3月24日 草原の国 王城 初めてこの世界に来た日のことを思い出している
おそらく平成26年3月24日
剣暦××年2月24日
場所 草原の国 首都 王城内の客間
おつかいに関する命令は全く気配なし
イリス王女から食事の誘いあり、明日から昼食は王女の庵で食べることになる。
おそらく、僕が姫様と出会う前の話をしろと言われるので、今のうちで整理しておくこと。
・ホビットの村での出来事
・盗賊にオークと間違えられた話
・王様から頼まれた最初のお使い
・姫様が食べた、「始まりのケーキ」がどのようにして作られたのか
特にすることもなく、本を読んで過ごす。公用語や草原の国の言葉はまだ聞き取れないが、文字の方は大分覚えることができた。22種類の文字は判別がるく。簡単な単語も、大体理解できる。こうして見ると、絵本というのは教育には非常に役立つ。言葉と絵を結びつけて、覚えることができる。
絵本『麦踏ペッテォ』を読み始める。簡単な文章なら一人でもわかるようになる。
明日、ドワーフ軍団の先遣隊が到着するとのこと。
もしかしたら、レミィちゃんも一緒に来ているかもしれない。あの子、斧振り回すの得意だし。
ジンさんとも話をしたが、次の旅に連れていくのは、やはりリーヨンちゃんだけ
だろうということになった。
危険なのもあるが、彼女たちはそれぞれの陣営で重要な役割を担う人達だ。
人間の国の内乱に巻き込まれる形で、6種族が一触即発の状態だったのが先月のこと。このタイミングで彼女らを連れて旅をするのは、刺激を与えかねない。
という最もらしい理由で納得してもらうのが一番だという結論にたどり着く。
彼女らには、誠心誠意をもって、話そうと思う。
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僕がこの世界に迷い込んだ最初の場所は、深い森の中だった。
何故、そこなのかを考えることがたまにある。
僕のいた地球の日本のあの場所が、森の中だったからかもしれない。
三本の巨木を有した、小さな神社。
友人がその神社の神主をしており、蔵の掃除を頼まれていた。
その時、埃にまみれたあの箱の中で、僕は何を見つけたのだったか。
それを手にとって、友人にこれは何かと訊こうとした次の瞬間には
僕は森の中に、一人で立っていた。
社も、社務所も、彼の乗る中古のワゴンR(色は青)も、周りから消え、同じような広葉樹が生い茂っているだけで。
何が起きているのかわからないうちに、僕は小人に捕まった。
小人、と言っても掌サイスのかわいいキャラクター達ではなかった。小学生くらいのサイズの、大人たちだった。
西洋絵画の中で見かけるような、中世的な服を着た、背の低い男たちが、僕を見つけるや何やら叫びながら一目散にかけていき、五分ぐらいしたら、めいめいに小刀だの竹やりだの、なんか先のとがった棒みたいなので武装して、僕に突き出す。
どうしたらいいのかわからなかったが、とりあえず、両手を上に挙げて降参の意思を表明してみた。
見事に捕まった。
妙にロープの使い方のうまい連中だった。
それで、森の中に村(これもまた、おとぎ話の挿絵に出てくるような典型的な西洋民家の群れだった)に連行され、手製の檻に閉じ込められた。
木製だが、とても僕が体当たりしても壊れそうにない、頑丈そうな檻だった。
こいつら、こんな檻を日常的に準備しているのだろうか。
それとも、僕がいたからあの短時間に作成したのだろうか?
とりあえず、そこで一息つく。
何が起きたのか。さっきまで、神社で片づけを手伝って、夕飯に焼き肉をごちそうしてもらう手筈だったのに。
気が付いたらしらない森の中で、見たこともない背の低い人達に捕まって檻に放りこまれた。
彼らは、日本人では、ない。言語も違うし、顔立ちもなんかモンゴロイドっぽくない。
さっき、檻の中に石みたいなパンっぽいなんかを放りこまれた。たぶん、食べろということなのだと思うが、これも見たことのない食べ物だ。そして、まずくはないが非常に雑な味だった。
一時間か二時間ほどだろうか。だらだらと時間だけが流れる。
普通なら、自分のおかれた状況にパニックになって喚いてもいいのだろうけれど、受け入れている自分がいる。
今も、焼き肉食べたかったなと、今日は『きゅんらぶ』の日だよな、ということしか思い浮かばない。
『きゅんらぶ』とは、最近見ている深夜アニメで、エンディング曲が歌詞がきゅんとらぶだけで構成された電波ソングとして有名である。僕の一押しアニメ。
でも、この小人の村にはテレビなんてなさそうだし、電線も通ってなさそうだ。
ワンセグを持っていないことも保証できる。
僕の携帯も、財布とか手帳と一緒に取り上げられてしまった。
溜息を一つ。
背中が汚れることも気にせず、寝ころび、きゅうらぶのエンディング曲を口ずさむ。
「きゅんらぶきゅんきゅんらぶらぶ~」
小人の村の檻の中で、100キロ超の太った男が、電波系萌えソングを口ずさむ。
シュールだなと思って苦笑したところで、ふと、檻の外に気づく。
小人の、子供だろうか?
さらに小さな小人が、こちらを見ている。
物珍しそうな顔で、覗いている。そう言えば、子供から奇異の目で見られることは、昔から多い。
じっと目があっていると、なんか、子供たちが口ずさんでいる。
「ぶら んきゅんらぶら~」
あ、僕が歌ってた曲だ。
もしかして、気に入ったのだろうか?
突破口が見えた気がした。