12月25日 草原の国 不老不死の少女と打ち合わせする。
おそらく平成27年12月25日
剣暦×○年11月25日
草原の国グラスフィールド
僕の屋敷
来月の頭にも、背中に翼の生えた女の子コイオリちゃんは帰ってくる。
帰ってきたら、もう一度封印されて長い眠りにつかなくてもいいよ、と言ってあげなければならない。
しかし、だ。
彼女達は、七つの秘宝が合成されて、もう一度世界を滅ぼす魔道具『冥王』が生まれることを危惧し、その時のために封印されていたのだ。
その危険性がある間は、僕がいいよと言っても、彼女とその6人の仲間の有翼人は納得しないだろう。
恵にそのへんのことについて相談すると「いや、この世界に散らばる七つの秘宝の半数は君が原型留めてないほど変形させてるんだから、大丈夫なんじゃない?」とか気楽な物言い。
しかし、こいつにも勝算はあったらしく「コイオリから聞いた話から推測してだけれど、おそらく七つに分解された『冥王』を元に戻すための設計図があるんだ。120年前、超古代文明の遺跡を探検して遊んでいた時に、『設計図』とだけ呼ばれる魔道具を見つけたことがある。その時は何の図面なのかわからなかったけれど、見つけた時の状況から考えておそらく、その設計図だ。それがなければ冥王は復活しない仕組みだろう」
それで、その設計図はいまどこにあるのか訊くと「いや、それが鍋の敷物にしてて」
今どこにあるのかを詰問すると「私が、秘密結社☆ブンゴの遺志で雑用してた時のアジトのどこかの炊事場にあると思うんだけれど」
魔道具って、どんなちっぽけなものでも売れば遊んで暮らせるくらいの貴重品ではなかったのだろうか。
呆れていると、恵は少し困った顔で「需要と供給ってあるじゃん。その時の私には、何書いてあるのかわからない丈夫な紙より、鍋の底にしくなんか分厚い物の方が重要だったんだよ」
……その時もしかして酔ってたのか訊くと「ふ、不老不死が酩酊するわけねーだろ!」とか動揺して否定したから、多分酔ってたんだろう。
とりあえず、それを見つけて活火山の火口にでも放り込めば、事態は解決ということでいいのだろうか。
※※
豊後、一つ教えて欲しんだけれど、今日の晩御飯にイオちゃんが出した冷製スープ? この国って、冬に冷たいスープ飲む習慣あるの?
いや、おいしかったよ。冷めてもおいしい味で作ってくれてるのはわかるけれど、冬に冷たい物を食べる習慣が地球にいた時なかったから。草原の国では一般料理なの?
ああ、あんな上等なスープを作る習慣自体ないのね。
イオちゃん、あんな料理誰から習って来たんだろうか……。
え? また昔話聞きたいの? もういいじゃん。1週間も空いたらもう飽きたでしょ?
なに、僕が豊後が旅立った後、続きをレンちゃんに話してたの聞いたって?
ズルイ! って言われましても、勝手に小旅行して熊狩りしてたのは豊後恵さんなわけでして。
わかった。
わかったって、話す話す。
えと、竜のグーさんが草原の国に、自分が祖父代わりに育てている人間のお孫さんを探しに来たのよ。で、探してあげたら、何故か双子になってた。生物のクローンを作る魔道具ってのがあって、それを被ってしまってお孫さんが二人になったんだよ。いや、あったんだよ。そういうのが。
グーさんは説明受けても平気な顔して二人とも連れて帰ってしまったよ。
その後は君のいた秘密結社☆豊後の遺志に拉致られて、ほら君と最初に会った日だよ。でもやっつけて逃げだした。その後組織のスパイとして僕の屋敷に入りこんだのがイオちゃん。で、イオちゃんを支配していた豊後の遺志の幹部のところに土下座してイオちゃんを自由にしてもらうように頼んだ。1週間ほど拝み倒したら、納得してくれた。
それで万々歳で悠々自適な生活してやろうと思ったら。
ドワーフの国から土人形が手紙をもって逃げてきたってところ。
あのヒゲターバンがドワーフ秘宝を探し出して自分のものにしようとした事件だよ。
魔道具『自動人形粘土』とか言うので鎧人形を作りだすドワーフの闇の一族がからんだの。
今になってわかった話だけれど、30程の部族が集まってドワーフ統一国家を作った時に併合を拒んだ一族がいたんだよね。で、そいつらはその鎧人形で武装して自衛を保ってひっそりと奥地の岩山で暮らしていた。
で、豊後の意志がそそのかして、王権を奪取するために武装蜂起させたんだよね。
闇の一族で一番まともだった人形師が、その事実をドワーフの国に知らせるために、ドワーフ文字で手紙を書いて人形にもたせて逃げさせたんだ。ただ、今まで一切縁故を持たずに暮らしていた部族からそんな土人形がいきなり現れても手紙も読まれずに破壊措置命令出される可能性もあったから、獣頭人の案内人を頼ろうとした。
闇の一族なんかの仕事でも受けてくれるような、奇特で変わり者の犬頭人と言えば、ジジン・ムーゲン・メロディアしかいないから、彼の匂いを自動で追跡するように設定して人形を送りだした。
思いっきりドワーフの王のいる王都山をスルーして、人間の国に来てしまったということらしい。
そして、僕の屋敷で安置されていた犬頭人型の土人形を追跡して、闇の一族の鎧人形が屋敷を急襲して、僕はやられた。
だから、喧嘩とか弱いから。
ドワーフの国からどうやって土人形達が歩いて来れたかって? ……僕にもわからん。国境警備基地とか、どうやって越えたんだろうか。
まあ、その当時はそんな背景わかんないから、ある日草原の国の王都にやってきた土人形を匿ったら、鎧人形に襲われたでござるの巻だよ。
そんな時に、レンちゃんが助けてくれたんだ。
うん、今うちにいるレンちゃんだ。
鎧人形を全部ぶっ壊して、僕を助けてくれたダークエルフ。
いやあ、びっくりした。
だって、それまでホビットとかドワーフとかドラゴンとか、こうゴツイ系の異世界人とばっかり親交があったから、ダークエルフの美人っぷりには驚いたね。ああ、こういう人達もいる世界なんだなって。
お礼を言おうと思ったら、今度はレンちゃんに首根っこ押さえつけられて床に叩きつけられた。
そそのかされ、武装蜂起し国を乗っ取ろうと動き出した闇のドワーフの一族、その中で戦いに否をしめしどうにかして助けを求めていたその女性はステファニーさん。
彼女は最初犬頭人のジンさんに知らせようとして土人形を走らせた。でも、彼がその時ドワーフの国にいないという事実を知って、慌ててもう一人の知り合いのダークエルフであるレンちゃんに土人形君を追わせた。事実をいっぱい書いてる手紙が異種族人の人間に知れるのはまずいから、それを回収するために。
すんごいこんがらがってきたよね。
でも、全部ジンさんが解決してくれた。
土人形が運んだ手紙を解読していたジンさんはドワーフ語で書かれた今のドワーフの国の状況を理解すると「これはまずい。特に他国に知れるのはまじまずい」と気付いて、他の解読班の人に『あー、これはあれですな。おみくじの一種ですな。【大いなる不吉 待ち人は来ず 体調注意】』とか嘘ついて誤魔化して、ダッシュで僕の屋敷に返ってきた。
で、既に襲われた後なのと、されに追いかけてきたダークエルフの暗殺者を見て、説得を開始していた。
曰く「ダークエルフ、お前の任務は草国にドワーフの国で起きている内紛の情報を隠し、速やかにドワーフの国の王にこのことを報告し、闇の一族に対処するように告げることだろう。ならば、この男を連れていけ。こいつは、俺やお前のような亜人とは比べ物にならないほどの信用を山人の王より受けている」とかなんとか。
で、草国の文書解読班には嘘をついて、偽物の手紙とすり替えて本物を持って帰ってきたことを伝えると、レンちゃんも色々悩んでいたけれど、僕をつれてドワーフの国に行くことにしたらしい。
多分、連れていかれない場合証拠隠滅のために僕レンちゃんに暗殺されただろうから、その選択しかなかったけれどね。
問題は、どうやってドワーフの国に行く大義名分を手に入れるかだよ。
一応、草国の王様の庇護で暮らしてるわけだし、この世界一応分断主義取ってるから、僕が勝手に異人の国に行くのとか、ぎりぎりアウトだろうし。
そうしたら、ね。
この国の第1王位継承権を持った、姫様のお兄さん、リオロック・グラスフィールド王子が、僕の家に突然現れた。
……意味がわかんないよね。
やっぱり、血筋かな。僕が唖然としているのにも関わらず姫様みたいにマイペースに話始めたよ。
最近、また姫様が体調を悪くなされた。下痢がひどいんだって。『こんな姿の私をカンテラに見せるな! 例え殺してでも追い払え!』と衛兵は命令されているらしい。行かなくてよかった! つまり、「ドワーフの国には、とても胃腸にいい煎じ薬があるらしいから、妹のイリス姫のためにそれ取ってこい」ということらしい。
彼は王子様だから、僕に頭を下げるわけにはいかない。すごく、真摯なすがるような眼で堂々と命令されたよ。
そういうわけで、僕、ジンさん、ダークエルフのレンちゃんの3人で、ドワーフの国に行くことになった。
王様の許可?
なんか、王子様が取りつけてくれたよ。
だから、世間が思ってるほどリオロック王子とイリス姫は仲悪くないってことだね。政略闘争はするけれども。