12月9日 草原の国 背中に翼の生えた女の子、剣祖共通語を7割理解。
おそらく平成27年12月9日
剣暦×○年11月9日
草原の国グラスフィールド
王都 僕の屋敷
同居人の豊後恵に頼んで、背中に翼の生えた女の子コイオリちゃんに言葉を教えてもらうことにした。
とりあえず、剣祖共通語で何か喋れるようにしてもらう。
しかし、流石は豊後恵。この世界で一番言葉と向き合って来た不老少女。
半日で剣語の7割を覚えさせたと言う。
すげえなという気持ちと、本当かな? という気持ちを半々に、コイオリちゃんを部屋に呼ぶ。
訪室した彼女の第一声は剣祖共通語で『おはようございます』
その次に頭を下げて『ありがとうございます』
そして最後に『お勘定お願いします』
そして満足気な顔。
そんなコイオリちゃんの横で同じくドヤ顔している恵に厳重抗議をしたところ、彼女は本気で言っているのかわからないが言いわけする。
「だって、君が言いだしたんだろ? 『おはよう』と『ありがとう』が言えたらその国の言葉の7割は覚えたも同然だって。ついでに『お勘定お願いします』も言えるようにしたんだから。これでコイオリちゃんは一人で外食にも行ける」
……いや、確かに僕はそういうこと言ったよ? 言ったけど?
それから一日中、コイオリちゃんは屋敷の人々に『おはようございます』『ありがとうございます』を使うようになった。執事のデミトリもメイドのイオちゃんもエルフ下僕のレンちゃんも、そういうのは普通に対応してくれる。うん、まあそれでいいと思うよ。
しかし、どうやら『お勘定お願いします』が言いたくて仕方ないらしい。
明日、外食でもしようか……。
※※
ブンゴ、なんで今夜も来るわけ?
そりゃ夜は暇だから来たけりゃ来てもいいけれど。
今日は飲まないよ。いつも言ってるけど、毎晩飲む趣味はないの。酒が欲しければイオちゃんに言ってもらいなよ……。
そんな怒らないでよ。悪かったって。もう一人で飲めなんて言わないから。
わかったから。次に飲むときはブンゴも誘うから。
しかし、コイオリちゃんも酒とかいける口なのかな……?
で。ブンゴ、ドワーフの国に言った時のことを話してくれと言ったって、バーンスタイン国のことは君の方が詳しいでしょう? 今更僕に何を訊くっての?
なに僕の珍道中が聞きたいの?
別にそんな毎回毎回トラブルに見舞われてるわけじゃないよ。
いいよ話すよ。
ドワーフの国に何をしに行くのかと言えば、ドワーフの王様に草国の王様の親書を渡すということだった。ドワーフの国とは何百年か前の戦争以来、正式な国同士のやりとりが途絶えていたから、出入国がなあなあになってしまって、勝手に王都まで遊びに来るドワーフがトラブルを起こしているらしい。体を洗わずに温泉に入ったり、食堂に勝手にドワーフ用のくそ濃い匂いのきついソースをどばどばかけたり、人間のそれより上等な刃物を二束三文で売って鍛冶屋の仕事を奪ったり、地味迷惑している。
ちゃんと国交を回復させて、ドワーフの出入国管理をしてもらうことをお願いしに行くわけだ。
そんな大事なことを僕にやらせる意味がわからなかったけれど。
もちろん、僕一人にそんな大事なことはさせないらしい。
ちゃんと、正式な使者がいる。
ジョージ・フレイムロード2世という人だ。彼は草原の国の外務を担当する一族の当主で、正式な使者としてドワーフの国に行く。彼を先導する案内人がジンさんと僕という、そういう役割らしかった。
僕、いらんやん。とは思ったね。
ただ、話を聞くと、そのフレイムロードさんは今まで内勤ばかりで、公式な使者として外国へ行くのが初めてのことらしい。なら、一度でも異国を経験したことのある僕やジンさんをサポートにつけようということらしい。あと、ホビット王からの手紙に、なんか色々書いてあったんだろうね。草国王陛下は、僕に何を期待していたのやら。
それで、3人で旅をすることになった。
フレイムロード卿は貴族なんだから、従者とか護衛とかたくさん連れて行けばいいのにと思ったんだけれど、ジンさんが止めた。
曰く「ドワーフの国に大人数で行くと危ない」
ブンゴ、君ならどうしてかわかるでしょ?
そう、あの他人と勝負するのが生きがいなドワーフのところに大人数で押し掛けたりしたら、とりあえず一戦やらかしてからでないとこっちの話なんて聞いてくれないからね。
だから、ドワーフの国には大勢ではいけない。
まあ、結局ドワーフの国の入国した途端に、10回くらい眼が合ったドワーフに絡まれたよ。彼らも外国人なんて初めて見たんだろうね。【一回バトればなんかわかるんじゃね?】的なノリだった。
フレイムロード卿も、ドワーフの国なんて初めてだから、いきなり斧をかついだ筋肉ごつい小男が興味深々な眼で近づいてきたら身構えてたね。
身を守る武器とか、僕が預かってなかったら切りつけてたんじゃないかな。
え? だって、ジンさん犬頭人じゃん。獣人は武器を本能的に嫌うって言うし、僕が持つしかなかった。
だからさあ、ドワーフ達も三人の中で一番図体のでかい武器をもった僕が護衛というか、一番腕の立つ男だと思ったんだろうね。僕に絡み始めた。
仕方ないから、そういう人達とはまず一回勝負してから、こっちの話を聞いてもらったりだよ。まあ、ルールはこっちできめていいみたいだったkら、僕が勝てる勝負にしてもらった。
最初のドワーフには手押し相撲で勝って、一番近い村を教えてもらった。
次に寄ってきたドワーフには反復横とび対決で勝って、ドワーフがあんまりいない道を教えてもらった。
森の中を抜けてたら飛び出て来たドワーフには布袋歌ったらノリノリだった。ごはんわけてもらった。
森を抜けてさあ、泊まるところを探そうと思ったら、10人くらいの団体さんに道を塞がれて、仕方ないから食べられる野草探し対決をしたらジンさんが鼻を利かせてすごくいい匂いのするキノコを山ほど採ってきてくれた。ドワーフ達の持ってたソース塗って焼いたらめちゃ旨かった。あのソースってああいう時に使うんだね。
キノコ刺した串を持って、フレイムロード卿が困惑した様子で言ってたみたいだよ。『これが、ドワーフなのか?』って。
まあ、僕は僕でドワーフの王都は国で一番高い山の中腹にあるという事実を知ってかなり困惑していたんだけれどね。
あ、知ってる? ドワーフ王都。
そうそう、その休火山の中腹だよ。あの草木の少ない岩山の洞窟の中。
……そうだよ? もちろん登った。
死ぬかと思った。
王都山シェインの麓のドワーフはやっぱりあの国で言う都会人なんだろうね。
見知らぬ外国人が現れたからと言っていきなり斧をかついだりしなかったし、まるでポケモントレーナーのように眼が合ったからと言って勝負を挑んでくることもなかった。
さて、山を登ってドワーフ王に会おうということになってだよ。
登山口に、迎えのドワーフ軍人が待っていてくれた。
草国王が、事前に魔女郵便で手紙を送ってくれていたらしく、使者が来ることを知ったドワーフ王が、山を登る手助けにと寄越してくれたらしい。
思ったね。
そんな便利な郵便あるなら、最初からそれで親書運べばいいじゃんかよ。
ジンさん曰く、「駄目だろ」
フレイムロードさんも「駄目だろ」
念のために迎えに来てくれたドワーフさんにもジンさんにお願いして確認したら「駄目だろ」って言われちゃった。
まあ、その迎えのドワーフってのが、レミィ・アンダーテイカーだったわけ。
そう、この前手紙をくれたあの女の子。
ん、ああそうそう。ブンゴも知ってるのか。
僕のドワーフ国旅行中に、一緒に温泉掘った噂のドワーフってのが彼女。




