9月12日 追記 儀式が失敗した後の話
深夜。
月を見失うような、深く暗い時間。
どこから、書けばいいのだろうか。
そう、キログラム氏の家の中庭で焼肉を食べようとしたら、ジンさんが、血相変えて飛び込んできたんだった。
どうかしたのか訊こうとしたら「いいから来い」と手を引っ張られて中庭を飛び出したのだ。
連れていかれたのは、儀式の最中の大聖堂の、隠し裏口。
そこには、厳かな白いドレスに身を包んだ、リーヨンちゃん。
あれ? 儀式の最中じゃないの? 6時間くらいかけて長い詩を諳んじる作業は?
そして、ジンさんの告白。
儀式は、失敗した。
リーヨンちゃんの、告白。
「6時間もかかるような詩、おぼえられるわけないです」
……いや、それをおぼえるから、この儀式が成り立つんじゃ、ないでしょうか。
ジンさんからの説明。
そもそも、合い言葉を言えるくらいで王様が決まるわけない。次の王が誰かなんて、その時の情勢や人間関係で大体決まっているようなものだ。この儀式は、誰が王になっても、その正当性を国民に示すための、まさにセレモニーなのだ。
本当におぼえる必要はない。
王は代々この儀式に臨むにあたり、カンペを用意して、懐に忍ばせて挑む。
大司祭は、それを見て見ぬふりする。
出来レースだったのか。
しかし、それならリーヨンちゃんは、なんでカンペを用意してないのだろう。
ジンさんの通訳で、判明。
「そもそも私、詩の内の3分の1しか母から教わってないです」
いや、アイスバイン陛下は、なんでこのことを教えてあげてないわけ?
君ら昨日あんなに色々お話していたじゃん。
ジンさんが言った。
表向きは会談だからな、基本、従者が周りにいる状況だから、詩の内容について話をすることはできなかったんだろう。
そもそも、そんな大事な情報が伝わっていないなんて、陛下も思っていなかったのだろうな。
良い子のみんな「自分がわかっている程度のこと、相手もわかっているだろう」という考えで動くと、思いもよらぬ失敗を招くことがあるよ。
報告・連絡・相談は大切にね。
つまり、儀式は失敗した、ということらしい。
……、つまり、この後、どうなるんだろうか。
ジンさん曰く
「結論としては、リーヨンは偽物であり、王と国民を謀ったということになる。今はまだ大聖堂の外に儀式失敗の報は漏れていないし、大司祭様も、時間を稼いでくれている。しかし、このことが外に漏れれば、混乱と暴動が起きる可能性もある。いや、起きるんだろうな、オークの性格から考えて」
すると、ジンさんが僕をき、と見つめる。
「怒り狂った民衆が大聖堂に流れ込みリーヨンを害するかもしれない。今の内にお前がリーヨンを連れて逃げろ。できるだけ、遠くへ。可能ならこの国から脱出するんだ」
ま、まじですか。
でも、最後に一つだけ確認。
「でもさジンさん、今の話だと、大司教様もグルって言うか、こちら側の人なんでしょ? 誰も大聖堂の中のこと知らないんだから、ぶっちゃけ、ちゃんと暗唱できたって偽証してもらったら済むんじゃない?」
「オークの経典では、聖職者が信徒を謀った場合、舌を噛んで死ななければならないと決められている。そんなもん真面目に則ることはないんだが……大司教様は、修道院の司祭をされていた頃、経典に逆らってリーヨンの母を亡命させたことがある。だから、2回目は躊躇なく死を選ばれるだろう」
こんちくしょう、この世界の奴ら融通利かな過ぎだろ。
というわけで、僕とユキくんとリーヨンちゃんは逃げに逃げて、日が沈んだ時には、何日か前にリーヨンちゃんと再会した、ヘンゼル渓谷キャンプ場に着いた。
で、野宿中。
焚火を起こせず、ユキくんとリーヨンちゃんと、身を寄せ合って暖を取る。
財布も、旅券も、全部おいて迎賓館に置いてきちゃったけれど、どうしようか。
ユキくんは、おねむらしく、うっつらうっつら。。
リーヨンちゃんは、僕の隣でニコニコしている。
いや、君ニコニコしてちゃいけない立場だから。
……いや、してないよりは、いいか。
僕は、この際リーヨンちゃんに「まさか、わざと儀式失敗したんじゃないよね?」と訊くべきか少し迷ったが、あほかと思いなおし、もう寝ることにする。
はあ、明日どうしよ。
ではおやすみ。




