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かんてらOverWorld  作者: 伊藤大二郎
三方向作戦! 三カ国を巡るリーヨンちゃんとピコちゃん編
73/363

9月10日 現在の状況

 おそらく平成26年9月11日

 剣暦××年8月11日


 オークの国オーバーラブ

 王都グレーテルオーバーラブ

 王城付属迎賓館



①オークの国方面(僕 ユキくん)

 

 ついさっき、リーヨンちゃんとアイスバイン陛下の会談が終わった。

 会談って言うか、まあ普通に兄妹同士で話をしていただけなのだけれど。


 リーヨンちゃんの出自はそれなりに複雑。

 お父さんが先代の王様で、お母さんが大鬼と人間の混血。

 だから、クォーターオークって呼ばれ方をするのだろう。

 しかし、その外見は人間である。オークの特徴を肌と髪と腕力に残しているが、彼女はぱっと見は人間の容姿である。(優性遺伝なのだろうか)

 何故お母さんが混血なのか、先代の王様とお母さんはどのようにして出会ったのか。そこら辺はリーヨンちゃんは教えてくれたことはないし、僕も訊いたことはない。

 言いたくないことは、言わなくていいのだ。

 むしろ、リーヨンちゃん自身も、お母さんから教えてもらっていない可能性もある。

 

 ただ、確実なのは、他種族と交流を持たないこの世界で、一種族の王の娘が、別の種の血を継ぎ、さらにその外見まで受け継いでいる。

 これは、アウト中のアウトであるということ。

 だから、彼女は今の今までその存在を隠されてきた。


 

 今から20年くらい前、鬼と人の混血の娘が、鬼の王の子を妊娠していることが判明した時、その場に立ち会ったのは3人、いや3オーク。

 王室顧問のキログラム氏と、王宮産婦人科医と、オーク修道院の司祭。

 それぞれが『経典』にしたがって母娘の命を絶つべき立場にいた。

 けれど、それは誰にとっても悲しみしかもたらさないことを知っていた彼らは、全てをもみ消した。

 

 そんな娘なんか最初からいなかったことにして、密かに獣頭人ムーゲン・メロディア族の協力を得て、彼女を草原の国グラスフィールドに脱出させ、人間として生きる方法を探すことにしたのだった。

 娘は、どちらかと言うと、人間に近い容姿をしていたため、そこで過ごせば混血であることもばれないと考えたのだ。


 ただ一つ誤算だったのはオーク達は人間のことを全く知らなかったこと

 その当時は、『人間ヒューマン』を見たことすらなかったのだ。


 肌が灰色がかって、腰に棍棒をぶらさげた怪力の、超絶美人身長2mの妊婦が、悪目立ちすることなぞ、想像できなかった。


 そうして、草原の国で生まれたリーヨンちゃんは、周りの子供らと明らかに体の大きさが違い、自分が普通ではないことは薄々気づいていたらしい。

 特に胸を大きさを理由にちょっかいをかけてくる幼馴染の男の子を、怒ったリーヨンちゃんがその怪力でビンタして空中三回転させてしまった時、自分は人ではないのだと、自覚した。ちなみにその男の子は、今の草原の国国境警備隊でオークとの折衝に取り組んでいる。

 内向きだった性格が、余計に内向的になってしまったが、お母さんの教育の賜物で、まっすぐで優しい子に育った。

 キログラム氏が、生活費を送っていたので、生活には困らなかったようだ。

 それで、10数年生きてきた。

 自分が何者なのか、という疑問を常に胸に抱きながらも、毎日をひたむきに生きていた。

 まっすぐに、大きく育って、その大きな図体を隠すこっそり生きている内に、僕と出会った。


 そして、つい最近、彼女は自分がオークの国の現国王の異母妹で、第5王位継承権を持つリーヨン・オーバーラブであるという己の出自を知る。



 心やさしく、相手を憎むという発想がないリーヨンちゃんでも、何をいまさらという気持ちはあったのだろう。

 オークの国を訪れても、育ての親的存在でもあるキログラム氏とは会っても、自分の家族と面会することは抵抗した。

 外見も、育ちも違うのだ。見てきたものも、食べて来きたものも違うのだ。


 でも、一番の理由は、リーヨンちゃんは、自分自身に自信を持っていないことだ。

 他人に好きになってもらう自信がない。


 初めて会う実兄も、その子供達も、自分の人間に似た姿を受け入れてくれるだろう。そこには不安は抱いていない。

 でも、臆病で、人と眼を合わせて喋ることができなくて、喋ろうとしてもうまく言葉が出なくて噛んでしまって、趣味も特技もなくて、就職活動してもどこもやとってくれなくて、遠い親戚から届く仕送りを食いつぶしているだけで、夜中布団に入ると将来が不安で泣けてくるような女を、好きになってくれるか不安なのだ。


 とりあえず、逃げ出さずにオークの国にとどまってくれるだけでもありがたい。




 それが昨日、兄と会うと言ってくれた。

 すごい進歩だ。



 今朝、彼女を連れてキログラム氏の家に帰ると、慌ただしかった。

 王宮に行くための準備に追われている。 

 リーヨンちゃん、いや、姫様が着るドレスや髪飾り、それに腰につけるべき棍棒を選んで、すごい足音をさせてオークのメイド達が機敏に動きまわる。

 あれよあれよという間に、顔に泥をこすりつけたような娘が、令嬢になる。

 

 まあ、リーヨンちゃん、僕から見ても美人だったしね。


 そして、オークから見ても、人間の美人は美人なんだってさ。



 8頭引きの馬車に乗り、リーヨンちゃんと僕は王宮を目指した。


 なんで僕まで行くのかはわからないが、リーヨンちゃんが来て欲しそうな眼をしていたので、仕方なく手をつなぐ。




 ……、ああ、もしこれが姫様なら、イリス王女なら、僕は手をつないだのだろうか。




 王宮についてからのことは詳しくはかかない。


 ただ、アイスバイン陛下とリーヨンちゃんは、初めて対面するや、号泣して抱き合った。

 一番陳腐で、一番幸せな形に落ち着いたのだ。なら、それでいい。




②センチペド方面 (デミトリ ピコちゃん)

 今日あたり、2人はセンチペドに着いたのではないだろうか。

 アルミナ公も、今日から自分の領地に帰っているはずだから、夕飯でも一緒に食べているんじゃないだろうか。アルミナ公はダークエルフに対して偏見がないから、刃を扱うのがうまいが生活能力は低く、自分自身に対しては融通を効かせるのが下手な褐色耳長族のことも、受け入れてくれるだろう。

 けれど、公の領地の人達は、どうなのだろうか。ピコちゃんを、受け入れてくるのだろうか。多分、センチペドみたいな異国との交通がない町では、異人なんて、見ることもないだろうし……。

 いや、それでもたった今、僕は人と大鬼とのつながりを見たんだ。きっと。




③姫様方面


 今のスケジュールで行けば、剣暦8月15日までに姫様のところに戻るのは不可能だ。

 かと言って、リーヨンちゃんと陛下をこのままにしてここを発つことはできない。

 最後まで関わる義理がある。

 姫様にこれ以上言い訳をすることはできない。姫様に、これ以上僕と出会ったことを後悔してもらいたくない。


 手紙を書いた。

 正直に、今の思いを。

 僕は姫様に向き合っていなかったこと。果たす務めがあること。だから、今は戻れないこと。デートは本気なこと。もう一度、話をする機会を与えて欲しいこと。

 それをさっき、魔女郵便で出した。


 映画とかドラマだと、未練たらしい男がやりそうなことだったが、偽りない行動を取りたかったのだ。



 そう言えば、明日草原の国使節団が到着する。

 人間が公式にオークの国に来るなんて、有史以来、何回あったことなのだろう。


 もしかしたら、貴重な瞬間に立ち会っているのかもしれない。

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