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3.世界の基本知識講座

この世界の説明的な内容が延々と続く回でございます。

 目を開けたらどことも知れない平原に寝転がっていた。

 何があったのか自分でもよくわからない。

 たまたま遭遇したとても人の好い青年シーアのおかげで、当面の生活はなんとかなりそうである。

 ついでに、彼の知人である魔法使いエトガルの協力のおかげで、ここで生きるための基礎知識講座も受けられている。


 以上が、現在までの私の置かれた状況だ。

 そして私の現状を整理した結果は、以下の箇条書きである。


・私はどうやら日本から異世界に来てしまったようだ(確定)

・私はこの世界のどこかにいる魔法使いの手によって召喚されたらしい(推測)

・私の本名は真名であり推定召喚主に奪われてしまったため自分に関する記憶もすっぽり持っていかれてしまったようだ(推測)

・日本へ帰るには自分の世界を特定して上位魔法使いとやらにコネを作って送還の魔法を頼まなきゃいけない(確定)


 そんな私の召喚主はどこいった、というのが現在の私の第二の課題である。

 第一の課題は、もちろん、帰還が叶うまでの間どうやってここでたくましく生き抜くかということだ。


 私があまり悩んでいないように見えるのは、もちろん気のせいだ。こう見えても3日くらいは夢見も寝つきも悪かったし、好青年に見えるシーアに実は騙されていたらどうしようという不安も拭えなかった。


 ちなみに、私の当面の呼び名は“アウス”に決定した。現地語で“余所者”という意味らしい。安易すぎるだろ、と思ったが、自分の名前を自分で考えて名乗るのもなんだか中二病くさいし面倒くさいのでこれで良しとした。

 まあ、シーアの名付けセンスがアレなことは否定しないが。


 現在は1日1回、通訳の魔法を使って一時、つまりだいたい2時間程度の間、いろいろと勉強する時間を取っている。魔法に頼りっぱなしでないのは、現地語がわからないままではいろいろと詰むからである。

 そしてようやくというか、ここ数日かけて文字の書き方と数字の読み方、超簡単な会話文くらいはどうにか覚えられた。人間、切羽詰まると結構覚えられるものなんだなあと、しみじみ実感している。

 だが、語彙が圧倒的に貧弱すぎて、会話をする以前の問題であるのは相変わらずだ。


 この世界の一般常識的なことについても、だいぶ学んだ。

 現在地はクレーフェルト皇国のフリーマールという町だ。この近辺では一番大きい町らしい。“大きい”の判断基準がよくわからないけど、扱い的には田舎の地方都市を指して言う場合の感覚に近いんじゃないかと思う。大陸の名前は特に固有名詞ではなく、西大陸、東大陸というアバウトな呼び方らしい。この国があるのは西だそうだ。

 地図も見せてもらったが、大雑把すぎてよくわからなかった。詳細な地図はないものかと聞いたら、皇城に行けばあるんじゃないかと言われた。そういうものなのか。


 この世界には時計がないため、時間単位はかなり大雑把なものになっている。時間を表す最小単位は、時間計測専用の蝋燭1本が燃え尽きるまでの時間で、それが“一時”だ。

 通常、そんな蝋燭をいちいち点していられないので、開門、正午、閉門の3回鳴る鐘の音と夜明けや日暮れを目安に行動することになる。

 現代日本人的感覚からすると、大雑把過ぎてなんか怖い。


 一般的な店舗は、開門の鐘が鳴ったあたりで店を開けて昼の鐘が鳴ったら一時ほど休み、また夕刻、つまり日が暮れるまで営業するというのが基本スタイルだ。

 飲食店は、昼の鐘が鳴ってから一時ほどと、夕刻から閉門もしくは深夜遅くまでがだいたいの営業時間となる。宿のチェックインは、通常、日暮れまでに済ませないと部屋が埋まってしまう。チェックアウトは開門前に済ませ、開門と同時に町を出るというのが一般的。


 貨幣は金本位制というのだろうか、金貨が最大価値を持つ貨幣として利用されている。

 最小貨幣は銅貨で、銅貨100枚がだいたい銀貨1枚、銀貨10枚が金貨1枚という比率となる。それ以上は宝石とか白金とか、より希少価値の高いものを使うらしいが、そんなことするのは都会だけなので、田舎で宝石出されても困るとのことだった。

 そして日本円とのレートを考えると、銅貨1枚が10円くらいの感覚となるだろうか。

 もちろん、それぞれのものの価値について、日本とそのまま一緒かと言えばそういうわけでもないため一概には言えないし、場所によってものの質も価格も変わるのだけど。


 たとえば外食。この町でハンバーガーのような手軽なものなら銅貨3~4枚もあれば1つ購入できて、庶民向けの定食的な食事であれば銅貨10枚も出せば食べることができる。今、世話になっている宿屋の宿泊料は素泊まり1泊銅貨90枚で、朝晩の食事を付ければ銀貨1枚だ。長期滞在で前払いすると、ちょっとサービスというか割引もしてくれる。


 それ以外のものについては……なんというか、基本的な生活必需品は安く買えるけど、そうでないものは急に高くなるという印象だ。

 長剣なんて1本金貨3枚だし、弓も金貨2枚だ。もちろん矢は別売りで、10本1セットで銅貨50枚だった。鍋釜の類の金物なら銅貨で買えるのに。

 店をのぞくついでに、短剣が銀貨4枚だったので1本買っておいた。刃物をひとつも持っていないのは、生活するうえで非常に不便であると実感したのだ。


 そしてこの町で普通に暮らそうと思うと、1日銅貨50枚あれば十分なんとかなるようだ。

 もっとも、飲食店のウェイトレスの仕事を1日やって稼げるのがだいたい銅貨30枚。そこにチップだなんだでトータル40枚行けば御の字くらいの稼ぎだそうで、世の中って厳しい。


 ちなみに、シーアと会った時、私が身につけていたアクセサリーを外させたのは、「銀製で細工が細かくて高価なものを見せびらかしながら歩いたら、絶対強盗に遭って身ぐるみ剥がされるだろうと思った」からだそうだ。

 ……ついでに、それらアクセサリーは一部換金し、私の身の回りのものを買うための資金となった。何もかも奢られて面倒見られるなど、肩身が狭くて嫌なのだ。私はあいにく、男に奢られてなんぼと平気で言えるような女子力など持ち合わせていないので無理なのだ。


 アクセサリーには一部18金のものもあったし、半貴石だけどきれいにカットされた石のはまったものもあったため、そこそこいい金額にはなった。1ヶ月程度ならなんとか、という程度だが。

 あ、この換金のおかげで本と紙とペンも買うことができたし、ちょっと高かったが紐綴じの皮表紙のノートも買うことができた。

 これで辞書を作りながら言葉を学ぶことができるし、いろいろ記録もできる。当面は日本語での記述になると思うけど。

 ……この世界、文盲は多いらしい。文字を学ぼうとしたらえらく驚かれて、そのことでこっちが驚いた。


 あとはこの世界の暦だ。四季はある。ここらは北のほうなので冬は長くて厳しいらしい。1ヶ月は30日で1年は12カ月、年末年始に“新月祭”というお祭りが別に10日ほどあってトータルで1年間は370日だ。新月祭は、日本で言うところの暮れから正月の休暇に相当し、新しい年の到来を祝う祭りなんだという。

 新年を祝いたくなるのは、万国共通の感覚なのか。なんだか安心した。


 で、現在は9月。今の自分の格好……シャツ、ジーンズ、薄手のモッズコートで丁度いいくらいだったので、体感では日本の11月くらいの気候か。やはり日本に比べて寒いんだな。いや、北海道くらいなんだろうか。

 あと、来月には収穫祭があるという話も聞けた。


 そして、驚くことに、私にも魔力があるのだそうだ。

 現代日本人がなんで魔力なんか持っているのかわからないが、あるのだそうだ。しかも結構な大きさの魔力が。

 エトガルが探知魔法? 感知魔法? そういう調査系の魔法で調べた結果なので、魔力があることには間違いなく、私も訓練次第では魔法が使える……ようになるかもしれないという話だ。


 通常、魔法使いの訓練は遅くてもローティーンのころから行うものらしく、大人になってから始めてもちゃんと使えるようになるのかわからないとのことだった。固定観念が邪魔をするらしい。

 しかし、魔法について聞いているうち、私の読書傾向やら遊んでたゲームやらのおかげか、普通よりもいろいろと理解が早いらしいことがわかった。エトガルが、これならもしかしたら大人でもなんとかなるかもと言う。魔法で一番重要なのは事象をどこまで具体的にイメージできるかが肝で、そこさえクリアできれば道は開けているのだ。


 もちろん、魔力がなければお話にならない。だが、魔力があっても具体的なイメージができなくてしょぼい魔法しか使えないというのもよくあることだ。

 私の場合、SF小説やらファンタジー小説やらラノベやらゲームやら、あれやこれやで蓄積してきた魔法だなんだのイメージが助けてくれそうなのだという。

 ラノベとかでよくある話だよなー、これももしかしてチートっていうんじゃないかと、正直ちょっと感心した。


 シーアとエトガルは非常に協力的だ。率直に言って、2人がいなかったら、私はこの右も左もわからない場所で早々に野垂れ死んでいただろう。

 2人とも、日本の諸々の文化や私の考え方に興味を持っているようで、通訳魔法の時間になると実にいろいろなことを尋ねてくる。半分くらいはそれが目的で私に付き合ってくれているようなものらしい。

 私も、2人の質問に答えながら、自分はどうやら社会系か情報系の勉強でもしていたのかなと考えるようになった。答えられる内容の詳細さが段違いだったから。


 ……それにしても、私の召喚主など、どうやって見つけたらいいのだろうか。捜索手段なんてさっぱり思いつかない。エトガルにもシーアにも少し話を振ってみたが、2人はまだ探さないほうがいいと言う。

 魔法使いに真名を抑えられてるというのは、身体どころか精神の自由まで奪われているに等しいことなのだ。私が何かしらの対抗手段を身に着けられるまで、むしろ見つからないことを祈ったほうがいいらしい。


 では、そんな脅威に対抗するための手段と言うけど、いったいどんなものがあるというのか。


 と、疑問をぶつけたら、エトガルは微妙な表情でそっぽを向いてしまった。

 ちょ、どういうことですか。そうじゃないかなと思っていたけどやめて怖い。


 私はエトガルから魔法を習うことを強く決心した。



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