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目を開けたら異世界でした  作者: 銀月


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8.状況を打破するための一歩

 皇都エルスターは皇帝陛下のおわす皇城のある、この国の中心都市だ。


 北側のひときわ小高くなった場所に城があり、そこから南に下るにつれて、貴族や身分の高い人たちが住む、いわゆる“山の手”区画、その次が一般住宅街の区画、そして一番外側の城門に近い区画が市場だの職人街だのが雑多にあるなんでもありの区画になっている。“山の手”には、一定以上の身分とか身元保証とかがないと入れないうえ、内門を通る時のチェックも厳しいのだそうだ。逆に、城門の外側には非公式だけどスラム街に近いものができていて、非常に治安が悪い。

 南北の距離は、一番外側の城門から皇城前の広場まで歩いて2時間程度かかるというから、だいたい7~8kmといったところか。東西はその約半分ほどだ。東西南に皇都へ入るための門があり、そこでは名前を書く程度の簡単なチェックだけを行っている。

 また、“山の手”の区画に騎士団の本部やら魔術師団の本部やらがあり、真ん中の区画に騎士学校やら魔法学院やらがあるのだそうだ。


 そして傭兵組合があるのは一番外側の区画だ。

 初めて訪れた皇都の城門で剣に“平時の結び目”を作らされた後、衛兵に傭兵組合の場所だけを教えてもらい、私は皇都の中へと入った。

 ちなみに、“平時の結び目”とは、短剣よりも大きな武器を革紐で鞘やカバーと結びつけて、すぐに抜刀できないようにするものだ。皇都を出る時これが切れていると、中で抜刀したと看做されて、とんでもない罰金や労役などを科せられることになるのだという。


 傭兵組合は、ゲームやラノベでよく出てくるギルドに近いものだと思う。組合に所属すると、報酬から一定の割合で会費を取られるけれど、組合の保証する相手と契約ができるし、どちらかに契約違反や揉め事があった時の仲介もしてくれる。雇用者も被雇用者もお互いに変な相手と契約してしまう危険が減るのだ。

 そのかわり、故意に契約違反をしたときの罰則や制裁は、下手な町の法律や刑罰よりも厳しいものになっている。


「最低でも、冬までの仕事がしたいんだ。中位くらいの魔法も使えるから、剣士じゃなくて魔法使いの仕事でもいい」

 組合の窓口で仕事の斡旋を頼みながら、ここに集まっている傭兵たちの様子をちらりと見てみた。

 傭兵をやってるような人間は、やはり圧倒的にいかつい男性が多い。まさに荒くれ者という印象の人間ばかりだ。

 稀に魔法使いがいて、魔法剣士はさらに少ない。人間以外の種族もわりと多く見る。傭兵をやるようになって、獣人という種族もちらほらと目にするようになった。これまた、ゲームでよく見た、擬人化されて顔立ちは人間に近くなった二足歩行の動物というのが、獣人の外見的な特徴だと思う。

 皇都も例に漏れず、他の種族は多いようだ。


 ぼんやり考えている間に係の人間がいくつか仕事を持ってきてくれたので、それらの説明を聞くと、その中にひとつ、気を惹くものがあった。

「北方のデーベルン辺境伯の領内で、春までの魔物討伐か。基本、襲ってきた魔物への対処なのね。魔法使いと剣士の両方を募集してるの?」

「そうです。魔力を帯びた魔物も来るので、魔法が使える方が望ましいと」

 支払いも悪くなく、冬が終わるまでというと今から出向いて約半年だ。冬越しの心配もしなくてよい。

「これを受けるよ。手続きをお願い」

「わかりました。5日後に辺境伯領からの迎えが来ることになっています。馬はありますか?」

「はい」

「では、5日後の開門に合わせて城門の前へきてください」

 辺境伯の紋章を聞き、仕事を受けた証明代わりのメダルを受け取って、5日間、どうやって過ごそうかと考えた。

 まずはデーベルン辺境伯領について調べておいて、あとは魔術書を探そう。


 初日はもう一度組合に行き、デーベルン辺境伯領について聞いてみた。どんな領主なのか、魔物はどんなものが想定されるのか。

 結果、領主のカスパル・デーベルンは、北方辺境を任されるだけあって、壮年の豪胆な武人らしい。ここ数年、冬になると魔狼や人喰いの山巨人が山からおりてくることが増えたらしく、今回の依頼を出したのだという。

 つまり、山の実りが捗々しくないということなのだろうか。そのうち、大掛かりな討伐隊を組織することも考えているようだ。


 ひととおり北方について聞いたあとで、今度は魔術書探しだ。


 皇都には、いろいろな店がある。

 魔道具や魔術書を扱う店も多く、さすが学院のお膝元と思うくらい、たくさんの魔術書を目にすることができる。

 単にあてもなく探すのではなく、どうせなら皇都でしか見つけられないようなものをと考えた結果、私は召喚関係の本を探して魔術書を扱う店のはしごをすることにした。

 ……剣士の格好でうろつくと無駄に絡まれるので、魔法使いがよく着ているローブ姿でだ。

 もっとも、丸腰は怖いので、ローブの下に剣もつけているのだけど。


 思った通り、さすが皇都と言うべきか、2日も歩き回ると召喚魔法の初歩的な本や各論のような専門的な本までを見つけることができた。

 それなりの金額ではあったけれど、これを逃したらきっと入手できないと考え、所持金の許す限り買い漁った。

 エトガルの蔵書はどちらかというと実用書的な魔術書が多く、こういう学術書的なものはあまりなかったのでありがたい。

 これからも時々見に来たほうがいいかもしれない。


 残りの日は所持金が心もとなくなったこともあり、購入した魔術書を読んで過ごした。

 ……魔術書には、いくつか気になる記述もあり、それについてもっと突っ込んだ内容を知りたかったのだが、これ以上本を買う資金はなかったので今回は諦める。

 この仕事で魔法使いとうまく仲良くなれたら、教えてもらおうかな。


 約束の5日後、指定された場所へと行くと、既に2人の傭兵がいた。ぱっと見た限りでは、妖精の魔法使いに若い魔法剣士だが……。


「シーア?」


 見覚えのある姿に思わず名前を呼ぶと、彼はぱっと振り向いて、驚いた顔でぽかんと口を開けた。

「まさか、アウス?」

「やっぱりシーアだ。もしかして、辺境伯の仕事を受けたの? ……変わってないね」

 もっとおじさんになってるんだろうなと思っていたシーアの姿は、最初にあった時とほとんど変わらなかった。

「……君もだ。傭兵をやってたんだね。魔法使いじゃないの?」

「ええと、両方かな。魔法剣士みたいな魔法は使えないんだけどね」

 シーアの横にいた妖精の魔法使いが、シーアを小突く。それに気づいて、シーアが慌てて私と妖精の魔法使いをそれぞれに紹介する。

「ああ、彼女はアウス。随分前からの友人だけど、傭兵をやってるのは今初めて知った。アウス、彼は妖精族の魔法使いスカイエ。たまに仕事で一緒になるんだ」

 妖精の魔法使いか。召喚についても詳しいといいな、と考えながら、私はぺこりとお辞儀をする。

「アウスです、よろしくお願いします」

「スカイエです。こちらこそ、よろしく」

 彼は今まで会ったことのある妖精と同じように、優雅で綺麗な礼をした。


 程なくして辺境伯領からの使いが現れ、私たちは北方へと旅立った。使いの話では、皇都だけでなく他の町でも募集をしていて、総勢10人くらいが集まるだろうと言っていた。


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