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かんてらOverWorld  作者: 伊藤大二郎
三方向作戦! 三カ国を巡るリーヨンちゃんとピコちゃん編
89/363

9月25日 ホビットの国 以前迷子 特に何もなし

 おそらく平成26年9月25日

 剣暦××年8月25日


 ホビットの国 迷いの森のどっか



 一晩空けて、まだ迷子。


 しかし、こういう時はうろうろせずに、助けが来るのを待つのが得策。


 昔、地球にいた時、地元の消防団で、山の中に松茸を探しに行って行方不明になったおっちゃんを捜して山狩りをしたことがある。

 無事に保護されたが、迷ったところからほとんど動いていなかったという。

 それがいいのだろう。


 じっと、待つ。


 もしかしたら、はぐれた皆も救助を待っている状況かもしれないが、多分僕が一番戦闘力も生命力も低いので、要救助対象のはず。

 紺碧の村のホビットか、ホビット忍者が来てくれるのを、待つ。


 じっと座る。

 本当に何もない。

 日記をつける以外、することが何もない。




 ※※




 大きな瞳、黒くて長い髪、えらく細くて白い指。豊かな胸。堅そうなブーツ。健康そうな頬。顔に向日葵張り付けたような、強い笑み。

 小柄な体に、僕とは逆ベクトルで特異なパーツを詰め込んだ、僕より7つくらい年下っぽい女の子。


 豊後恵ぶんごめぐみという女の姿かたちである。



「直接会うのは、これで四度目くらいかな?」

 

 世界廃滅主義者の首領。

 僕よりも遥か昔に、日本からこの異界ラドゥバレトフに飛ばされて来ているはずだが、その外見は少女である。

 聖剣に『寿命』を斬られ、永遠に少女のままであるという噂であるが、それが本当であるのかはわからない。


 ただ、奇妙に強い存在感で、森の中に立っている。



 僕はと言うと、彼女の配下であろうダークホビット忍者に両腕を押さえられて、地面に這いつくばらされている。うう、痛い。

 突然、森の中で襲われ、散り散りになって逃げてうろうろ迷子をしていると、いきなり後ろから頭に袋をかぶせられ、持ち上げられて、拉致された。(僕を担ぎあげているだろう人達のホビット語での「重い! こいつ重い!」は聞き取れた)

 どこかに到着し、頭にかぶせられた袋を取られると、急に体を地面に押し付けられ、顔だけを上に向けられる。

 目の前には、上記の彼女。


 どうやら、森の中で僕達を襲ったダークホビットの依頼主は、こいつだ。

「済まないね、君の周りには、常に誰かが張り付いてガードしているから、このタイミングで襲うしかなかったんだ。めんご」


 軽いなあ、この悪の元凶。


「どうしても君と二人で話をしたかった」

「じゃあ、このホビットさん達をどけてよ、痛いから」

「駄目だよ、逃げ出すだろう」

「あったりまえじゃん」

『ガルー君、ガリー君、もっと強く締めつけてやってくれたまえ』

 恵がホビット語で命令すると(ホビット語はわからないけれど、こいつの性格なら、そういうことを言ったに違いない)、僕を抑えつけてる忍者達は、律義に強く締めつけて来た。ぐえー。

「や、やめて。痛い。何、僕に何の用」

 すると、僕の何が面白いのか、けらけらと笑いながら、本題を告げた。

「君が先日グラスフィールドで我々の企みを潰してくれたおかげでね、ウチの強硬派共が次の手を考えてるんだ」

 それを何で僕に言うのよ。

「でも、高町観照という存在に、暴力だの謀略だので勝てるわけないから、やめろと私は言ってるのだけど、よっぽど君が嫌いなんだろうね、なんだか、逆に君の命を狙う方向に作戦が修正されてるみたいなんだ。私としては、まだ世界に喧嘩を売るつもりはないから、そんな作戦決行して欲しくないんだよ」

 それを何で僕に言うのよ。自分で解決してよ。

「どうも、私が君を褒めるのが癪に障ったみたいだね」

「それを何で僕に言うのよ。自分で解決してよ。マジで」

 けらけら笑う。何がおかしい!


「で、だ。結論から言おう。あのデカパイ娘を、きちんと凱旋させて欲しい。うちの馬鹿共は、オーバーラブ内で情報工作を行って、内乱に発展させるつもりのようだ。信義にもとる王家の打倒とかなんとか」

「……つまり、その馬鹿共をあなたが抑えてる間に、リーヨンちゃんの正当性を証明しろってこと?」

「そういうこと。察しがよくて助かるよ。そうなってしまえば、情報工作は無意味。混乱に乗じて君をオークに襲わせたり、狙うこともできなくなる」

「悪の軍団の親玉が、自分のところの組織の作戦を失敗させるために動くってどうなん?」

「異世界から来た勇者が、悪の軍団の親玉と、談合で戦いを進めてるってのは、どうなのかな?」

「……で、期日は?」

「剣暦9月1日までに」

「馬鹿野郎、無理に決まってんだろうこの野郎」

「できるって。人間、やってできないことはない。ファイト、オーなのです」


 この悪党、本当軽いなあ。


「まあ、善処はしますけれど」

「よろしく。では、私はそろそろアジトに帰るよ。あんまり一人で外出してると、仲間に怪しまれるからね」

 彼女の合図で、僕を地面に押さえつけていたホビット達が離れる。

 痛かった。


「君の仲間が、見当違いの方向を探しているが、目印をわざと置いて来たから、半日もせずに、迎えに来てくれるよ」


 そうして、彼女は森の奥に消えていく。

 決め台詞か何か知らないが、

「では、世界廃滅の時にまた会おう」

 言葉を残して。

「させないよ」




 そうして、森の中に一人。


 世界を一度壊して、新しい世の中に世界大魔王として君臨することを望むが、血生臭いのはなんか気分的に乗らないからと、面倒くさい方法で社会を混乱に陥れる、面倒くさい悪党。

 僕のライバルには、ぴったりかもしれないが、面倒くさい。


 

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