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かんてらOverWorld  作者: 伊藤大二郎
回顧録! かんてらOverWorld/Zero編
357/363

12月22日 草原の国 マジで書くことない。

 おそらく平成27年12月22日

 剣暦×○年11月22日


 草原の国グラスフィールド

 王都 僕の屋敷



 本当に、何も書くことがない。

 犬のクッキーを散歩に連れてったくらいだ。

 豊後恵とコイオリちゃんは予想通り今日になっても帰ってこなかった。

 ……これ、また一カ月くらい留守にする展開じゃないかなあ。

 僕も、よく予定を延長して行方不明になること多かったけれど、いつも留守番してくれてたメイドのイオちゃんに、こんな気分味あわせてたんだな。

 猛省。

 次からは、旅立った時に行方不明になりそうな時は前もって手紙を出そう。



 ※※



 レンちゃんは、イオちゃんと会話とかするの?

 あ、するんだ。

 え、こっそりおやつもらったりしてんの? 僕の分は?

 二人だけでこっそりケーキ買って食べてんの?! ちょ、それは聞き捨てならない、背信行為じゃないの。

 冗談よ、どうせイオちゃんが自分のポケットマネーで買ってるんでしょ? まったく、メイドで食べるおやつくらい経費で落とせばいいのに。


 世界廃滅主義者の悪党『ブンゴの遺志』との最初の戦いが終わって、家に帰ったら玄関先に女の子が一人倒れていた。

 これみよがしに、扉の前で。

 仕方ないから、流れで屋敷に入れて介抱した。

 タイミングもタイミングだったから、デミトリも「ちょ、怪しい」と慌てていたけれど、だって怪我してるんだから仕方ないじゃない。


 後から知った話だと、イオちゃんは僕の屋敷に潜入するためにわざと泥だらけになって体に傷をつけて倒れていたらしい。

 普段から潜入工作のために食事を取らなかったり風呂に入らなかったりして惨めさを演出しているとのことだった。

 うん、イオちゃん。当時のブンゴの幹部が飼っていた、『カンテラの屋敷に潜入し、彼の者の戦力と秘密の調査をするために送り込まれた密偵というのが、イオちゃんの身分だった。

 僕がブンゴと正面切って戦うだけの戦力を保有しているのか、秘宝についてどこまでの情報を掴んでいるのかを調査し、状況によっては工作を行い無力化させることを目的に送り込まれていた。


 いやあ、当時の僕はまったくイオちゃんをただの行き倒れと信じ込んで、普通に世話焼いてたよ。

 イオちゃんがなかなかデミトリの作った物を食べてくれなくてね、怪我も体力もなかなか回復しない。いっつも険しい顔をしていた。なんとか心を開いてもらえないかと四苦八苦してた。

 それで、一週間くらいしてかな、やっとこさ食べてくれた。

 イオちゃんに全部終わった後で確認したら『一週間で、この家には旦那さんとデミトリしか住んでなくて戦力なんてこれっぽっちもないから襲撃したら一撃で落ちることも、秘宝に関する情報なんて欠片も持っていないということもすぐに判明しましたから。安心して体力の回復に専念しました』だってさ。

 ただ、ブンゴのメンバーはそれでも安心しなかった。次の作戦を潰されないために、僕を殺害以外の方法で無力化する必要があった。


 そのために、工作員イオちゃんは、理解の深い一手を指した。

 屋敷でぼんやり過ごしていた僕にジンさんが出した手紙が届いたのだけれど、破り捨てて僕に読ませない様にした。

 僕がジンさん宛に書いた手紙を、魔女郵便に渡すフリをして、契約を解除する旨の通知書を、悪しざまに罵る文面と共に送った。剣語で書いたらしいけれど、ジンさんは『お前が剣語の読み書きできないのなんか忘れてしまうくらい衝撃的な悪口だらけだった』んだってさ。結局それは僕には読ませてくれなかったけれど『読んだ時はちょっと泣いた』んだって。

 つまり、調査の結果、ジンさんがいなければ僕が国外に冒険に出たり、国内の貴族とか王族とコミュニケーションできないことを読み切っていた。

 その上、デミトリの実家にも怪文書を送って、不安に陥れて一度実家に戻らせて、僕を屋敷に一人ぼっちにさせるという作戦だった。


 完璧だったね。イオちゃんは僕の人間関係わかりきっていた。

 しかも僕の性格も読み切ってた。

 体力が戻ったイオちゃんは、僕の代わりに掃除洗濯料理全部してくれた。

 いやあ、頼りきった。財布もイオちゃんに渡して、勝手に買い物してもらっていた。

 だから、郵便の手紙も全部彼女が受け取って、ジンさんからの物は全部捨てて二度と来るな的な返事を代筆し続けたらしい。


 一か月もそんな日が続いた。ジンさんは一週間で戻ると言ったから異常事態だったんだけれど。

 駄目だね、『ジンさんも実家で積もる話しでもなるのかなあ』なんて気楽に構えてた。

 イオちゃんの方が逆に堪えたらしい。

 いつまで経っても手紙を送るのを止めないジンさんにも、いつまで経っても不安そうな表情をしない僕にも。

 

 いつも険しい顔をイオちゃんはしていた。

 で、ある日気付いたんだ。もしかしてこの子近眼なんじゃないかなって。

 だから、メガネ屋に連れてって、ピント合わせた眼鏡を買ってあげた。

 人間ってこんな笑顔になるんだなって、こっちが感心するくらいの顔をしたよ。

 で、帰りにイオちゃんが欲しがった鍋を買って帰るとデミトリが帰って来ていた、イオちゃんが怪文書を実家に送ってデミトリの動きを封じたことや、僕とジンさんの手紙を破り捨てていたことを突き止めたらしくて。

 デミトリがイオちゃんを刺し殺そうとするのを止めて、イオちゃんを逃がすので精いっぱいだった。


 それから、しばらく。

 屋敷で小火騒ぎがあったり、僕が乗った馬車の車輪が偶然外れて事故に遭ったり、道を歩いていたら突然壺が頭に振ってきたり、金で雇われたチンピラにからまれたり、ピンチが連続だった。イオちゃんの仕業だった。僕を足止めできなくなったから、物理的に負傷させる計画にシフトしたみたいで。

 でも、ティフトン通り町内会が消火作業してくれたり、たまたま抱えていた羽毛布団がクッションになってくれたり、偶然落ちてるお金を拾ったせいで壺をよけたり、チンピラをドワーフとホビットがリンチしたりで、僕は無傷だった。

 最終的に、イオちゃんは夜分自分で屋敷に忍びこんで僕をナイフで刺すという暴挙に出た。

 

 でもできなかったって。いや、薄皮1mm斬られて、血が出て僕は泣いたわけだけれど。そこで、それ以上僕に刃物を向けられなくなったそうだ。

 眼鏡のせいらしい。

 今までは、金のために色んな人を謀略で陥れたり負傷させたりしていた。

 それでも近眼でぼやけていたから、苦悶の表情を見ずにいられた。

 でも、こんな度が入ってなんでも綺麗に見えてしまったら、自分のナイフで苦しむ人の顔が鮮明に見えたら、もう自分には無理だと。そう思ったらしい。

 あ、デミトリが通訳してくれてね。当時はイオちゃんも日本語使えないし。

 それで、彼女がブンゴのところで飼われてて、病気の母親の治療代と弟妹の生活のために悪事に加担して金を稼いでいるということを聞いた。

 じゃあ、悪党辞めてウチで働けば? って言ったらそんなこと相手が許してくれるわけないって言われるの。


 デミトリに言ったよ。

「この前僕にビンタした落とし前をつけたいなら、馬鹿に付き合ってくれる?」

 あの爺さん快諾したよ。本当、馬鹿だ。


 イオちゃんに訊いて、彼女を雇ってるというブンゴ幹部のアジトにデミトリと乗りこんだ。

 で、そいつを探して土下座して「イオちゃんと家族を、うちで働かせて下さい。そして、彼女達に危害を加えないと約束してください」と頼みこんだ。

 断られても、うんと言うまで土下座を止めなかった。

 僕を外に叩きだそうとした連中はデミトリが全員倒した。

 その幹部は、逃げた。

 追いかけたよ。追いかけて、先回りして土下座した。

 そうしたらどこまでも逃げるから、どこまでも追いかけた。

 城の門を抜けて草原に出て馬で駆けだしたから、馬車をその場で買い取って追いかけた。

 途中で川に出て小舟で逃げ出したから、その辺に留めてあった漁師さんの小舟を買い取って追いかけた。

 小山のアジトに隠れたから、鼻のいい通りすがりの犬頭人に追跡してもらった。

 アジトの扉は僕が破壊した。出てきた幹部が剣で僕に襲いかかったから、デミトリが剣を弾いて、僕が土下座した。

 また逃げ出したから追いかけ続けた。

 3日3晩かけて、ホビットの国との国境付近まで追い詰めた。

 いよいよ彼も余裕がなくなったのか『だったらお前が死ね! そうしたらあいつも放っておいてやる』と言ったから。

『死ぬのは痛いから嫌です! 僕にはこうしてお願いすることしかできません!』と言って土下座した。

 

 まあ、その後も追跡劇があったけれど、最終的に彼も快諾してくれたよ(ニッコリ)

 『もしあの子が危害を被るようなら、またあなたを探して、お願いしに行きます。どこに隠れていようと、草の根分けて必ず見つけます』って言ったら、泣きながら逃げてった。


 そりゃ、怖かったんじゃない?

 身長190の巨漢と剣を持った爺がどこまでも追ってきて「うん」と言うまで土下座するんだよ?

 僕なら嫌だ。

 君だって嫌でしょ?

 そういうわけで、イオちゃんは僕がもらい受けた。

 人質にされていた家族の居所をイオちゃんい教えたら、走って迎えに行ったよ。

 で、その一カ月後から、僕の屋敷でメイドをすることになった。


 


 さて、問題が三つ残った。



 一つは、追跡の時に物を壊した賠償金とか、馬車だの船だとかの購入金とか、犬頭人の手伝い料だのでお金をばらまき過ぎて、べらぼうな借金ができた。


 二つは、僕の屋敷に帰ってきたジンさんに、泣きながら詰られたこと。あの悪口ばかり書いた手紙についてジンさんは、僕がまだブンゴの人質にされていると思っていて、見捨てられるようにわざと心ない手紙を書いて送っていると思っていたらしい。


 三つは、そこまでして僕を足止めしたい何かの作戦が、この世界のどこかで始められているということ。



 

 そんなこんなで、なんだか面倒そうな事件が起きそうだなと思っていた矢先、王様から呼び出しを受けた。

 そして、そう。レンちゃん。君と出会ったあのおつかいが始まるわけなのだよ。


 

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