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かんてらOverWorld  作者: 伊藤大二郎
回顧録! かんてらOverWorld/Zero編
353/363

12月18日 草原の国 背中に翼の生えた女の子、仕事に就く。

 おそらく平成27年12月18日

 剣暦×○年11月18日


 草原の国グラスフィールド

 王都 僕の屋敷



 昼間、玄関のカギをどこに置いたか忘れてしまって屋敷の中をうろうろしていたら、老執事のデミトリと背中に翼の生えた女の子コイオリちゃんが談笑しているのを目撃した。

 二人って接点あるんだなと感心していたけれど。そう言えば行き倒れになって温泉町で歌い子させられてたコイオリちゃんを引きとってうちまで連れてきたのがデミトリだったな。

 恩人、というやつなのか。剣語を喋れないコイオリちゃんが一所懸命覚えた最初の言葉が「おはよう」と「ありがとう」だった。あと「お勘定お願いします」

 それを言いたい相手がいたからだと思うと、なんとも心のほっこりする話しではないか。

 その場を黙って離れようとしたら、二人に見つかる。

 ちょうど、僕の話題をしていたそうだ。


 デミトリ曰く「旦那様。この娘が言うには、いつまでも世話になるだけでは我慢できないので、仕事をいただきたいということです」

 うちの爺様が無理矢理王都まで連れだしたんだから、客人扱いでいいんだけれどなあ。

 仕事と言っても、家事はイオちゃん一人で賄えてるし、僕の護衛はレンちゃんがいる。

 何をしてもらうというのか?


 デミトリ曰く「コイオリは、字がとても上手です」

 採用。


 っていうか、この子半月で口述筆記もマスターしてるの? スペック高すぎないか?

 デミトリ曰く「恵様の教え方と、この娘の情熱の賜物でしょう」だってさ。

 若いって素晴らしい。



 ※※



 豊後、今更なんだけれど、コイオリちゃんの世話色々とありがとう。

 彼女がこの屋敷の中だけとは言え自由に暮らしているのも、君が言葉を教えてくれたお陰だ。

 ……、僕だって礼を言う時は言うよ。

 そうだなあ、来月あたりほとぼりが冷めた頃に一度彼女が行き倒れていた温泉町に行ってみるのもいいかもしれない。彼女の故郷というか、実家を探さないとね。



 昨日の続きね。

 剣の国から、草原の国に帰ったことを王城に報告に行ったよ。二カ月も逗留していたのは、まあ、色々と後始末があったということにした。ところが、王様はその後始末というのに興味があったらしく、結局剣の国であったことを色々話すことにした。とりあえず、世界征服を狙う悪の集団と、公園に刺さっていた聖剣については伏せておいた。

 大層喜ばれたよ。閉ざされた国の向こう側の話は、皆興味深々なんだね。

 その話をしたことで報奨金が出た。

 で、また諸国に遣いを出す時には一緒に行って、見聞きしたものを報告しろと言われた。

 異世界にやってきて三カ月か、四か月か。ついに僕は草原の国お抱えの異世界人になったわけだね。

 

 とりあえず、まとまったお金が手に入ったので、僕も家が欲しくなった。

 それまでは城の客室で過ごしていたけれど、流石にそろそろね。

 それで、色々とジンさんにコネを使ってもらって、出自も不明な異世界人に家を売ってくれる人を探した結果、しばらく人が住んでいない曰くつきの屋敷と、行く先々で暇を出される曰くつきの執事を雇うことになった。


 つまり、この屋敷で、デミトリのことだね。

 引っ越した当初は、まさにお化け屋敷のような有様で、見た目は人が住んで大丈夫なのかって感じだったけれど、中身はしっかりしてたよ。気に行った。特に、前に住んでた人が失踪したとかで、使ってた家具がほとんど残ってたから、買い足しも最小限で済んだし。

 夜逃げかって? いや、どうもある雷雨の夜に天啓を受けて旅に出たとかで。

 屋敷の所有権は売りに出してたそうな。

 大した曰くじゃないんだけれど、剣祖の加護を捨てて国外へ出て行った奴なんてこの世界じゃろくな奴じゃないらしくて、家の買い手もつかなかったんだってさ。僕にぴったりの家だった。

 デミトリはデミトリで当初からああいう爺様だったから、気も合った。


 とりあえずは、腰を落ち着けることができたわけだ。

 さて、ジンさんも獣人宿じゃなくてうちに住みなよ家賃安くするよ、って相談したらびっくりすること言われた。

「お前が草原の国に帰ってきた時点で、契約が終了するわけだが」

 ドライなこと言うなよ、契約更新に決まってるじゃん、って即答したら、なんか喜んでた。

 しかし、ジンさんは一族の都合で一度実家に帰らなければならないらしい。

 仕方がないので、一度別行動になった。

 何故かデミトリも日本語がわかる人だったので、寂しくはないかなと思って、送りだした。


 見た目ボロ屋敷で、お別れの夜に、僕とジンさんで食事。

 明かりもないから蝋燭の火だけが浮かぶ。

 デミトリはなかなか料理もできて、ナイフとフォークを使えないジンさんのために手づかみで食べれる料理を用意してくれた。

 酒蔵にはワインが何本かおきっぱなしだったらしくて、それも開けた。

 葡萄酒はあんまり好きじゃないんだけれど、この世界の料理って匂いや味付けが薄いから、葡萄酒の芳醇な香りがとても印象が強くなる。

 結局二人で空けた。いや、最後の一杯はデミトリにも注いで三人で乾杯したのか。

 いい夜だったよ。

 で、次の日の早朝にジンさんを送りだして、デミトリと二人になる。

 これからどうぞよろしくと伝えたところで。



 王都の空に、一体のドラゴンが現れたんだ。

 この世界、ドラゴンいたんだ。って感動したのは覚えてる。

 

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