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かんてらOverWorld  作者: 伊藤大二郎
三方向作戦! 三カ国を巡るリーヨンちゃんとピコちゃん編
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9月23日 ホビットの国 迷いの森 ホビット王ハパナ・ムーンスレイブ

 おそらく平成26年9月23日

 剣暦××年8月23日


 ホビットの国ムーンスレイブ

 南の森 通称・迷いの森



 昨日の夜、村長に頼み込んで檻から出してもらったピコちゃんに、なんでハパナ陛下にグーパンを入れたのか訊いた。事情を聞いたユキくんが、説明するには。

 まず、昨日、ピコちゃんが僕よりも先に紺碧の村についた時、すでにカンテラが来るという情報が入っていた村では、村人達が歓迎会の準備を始めていて、遊びに来たハパナ陛下とも出会ったのだそうだ。カンテラの下僕であると自己紹介すると、大歓迎され、ハパナ陛下の音頭で、歓迎会の0次会が始まった。

 相手が王様ということもあり、センチペドで手土産に買った、度の強い酒をふるまい、大いに盛り上がったと言う。

 で、ピコちゃんは一応、陛下の隣で酌したり、話に相槌を打っていた。ホビット語なので何言っているのかわからなかったが、まあ聞いているフリでも機嫌よくしていたので、気にしなかった。で、その時に気分良く酔っぱらった陛下が、なんだかいやらしい眼つきで尻を舐めまわすように見ていたのだと言う。

 先日のアルミナ公の領地での夏休み、亡くなった娘さんが世話をしていたという庭に通されて、公とお茶をしていた時、「どうか、娘の分も幸せになって欲しい。自分自身を大切にして生きて欲しい」と頼まれたことが強く心に響いたピコちゃんは、防衛反応にしたがって、グーパンを繰り出したとか。

 やられる前にやれ、と思ったそうなのです、とユキくんは締めた。


 ……いや、まあ、その心構えはいいことだと思うけれど。


 ピコちゃんは自信満々に(ユキくんを通して)言った。

「私の尻を触っていい人は、私が決めます」


 ……いや、まあ、その心構えはいいことだと思うけれど。


 君がぶん殴ったのはこの国でで一番偉い王様なんだけれど、と言っていいのか悪いのか。

 

 とりあえず、物事を暴力以外で解決すべき時はあるということを説明して、下がってもらった。


 ハパナ陛下が休んでいる村長の家に行く。どうやって謝れば国際問題にならないかと困っていたが、目が合うや陛下が開口一番「尻にちょっと手のひらが触れたくらいでグーパンってお前どんだけ貞操教育してんだよ、俺王様だぜ? 少しくらい戯れてもいーだろ」とか言い出したので、「奥さんに言うぞ」と言ったら物凄く慌ててた。もう普通に陛下に謝って、この話は終わりにした。



 閑話休題


 村長の息子のジュリーさんは壮年のホビット。森の中など勝手知ったるベテランで、僕とも面識ある。

 初めてこの世界を訪れた去年の春先、彼を筆頭にしたホビット青年団と一緒に、迷子になった子供の捜索をしたもんだ。

 僕のことを覚えていてくれたらしく、にこやかに迎えてくれたが、「この前と連れている女が違うが、そこは触れていい話題なのか? と言っているのです」とユキくんが通訳してくれた。

 ホビット、そういう冗談好きだなあ。


 さて、2日間くらいあれば抜けられると予定していた迷いの森の中で2日目。未だ森を抜けられず。

 原因としては、僕が疲れてペースが遅いから。

 いやさ、森の中をホームグラウンドにしてるホビットとか、大陸一体力のある種族オークと同じペースで歩くのはしんどいのよ。僕スポーツとかしてなかったし、市役所職員だったし。

 しかし、味方と思っていたユキくんも、体力が有り余ってるのかテンション高いまんまに先頭を歩く。

 犬頭人は体力あるの知ってたけれど、ユキくんは異常だ。

 体力あるね、とコメントすると『ユユキ・メルクリ』とは古代獣言語で『すげえタフ』という意味らしい。ああ、名が体を表してんなあ。

 ダークエルフのピコちゃんは、最後尾を守って、途中あるくペースが落ちる僕の背中を押してくれたりする。いや、そこまでしてもらわなくても大丈夫! と思って早足になっても、すぐにばてる。最終的には僕の荷物を持ってくれた。

 意地を張っても意味がない時というのはあるけれど、自分の半分もない女の子に荷物持ってもらうのは、ちょっと複雑。

 

 このパーティで僕と一緒にぜーぜー言ってくれるのは、ホビット王のハパナ陛下くらいである。

 なんで伴周りも連れてないの? とか、一緒に着いて来るとか、無謀でしょさっさと帰りなよとか色々言ったのだけれど、面白そうだかあ着いて来るとのこと。 

 護衛しかねると文句を言ったら「いや、その辺の物陰とかに、御庭番(ホビット忍者護衛部隊)がいるから、気にしなくていーぜ」とのこと。

 宮使えも大変だ。


「あーた、ホビットなのになんで森の中でばててんの」とか茶化すと「王様って仕事は体動かさねーんだよ」と日本語で返事が返ってきた。むしろ、「なんで世界中飛び回ってるお前がそんな痩せねーのかの方が疑問だろ」と逆にぶっこまれる。

 仕方ないじゃん、この世界の飯はうまいんだから。



 ※※


 陛下と二人、パーティの後尾でひーひー言いながら歩いている時

「お前さ、オーク秘宝をホビット領内に隠すとか、どういう神経してんの?」

 今回の旅の内容を説明すると、当然のツッコミをされた。大体どこの国の王族も自国語と剣祖共通語、それに日本語を習得しているので、会話が楽。

「いや、別に僕が隠したんじゃないですよ」

「それでも、判明した時点で俺に報告すべきだろ。だったら忍びを使ってオーバーラブに返還することだってしてやったのに」

 それもそうなのだ。

 当時は、ホビットの忍者村よりセキュリティの高い場所がなかったし、薄墨の村の村長が「陛下はこの件に関与せぬ方がよいでしょう。私の独断で隠すことといたします」とか言ってくれたので、甘えた。それを陛下に説明しない方がよいと思ったので

「ごめんなさい。あの時は、可能な限り誰も知らないほうがいいと思ったんです」

「『魔王』復活を阻止するためか?」

 ……。びっくりした。なんで知ってんだ。

「そりゃ、俺は小人忍者衆の主だからな、諜報で今うちに勝てる勢力はねーよ」

 安心しろ、どこにも漏らすつもりはねーから。とか、にやにやしてる。

 確かに、ホビット忍者に勝る武力はそうそうない。しかし

「でもね、事あるごとに爆破して証拠隠滅を図るのって、諜報部隊として、どうなん」

 そのせいで、僕はイリス姫にビンタされたんだから。

「まあいいや、それよりも、あのリーヨンって娘。あれがオーク? 嘘だろ」

 話題を変えられた。まあいいや。それよりも、おなじく王族であるリーヨンちゃんを陛下に紹介するなら、今だろう。

「出自が色々あれなんですけどね、確かに、オーバーラブ家の血筋のようです。確かに、見た目は人と同じですが、オーク独特の空気というか、立ち振る舞いとか歩き方が少し違うと思いませんか?」

「ボン! キュッ! ボン! じゃねーか、胸と尻はよくても、あのウエストのくびれでオークはありえねーぜ」

 そっちかよ。

「そういうこと本人に言わないで下さいよ。あれで恥ずかしがり屋なんだから」

「あんな目立ちたがりなボディしといてか」

「だから、そういうことを……。まあ、オーク語でないと会話できない子だけれど。陛下オーク語なんて喋れないでしょ」

「馬鹿にすんなよ。馬鹿にされたくなくて、五ヶ国語全部マスターしたわ」

「それは失礼しました。でもなおさらセクハラかまさないでよ。あのリーヨンちゃん、オークでも一、二の怪力なんだから」

「てめーの女でもねー癖に何わかったようなこと言ってやがる。お前だってオーク語喋れないだろ」

「言葉は使えなくたって、陛下よりはわかってますよ。冒険も一緒に色々したんだから」

「そんな温室育ちってタマには見えねーけどな。……しかし、あの娘。確か情報じゃ草原の国で育ってんだよな? それなのに剣語が使えないのか?」

「……そう言われたら、そうだけど、実際使ってるところ見たことないし」

「お前、剣語で話しかけたことあるのか?」

 いや、ジンさんが剣語で話しかけても反応なかったから、使えないんだろうなという結論に。

 それからしばらくして、もしかしてこの子オークなんじゃないか? と思って、オーク語で話しかけてから仲良くなった。

 でも、リーヨンちゃんは、人見知りで、犬が嫌いでジンさんと会話も苦手だったんだよな。


 試しに。僕と陛下を置いて先頭グループを歩いているリーヨンちゃんに剣祖共通語で訊いてみる。

『リーヨンちゃん』

『はい』

 彼女は、振り向いた。

『リーヨンちゃんは 剣語 話す 可能?』

『……え? それはもちろん使えますけれど、いきなりどうされたのですか? それよりカンテラ様こそ、いつの間に剣祖共通語を覚えられたのですか?』


 あー


 陛下と、顔を見合わせる。

「何が『陛下よりはわかってるだよ』。わかってねーな」

 陛下に、笑われた。

 とても『粛清王』と呼ばれるホビット族の首領とは思えん爽やかさで、笑われた。


 

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