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かんてらOverWorld  作者: 伊藤大二郎
既に一年経過! カンテラの人となりに触れる編
9/363

3月27日 草原の国  レンちゃんの誕生日


 おそらく平成26年3月27日

 剣暦××年2月27日


 場所 草原の国 城下町の茶屋


 昔(と言っても、僕がこの世界に流れ着いてからまだ一年ちょっとだから、見聞きした話程度だが)は、別の種族が他種の国に入るなど、禁忌も禁忌。ありえない話であったという。


 人間ヒューマン小人ホビット山人エルフ大鬼オーク麗鬼エルフ

 どの種族にも、どの国家にも、分断主義ディバイダーが定着しており他種族とは生活圏を分け、決して交わらないように生きてきた。他者の国には決して入らず、立ち入らせず。文化と倫理の違う種族は、分断する。


 あるべき形で、あるべき場所に、あるべき姿で。


 多国間を渡り歩くことができるのは、父祖の地を持たず流浪を続ける獣頭人や、自らの国に阻害されたダークエルフのみ。案内人のみ。

 彼らだけが一段階低い身分に身を落としながら、行商を取り仕切り、他国への文書等も彼らに託し、どうしても他国へ行かなければならない場合はその土地のしきたりに詳しい獣人を案内人として雇う、という独自の立ち位置を手に入れてきた。

 それを数百年守り通していたのに、僕のような異界漂流者の登場により、他種族間の融和を考える融和主義者リンカーがどの国にも少なからずいる。

 その考えが最も進んだのがこの草原の国である。王都の膝元で、他種族が生活し、異世界から紛れ込んだ「地球人」を食客として侍らせる特異点の王が統べる、混沌とした場所。少なくとも、この大陸で小人と人間が結婚することを認める国は、ここだけであろう(もちろん、莫大な寄付金。小人側の厳重な身元保証など、それなりにハードな条件は課せられるが)

 姫様などは「たとえ『地球人』とやらでも、この国で妻を娶っても許されるぞ」などとにやにやしていたが、そんな相手などいるわけがないと笑うと、急に不機嫌になり部屋を叩き出された。僕に、どうしろと。


 今、この草原の国には、案内人をつけずに入国している小人や山人が結構な数がいる。彼らは、この国の言葉も風習も知らないが、なんとか覚えようと努力しながら、外貨獲得に汗水たらしている。

 そういうエネルギッシュな風景が、僕は好きだ。


 そんな話を、僕の案内人兼通訳兼護衛のダークエルフであるレンちゃんとしながらお茶をしていると、思いもかけぬことを言い出した。

「もし、世界中が案内人なしでも、お互いを受け入れて、自由に出入りできれば、それはとても素晴らしいけれど、私たち案内人は存在意義を失ってしまいますね」

 なんか、はっとした。そんな発想がなかったから。

「私たちは、国を持たずに世界を行き来し、どこにも所属しない代わりにどこにもいることができる。そのあり方を誇りとして、世界で唯一の融和主義者であると自負していました。けれど、私達は世界が分断されているからこそ、ここにいることができる。本当は一番の、分断主義者なのかもしれませんわ」

 だとすれば、私達はカンテラ様の一番の敵になってしまいますわね。などと、本気なのか冗談なのかわからないクールビューティな顔でお茶をすするレンちゃん。僕に、どうしろと。


 別に僕は融和主義者じゃないよと弁明しても、意味ないだろうから話を切り上げて、足元に隠していた包みを取り出す。

 先日タマちゃんに用意してもらった、青い花束。

 今日は、レンちゃんの誕生日。

 おめでとう、と言うと、レンちゃんは何のお祝いか理解できていない。

 まず、誕生日を祝うという習慣が理解できていないようなので、今日は誕生日で、僕の国では誕生日に友達にプレセントをする風習があることを説明する。

 すると、それはわかっているのだ、と弁明するレンちゃん。

 何が得心いかないのだろか? と僕もわからなくなる。


 しかし、結局は一人で納得して、すごく喜んでくれたから、よかったよかった。


 

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