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かんてらOverWorld  作者: 伊藤大二郎
三方向作戦! 三カ国を巡るリーヨンちゃんとピコちゃん編
74/363

9月11日 オーバーラブ王家 秘儀の次第

 おそらく平成26年9月11日

 剣暦××年8月11日


①オークの国方面

 本日、草原の国よりの使節団が到着した。

 フレイムロード候爵ジョージ2世に率いられた官僚団12名と、従兵31名。そして、護衛兵団を率いるのは外務卿チャームプライド公が第3子ジェス・ヌックルス・チャームプライド。

 遠く異界の地まで案内するのは、5人の獣頭人。その頭領は、我らがジジン・ムーゲン・メロディア。


 公式に人間の客を迎え入れるのは何十年ぶりとのことで、(僕は、人間にはカウントされないのだろうか)彼らが通る街道は、王都のオーク達が、道端を埋め尽くし、面する家屋の窓から身を乗り出して大歓声を持って迎えた。

 というのも、つい先日まで、草原の国に保護されていた(ということになっているし、まあ、守られていたのは事実だろう)先代王の血を引くリーヨン王女が返ってきたということで、人間に対する歓迎気運が、非常に高まっているのだ。

 これは、いける。

 これで話をこじれさせたら大したものた。


 僕とユキくんも、色とりどりの花を使節団にふりまくオークの女の子から花弁をわけてもらい、ふりまいた。

 使節団の皆さんは、やはり緊張しているのだろう。

 何しろ2000人ものオークに出迎えられ囲まれるなんて経験はこれが人生最初で最後かもしれないのだ。

 まあ、僕だって肌の色が違う棍棒をぶら下げた老若男女身長3mに囲まれたら、ちびる。

 人間の世界では巨漢の僕も、僕よりも背の高い獣頭人のユキくんも、この群衆の中ではちびっこである。


 気付いてくれないので、必死にアピール。

 

 遠目20m。ジンさんが、僕達に気付く。


 何かを言いたげに口を開け、諦めたように眼を伏せた。

 多分、お前らなんでここにいるんだとか言いたかったんだろうな。


 王宮に入った使節団は、そのまま国王アイスバイン陛下に謁見され、そしてその後、先日帰国したリーヨン王女殿下を紹介されて、迎賓館に案内される予定なので、晩餐会が始まるまで時間がある。


 迎賓館を覗きに行くと、ジンさんが腕を組んで、眉間に皺を寄せて僕らが来るのを待っていた。

 開口一番「お前達、なんでここにいる。いやそれよりどうやって俺達より先に着いているんだ……、いや、いい。お前のすることにいちいち常識を求めちゃいけないのは、俺が一番わかってる」

 しかし、ジンさんの尻尾が少し嬉しげにゆれているのは見逃さない。

 その後、ジンさんから他の4人の使節団随行案内人を紹介してもらう。

 皆、賢そうな人ばかりで、僕が自己紹介すると「これが噂の……」「なんとあの」等と、物珍しげに見られた。そして「ジジン・ムーゲンの話ではあの腹に10人分の飯を詰め込むとか」「もう少し勇敢な面構えと聞いていたが……」という疑問視もちゃんと聞こえた。

 ジンさん、僕のことどう噂話していたのだ。


 ジンさんの通訳デビューはいつなのか訊くと、3日後とか。

 えらく間が開くんだな、と思ったら、条約内容の協議の前に、リーヨンちゃんの王族入りの儀式を済ませるために、足止めを食らうとのこと。

 そんな儀式があるのか、見に行きたいなと思ったらジンさんから「やめておけ殺されるぞ」との警告。なに、『経典』がらみ?

 ジンさんの説明では、オークの王家は、代々祈りの詩を口語で伝授しており、それを暗唱できて初めて王と認められる。その内容は一般に公開されておらず、現在、その詩を知っているのは、現国王アイスバインと、次期国王である第一王子、そしてオーク大聖堂大司教の3名だけである。

 しかし、その詩を知る娘が20年前にもう一人いた。その娘は、前王から夜伽の際に教えられ、そして自らが子を産むと、その子の子守唄代わりに聞かせて育てたと言う。

「そう言えばリーヨンちゃん、たまになんか無駄に長い詩を歌ってたね。内容忘れたけれど」

「忘れておけ。それを一文でも知っているとなれば、オークはお前を殺しにかかる」

 うん、忘れた。

 例外の存在であり、見た目も人であるリーヨンちゃんが、それでも彼らの同胞であると認められているのも、その詩を唱えることができるからである。

 オークだけの祈りの詩。王位継承者は、それを大聖堂の中、大司教の前で暗唱することができて、初めて王と認められる。

 王様でもなんでもないけれど、リーヨンちゃんは例外的に、明日、大聖堂でその詩を歌う。大司祭に公式にその詩を唱えることができることを認めさせ、王族の一員オーバーラブ姓を名乗る。 

 明日の正午から儀式は始まる。異国人どころか、国民でも王族でさえも中に入ることのできない建物の中で儀式は行われる。。

 この世で最も神聖な5つの式の一つ。詩鬼儀式オークセレモニー


 こんちくしょーーーーーーーー。


 見てええええええええええええ。


 すげえ見てえええええええええ。



 しかし、世の中駄目なものは駄目なのだ。諦めるしかない。


 リーヨンちゃんは使節団に挨拶をした後、そのまま禊部屋にこもったとのこと。

 なにしろ一度暗唱するのに6時間はかかる超長編詩。

 今から精神統一が必要なのだとか。


 ということは晩餐会のごちそうも食べれないのか、残念。



②センチペド方面

 まったくもって情報なし

 それでよいのだ。センチペドから急報が届くのはトラブルがあった時だけなんだから。



③姫様方面

 魔女書留速達で、手紙が届いた。

 姫様からだった。消印を見ると、僕が手紙を出したのと、同じ日に出されたものらしい。

 中身は至って簡潔。

「頬を叩いてごめんなさい。嫉妬していました。あなたと話をする機会を与えてください」

 苦笑するしかなかった。

 今頃、僕の手紙も、姫様に読まれている頃かな。



 さて、リーヨンちゃんの儀式が成功して、使節団の協議一日目が無事終了するのを確認したら、ジンさんに別れを告げて、家に帰ろう。

 そして、姫様に会おう。



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