


「仕事部屋、チカが勝手に掃除してるの?」

「いいえ。グレアムさんに頼まれました」


 二人は目をまん丸にしてとっても驚いている。なんだろう、まずい事を言ったのかな。


「お嬢さんって本当にグレアムの弟子なのか?」

「弟子じゃなかったらなんなのでしょう?」

「ごめんね。色仕掛けでグレアムの財産とかを狙ってる悪女なのかもって心配してた」


 王様、おバカですか。


「私に色仕掛けは無理です」


 思わず笑ってしまった。

 色気なんて私には無縁の言葉だ。欲しいと思った事もない。


「それよりお風呂に入りたくて限界です。もう良いですか?」


 王様とカーラットさんが何か言いたげな呆れたような表情で私を見ていたけれど、それを無視して私は再度帰らせろと主張した。


 *


 何故だろう……お風呂に入りたいとは言ったけれど、私はグレアムさんの部屋に帰って入りたかったんだ。決して王様の部屋の風呂を貸して欲しいとは頼んでいない。

 やんわり強制的に、私は王様の部屋の浴室に押し込まれた。流石王様。風呂場が広い。銭湯みたいだ。良い香りの花まで浮いちゃってるよ。着替えも用意しておくね、とか語尾にハートが付いていそうな感じで言われたけれど、至れり尽くせりが怖い。


「ティグル、お城って怖いね」


 一人は怖いからティグルも連れて来た。泡だらけにして洗って、今は一緒に湯船に浸かっている。ティグルはなんだか寛いでいて気持ち良さそうだ。呑気で可愛いな。癒される。


「お風呂から出たら今度は何が待ってると思う? もう疲れた……」


 出たくないけれど、いつまでもぐずぐず浸かっていたら逆上せてしまう。大きな溜息と共に風呂から上がり、柔らかなタオルで体を拭く。このタオルも最高だ。流石王様。

 置かれていた着替えを広げてみて、私の顔は引きつった。露出が激しい訳ではない。透けている訳でもない。とっても可愛いし色気もあるネグリジェがそこにあった。淡いサーモンピンクなのが、なんだかエロい。王様の趣味かな。周りを見回してみたら埃だらけの私の服はなくなっている。グレアムさんがくれた物だから返して欲しい。他に身に付ける物もなく、渋々私はネグリジェを頭から被った。置いてあったガウンで体を隠す。こんな服を用意されると、変な意味で身の危険を感じる。のんびりだらだら髪を乾かして、丁寧に梳かして、複雑に編み込んでみた。小さな抵抗の引き伸ばし工作をしたけれど遂にやる事がなくなってしまい、私は嫌々部屋へ戻る扉を開ける。


「チカ!」


 そこにはグレアムさんが待ち構えていて、駆け寄って来た彼の腕で私は力一杯抱き締められた。

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