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かんてらOverWorld  作者: 伊藤大二郎
回顧録! かんてらOverWorld/Zero編
337/363

12月2日 追記

 あ、ブンゴいらっしゃい。コイオリちゃんはもう寝たの? あの子寝付きいいよね。もっと知らない家では警戒して眠らないのかと思ったけれど。

 とにかく、助かるよ、ありがとう。

 ……で、僕がこの世界に来て最初の頃の話だっけ。

 どこまで言った? 

 ああ、なら最初から話すか。


 僕が27の時だ。働き始めて4,5年経った頃。高校時代の友人の実家が神社でね、倉の掃除の手伝いを頼まれたんだ。

 暇だったから休みの日に手伝いに行って、倉に祭事で使ったらしい色々なものを運んでいる時だ。ふと、裏手の林の奥で何かの声が聞こえた気がしてね、ちょっと行ってみた。

 林の中に足を踏み入れたと思ったら、見たこともない森の中にいた。

 それが僕の神隠しだよ。本当、なんの予兆もなければ、特別な現象もなかった。

 突然、迷子になっていた。

 それでうろうろしていたらホビットに見つかって、彼らに捕まって村に連れてこられた。え? そりゃ暴れないよ。痛いもの。……身長差があったからね、いざ僕が暴れて抵抗したら彼ら怪我をすると思ったんだよ。状況がわかってないのに相手を怪我させたら交渉も何もないじゃない。大人しく捕まった。

 で、村の外れに、どうやら慌てて作ったらしい木製の檻があってね、そこに入れられた。言葉は通じないし、お互いに見た目が違い過ぎるし、本当どうすればいいのかがわからなかった。

 閉じ込めた後は見張りをつけて放っておかれてね。食事は一日三回かかさずホビットパンをくれたし、特に拷問とかされたり隙間から棒でつっつかれるということもないし、気楽に過ごしてたよ。でも、これが暇でね、暇すぎて歌を歌ってたら見張りの人が興味があるらしくて、利き耳立ててるのが丸わかり。言葉はわからなくても、歌なら雰囲気とかメロディである程度意思疎通ができるのが面白くて色々歌ってみた。JPOPから、演歌。あときゃんらぶとか。

 ああ、きゅんらぶってのはその当時僕が見ていた深夜アニメの。

 ブンゴ。君は僕より先にこの世界に来ているから知らないだろうけれど、未来ではね、深夜にアニメ放送もやってるんだよ。卑猥じゃないし! 全年齢対応の番組だし。……いや、僕オタクでもないよ。未来じゃね、普通にアニメ見たりするんだよ。本当だから。

 まあいいや。それで、きゅんらぶのエンディングとか歌ってると、村の子どもたちが檻の前に集まってね、一緒に歌ったりした。楽しかったのかおやつわけてくれたりしてね。僕に近づいたのを怒った村長が子どもたちを散らしたけれど、北島三郎とか歌うとどうも琴線に触れるものがあったみたいで、しばらく聞いてないふりして、檻の近くをうろついてたのは面白かった。

 そうやって、村人15世帯88人の好みに合わせた歌を歌ってた。


 で、二、三日立ったのかな。皆僕に慣れてきたみたいで、檻の前を通る時には挨拶交わしたり。言葉なんかわからないから、適当に相手の真似をするんだけど、昔から愛想だけはよかったから、なんとか。

 ふと思ったんだ。この檻、僕のために作られたものなのだろうかと。

 だって、森の中で第一村人にあって、捕まって村に連行された時にはすでにこの檻があったということは、一時間も立たないでこれを作ったということになるから、ここの小人達は随分手先が器用なんだなと思ったよ。

 丸太を縦に並べて、ロープで綺麗に括って。

 でも、ふと気付いたんだ。右上角隅のロープ、ほどけかかってる。

 思わず引っ張ったんだ。

 ロープがほどけて、丸太が一本横にずれたんだ。

 僕が抜け出るほどの大きさの隙間ができたんだよ。

 その頃には油断しきってホビット達の見張りもおざなりでね、ちょうどその日の見張り担当はお昼ご飯を食べに自分の家に帰ってたところだったから。

 僕もとりあえず、外に出て、少し離れた森でおしっこしてきた。

 ……いや、すごく大事よ。だって、無理矢理急造の檻だからね、中にベッドもなければトイレもないんだから。

 それまではどうしたって……穴掘ってしたり、檻の外に向かって失敬してた。

 いいじゃん、僕のおトイレ事情なんて。

 それで、さあスッキリしたところでどうしようかなと思ったら、そもそもここがどこかわかんないし、どっちに行けばいいのかもわからない。これは慌てて逃げても意味ないなと思って、村に戻ってばれないようにこっそり檻の中に戻ったんだよ。

 あとで聞いた話だと、その光景はバッチリ村人から見られてたらしいけどね。


 そんな感じで、一週間くらい過ぎたよ。

 昼間は仕事が終わって手が空いた人が遊びに来るからその人の好きそうな歌を歌っておやつをわけてもらって、暇になったらこっそり抜け出して散策。途中から抜け出してるのがばれたけれど、普通に家にいれてくれて御茶したり、いらない毛布とかわけてもらって寒さをしのいだよ。

 困ったのは雨が降った時だね。僕のいた檻、雨ざらしにあったし、屋根はないし、地面はぬかるんでるし。

 さてどうしようかなと思ってたら、ホビットの皆が藁を天上に敷いてくれたり、乾いたタオルを差し入れしてくれたりして助けてくれたんだ。

 そこまでしてくれるなら、いっそのこと檻から出して家の中で雨宿りさせてくれてもよかったんだけれどね。

 で、雨が上がった後に、地面の上に板敷きして床を作ったり、余ってる切株をもらって椅子にしてみたり、檻の中でお湯を沸かせるようにしてみたり、歌を歌う時に拍子を取るのに使える楽器を自作してみたり。そう言えば、ズボンの破れたところを直してもらったりもしたね。

 で、ちょうど二週間くらいして、近所の子どもと一緒に撒き拾いをしている時に、森の中に彼が現れたんだ。

 シルエットは中肉中背の男性なのだけれど、顔が犬だった。

 犬頭人なんて知らなかったからちょっとびびってたけれど、彼がホビット語で僕の周りにいた子どもたちに何か喋った。でも、子どもたちはもっとビビってたんだろうね。逃げ出した。

 一人取り残された僕は、どうにか身振り手振りで相手をしようと思って、とりあえず「こんにちは」って挨拶してみた。通じるわけないんだけれど、なんとなく。そうしたら、びっくりしたよ。

 突然、その犬の顔をした人が、日本語喋ったんだ。

「神語を喋れるのか? というか、デカいなお前。なんでホビット里にオークがいる?」

 第一声それだったのは覚えてる。

 で、彼の話を聞くと「近頃、この近辺に言葉の通じない異人が現れたという話で持ちきりだ。で、王都よりその者を探し出し、事情を調査し、対処して欲しいという依頼を受けてきた『案内人』だ」とのことで、どうやら僕を探してきた見たいだった。

 そいつに会いたいから村まで案内して欲しいというので、一緒に村まで帰ったんだよね。でも、村の人達は犬頭人なんて見たことなかっただろうからみんなびくついて、家の中から出てこなかった。

 その時に初めて小人から見ても犬の顔した人ってのは珍しいんだなってわかったかな。

 で、檻の前まで案内して、とりあえず中に入ってずらした丸太を元の位置に戻してから「多分、探してるの僕だと思います」って答えたら。

 うん、犬の顔した人がすごい勢いで眉間に皺が寄ってた。

「お前、これ、檻なのか?」って訊かれて、正直に答えるべきかと思ったんだけれど、そもそも檻の割に出入り自由だし、色々屋根つけたり、快適になるように改装手伝ってくれたりするし。

 もしかして、これホビットの皆はおもてなしのつもりでやってるんじゃないかなと思ったんだ。

 なんか、そういう得体の知れないお客のために慌てて用意した小屋とか、そういうつもりなんじゃないかって。

 犬の頭の人が、彼を若干怖がってる村長に無理矢理訊きだしたら【森の精霊様ではないのですか?!】とか驚いていた。

 眉間に皺を寄せたままの犬の頭の人が説明してくれるには、今この村ではちょうど精霊の祭の時期らしく、突然森に現れた僕を見て、【実在したんだ!】と慌てて捕まえてしまったらしい。檻の中に閉じ込められたのは、毎年の祭では両手の上に乗る程度の大きさなの籠を作り、【精霊の箱】と呼ばれるそれに精霊様を迎え入れる儀式を行うのだが、実際に現れた精霊様は身長2m近く体重100kg超えのため、慌てて丸太を組み立てて籠に見立てたという流れらしかった。

 そりゃもう、大爆笑したよ。久しぶりにあんなに笑った。

 犬の頭の人は「何がそんなにおかしいんだ? 怪物呼ばわりされて、閉じ込められたんだぞ」とか言うけれど、まあ、それなりに大事にされてたからいいかなと思うことにした。

 

 うん、その犬の頭の人が、ジジン・ムーゲン・メロディア。ジンさんだった。

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